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プロローグ【妙子視点】

文字通り、妙子視点でのプロローグです。


若干太郎視点に比べて地の文は硬いです。

 私は、私が嫌いだった。

 ドライアイで目の悪い私が嫌いだ。これのせいでキツくにらめつけなければまともに世界が見えないから。

 目つきの悪い私が嫌いだ。これのせいで私の周りの人が、私を怖がって避けていくから。

 私は世界が嫌いだ。私は、私の目に畏怖する全ての現象が堪らなく怖かった。


 だから、私は気づけば二次元の世界に身を浸っていた。

 漫画は良い。睨んでも、その世界の人物は私を恐れない。

 アニメは良い。登場人物たちがカッコいい姿を見せてくれるから。

 ゲームは良い。こんな私に元気を分けてくれるから。



 そう、私は現実から逃げたのだ。

 周りに合わせるのが怖かった。私の目が怖い物だと、自分で自分を蔑まなければならないのが嫌だった。

 その為に私は日に日に孤立していった。



 それでも、私には二次元の皆んながいたからやってこれた。

 虚空の存在であると分かりながら、彼らの為に自分磨きなんてこともした。

 筋トレしたり、勉強したり。彼らの世界が知りたくて歴史書なんかにも手を出して。

 間違いなく楽しかった。

 楽しかったのに……何故か、涙が出てしまう。



 私は孤独なんだよ。



 私の心の中で、私が泣いていた。

 ……分かっていたよ、そんな事。でも、どうすればいいって言うのよ。


 ふと眺めたアニメを見る。

 ぐるぐる眼鏡の変わった人の姿がそこにはあった。


 あ、そうだ。

 ――と、私は閃いた。

 これをつければ私の目は誰にも見られないのでは、と。



 でも、現実は上手く行かなかった。

 久しぶりに人と話しをして、どんな事を振ればいいのか、分からなかったから。

 動揺したら、また皆んな、私を見てくる。

 それが、あの頃の私を見られているようでとてもとても怖くて。



 私は結局、孤独のままなんだと、そう思った。

 ふと学校のグラウンドから屋上を眺める。

 そこにはいつものようにいる()がいた。

 彼は何を思ってそんな場所で思い耽っているのだろう。

 私は、なんとなく彼は、私に似ている。なんて思った。

 夕暮れの空には、真っ赤な空に真っ黒な雲が浮かんでいた。世界がもし、真紅の空であるならば、きっと私達はあの雲の様に、日によって暗くなった哀れな影。

「馬鹿馬鹿しい」

 センチメンタルに浸っていた私に呟いた。

 影に生きようと選択したのは私自身なのだから、それに愚痴るのは余りにも惨めだ。


 私は、深く深呼吸してから、帰ろうとした。

 ――その時。

 異様な地響きと共にアニメの様な現象が起こった。

 学校を囲う大きな幾何学模様が浮かび上がってきたのだ。

 何が起こったか分からなかったが、良くないことが起きている気がした。

 思わず校舎から出ようと走った時、強烈な白い光によって、意識まるごと吹き飛んでしまった。





「あのぅー☆すみませぇーん☆」

 ふと意識が戻って、まず飛んできたのが、素っ頓狂な女性の声だった。

 周りの景色は先程までとはまるで違い、少なくとも日本ではないことは理解した。

 だが、聞こえてきたのは紛れもなく日本語だった。

 私は混乱したままに、声の鳴る方へ目を向けた。

「わたしぃー☆成狼市子っていうんですがぁー☆無一文になっちゃってぇー☆お金を恵んでくれませんかぁー☆」

「は?」

 なんだこのムカつくバカ女。媚を売るにしたってもうちょいまともなのがあるじゃん。

 と、その子に意識が行った所で、その子の姿を改めて確認する。

 綺麗なストレートヘアーに、丸い目。ほっそりとして小柄な、可愛らしい少女だった。

 言葉さえまともならね。

 服はどうやら男の服の様だが……。

 あれ?これって私の学校の制服?

 ブカブカした袖で手元は見えず、ズボンは何度も腰から落ちていた。

 私はその子の胸元の名札を見て、思わず訝しんだ。


「……あんた太郎でしょ?」

 まさか、目の前の彼は性転換でもしちゃったのか。


 それを言うと、彼女?は突然目を合わせなくなった。

 口元も抑え始めるが、いきなり「ブッフォ!!」とむせ返っていたので、もはや確信に変わった。

「ブ……フプ……ち、違いまーす……。いみふめーなんで絡まないで下さー……」

「いや、胸元に名札あるやんけ」

 私が指摘すると

「え゛っ!?」とまたも素っ頓狂な声を出していた。

 気付いてなかったのか……。

 私が呆れるより先に、彼?は身を捻りながら地面に転がり、そのまま悶絶していた。

「そら恥ずかしいわな」

 見ていてなんか面白いのでそこらの岩に腰をかけた。

 ……なんか服がキツイ気がする。

 周りを見渡すと、やっぱり変わった世界観だと思った。見たことのない草木ばかりだ。

 これはもしかすると異世界?……はっ。まさか。そんな事ある?

 ふと彼女のある程度悶絶が終わると、私を指差した。

「つーかなんでお前までここにいるんだよ!」

「知らんがな」

 私が聞きたいわそんな事。さっきのことも含めて。

「……って、あれ?」

 と、私は自身の体の違和感を覚えた。私自身の体を満遍なく調べ、ある事に気付いてしまった。

「なんで私、男になってるん?」

 その時私に雷走る。

 腐漫画を描いてる私はある事実を知っておきたかったのだ。

 スカートのフックを外し、そのままパンツを伸ばして股間を見る!

「やっばい!チ◯コあるやんけこれぇー!」

 これが生◯ンか!初めて見た!

 あっ、ヤバイ。これって思いの外低い位置にあったのか。私の描いた某、もうちょい低く描き直さなきゃ……。

 私がそんな事で気が高ぶってしまうと、彼女は

「ちょ……!大きな声でそんなこと言うなや……っ!」などとつまらない事を言って来た。

「何さ、別に人もいないし構わないでしょ」

 彼女を見ながらそう言った。

 別に女の子同士なら割とフツーの会話のはず……、あっ。

 そいやこいつ太郎だった。

「これだから童貞は」

 よしっ、フォローは完璧だぜ。

「な、何をぅ!?」

 彼……。うん、次は間違えない。

 彼はそう言って握りこぶしを作り、そのまま声にならない叫びをあげていた。

 しばらく放っておいた方がいいかなと思い、考え事をする。

「はっ、待てよ……?」

 私の頭上に雷神が降臨する。

「男って事は男風呂が覗き放題……?」

「真っ先に考えてる事俺と同じじゃねぇーか!」

 彼のツッコミなんて聞いていられない。

 私の脳は既に無限に等しいホモ・サピエンスの可能性を切り開いているのだから!

「男同士の筋肉の見せ合い……、そこから肌を触り合い、然るのちにハッテンするのでわぁ!?」

「ねーよっ!ぜってぇーねぇーよ!!」

 外野がうるさい。

「いや、あんたバカね。ここがもし中世の時代とかならね、割とそういう事ってあったそうよ。これだから学のないバカは困るわー」

 早速私は彼にマウントを取っていく。

「はっ!?マジ?」

「マジもマジ。……まぁ、それのせいで病気感染して、半世紀ほどして無くなったんだけどね……」

 悲しきは当時の衛生面の拙さよ。

 まぁ、病気=悪魔みたいな考え方していたし、仕方ないけど、ここは都合良く衛生面が完璧だったりしないかしら。

「つーか、実際それがあったとして、お前も掘られるだけだろ」

 はっ、気付かなかった。まさか、こいつ天才か?

「イ、イケメンならセフセフ!あっ、いやでも……」

 私が主軸としてイケメンが相手をする……?いやいや!気が重い!

 その事を彼にうっかり言ってしまうと、彼はなんか如何にもって感じにドン引きしていた。

 ……デスヨネー。

「もう少し自分に自信を持てよ。なんか悲しくなるから」

「大丈夫、アンタよりはマシだっていう自信だけは確実にあるから」すんなりと言葉に出てきた。

 すると、彼は怒り出した。

「この野郎!」

 と。ちょいちょい、ちょい待ち。天才かと思った私がバカだったわ。日本語不自由さんめ。

「誰が野郎よ!野郎って言葉は男に対して向ける言葉なんですぅー!」

「股間を見てから言いやがれぇ!今のお前、実際に男だからぁ!」

 そいやそうだが、もうその言葉に私はキレちまったぜ。

 そういう事ならやってやろうじゃない!

 そうして喧嘩が始まり、先に手を出したのは彼だった。

 右手に握りこぶしを作り、ストレートパンチを繰り出す。

 ぽふっと可愛い音が鳴った。

「……」

 私は軽くしゃがんで彼の額にデコピンを入れる。

「いったぁぁぁい!」

 あ、なんかこの反応面白い。なんだろう、イジめたくなる感じっていうの?

 そのまま頭を掴んで、グリグリとかき乱したら、またも、面白い悲鳴を上げている。

 そのまま彼は力尽き、ばたりと膝を地面につけた。

「ごめんなさいは?」

「ごめんなさい」

 素直でよろしい。


 ふと、私の心の中にある想いが喜び跳ねているのを感じた。

 あぁ、こんな姿になって初めて、人と遊んだんだな、と気付いた。

 ……なんか少し嬉しい。

 こんなにも心の底から本心を曝け出して話すのが楽しいとは思いもしなかった。

 彼と私は似ている、なんて思ったけれど。

 もっと早くから会話していれば良かったな。


 ふと、そんな感傷に浸っていると、彼はなぜか、そこらの木の前に立ち、正拳突きをして、そのまま変な声と共に、その手を撫でながらしゃがみ込んだ。

「……なにやってんのよ」

 あまりにも悔しかったから、つい木に殴ってしまったのかしら?

 ……少し、やりすぎたかもしれない。

「……こっちもごめんなさい」

 小声で呟いたが、それは風と共に飛んでいき、彼の耳にまで届かなかった。



 それからしばらく時間を置いて、両者の頭が冷えた頃になって現状把握を図った。

 とりあえず、彼が元々立っていた場所まで行って、周りに不審な物がないか探してみた。

 が、それらしい痕跡はなかった。

 せめて他人の足跡があれば、それを頼りに出来るのだが……。


 ふと、近くに泉がある事に気付く。

 ルビー色をしたキラキラと輝く不思議な泉だった。

 泉の端に映し出された反転した木々と空が、まるで太陽のように輝くさまに、目が奪われる。

 なんて綺麗なのだろう。

 思わず息を飲む。

 もっと近くで見てみたい、と泉に近づいて、ふと、顔を覗きこむと、そこには容姿の整った男の顔があった。


 私が嫌いだったあの睨みつけるような目は、男になって凛々しさへと変貌していた。

 落ち着きのあるような、そんな目つきになって。

「……っ!」

 ホロリと涙が溢れる。まるで夢なんじゃないかと思えてしまう。

 ……私は、似合わないと分かっていながらつけていた眼鏡を外した。目隠しは、もう不要だ。


 これが、今の私。

 すっ、と頰に触れてみる。撫でる。つねる。

 イタタタ。


 ……!痛覚がある。

 これは、夢じゃないんだ!



 私は軽快にステップを踏みながら、太郎の元に戻っていった。




 それから、どんな話をしたかしら。

 確か、お互いの容姿がどうのこうのっていう流れになって……。

 それから色々話していく内に「とりあえず街を探しましょうか」と、なったのだ。

 その言葉に、彼はふと顔を伏せながら呟いた。

「街についてから……。それからどうするのだろう」

 と。どこか暗めな顔に見えた。


 えっ、なんでそんな顔を伏せるの?もしかして、私といるの気まずい?

 私が腐女子だから?確かに引いているのは分かっていたけど……。

 でも、やっぱり一人は不安だし、一緒にいてほしい。

 …なんて言うのはおこがましい、のかしら。

 あぁ、それになんだか恥ずかしいわ!まるで告白みたいじゃないの!違う違う!そんなんじゃないわよ!


 でも、言わなきゃ。もうちょっと一緒にいようって。


「まぁ、ある程度情報集まったら解散じゃない?ぶっちゃけ私とアンタって学校じゃ接点ないし、気まずいだけっしょ」


 ぁぁぁぁぁぁあ!!

 違うでしょ私!なんでここで日和っているのよバカじゃないの!?


「オーケー。ならそうしよう」

 え゛っ!?

 いいの!?嫌よ!一人は怖いよ!


 なんてことは口に出せずにそのまま途方も無い道を歩くのだった。




 でも、まだこの先も続く。

 だって。

「「ここどこぉ!?」」



 道に迷っちゃったし!

と言うわけで、次からが第1話となります。


この二つは二人それぞれの視点でしたが、これからは三人称視点で書きます。(所謂多元視点)

なので、文に違和感を覚えるかもしれませんが、ご了承ください。

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