魔獣の壺 - 番外編 - 転移の魔法陣講義 -
この話は、パイン達がカイン王国の傭兵学校で指導を受けていた
頃の話である。
連合暦20年5月20日、
パイン達は、転移の魔法陣の講義を受けていた。
講師:「さて、魔法陣と呼ばれる物の中で最も利用されている
魔法陣は何でしょう?
パインさん、どうですか?」
パイン:「えっ、えーと」
パインは初めてその効果を実感した転送の魔法陣を
思い出していた。
そう、カイン王国からカルラド王国へ飛んだ魔法陣だ。
パイン:「転送の魔法陣ですか?」
講師:「そうですね。
魔導士以外が目にするのは転送の魔法陣ですね。
傭兵であるならば、帰還の巻物なども有名です。
これらは転移の魔法陣で構成されています。
今回はこの転移の魔法陣について講義を行います。」
魔法陣は魔法陣に書かれた魔法文字と魔晶石の力によって
様々な効果を生み出すことができる。
その中でも最も利用させている魔法陣が転移の魔法陣である。
講師:「転移の魔法陣は2つ以上の魔法陣で構成されます。
1つは転移先の魔法陣、残りは転移元の魔法陣です。
つまり、転移の魔法陣は1対多で構成されていると
言えます。
今回は話を分かりやすくするために1対1の場合を
説明することとします
転移元の魔法陣を転送の魔法陣と呼び、
転送先の魔法陣を転受の魔法陣と呼びます。
それらを纏めて転移の魔法陣と呼びます。
つまり、転送の魔法陣とそれと対になった転受の魔法陣で
転移の魔法陣が作られるわけです。
転受の魔法陣という呼び名は通常使われません。
対で考え転移の魔法陣という呼び方をします。
基本的な事ですが、対になった転移の魔法陣は
一方通行だという事を忘れないでください。
転移元から転移先へ送ることしかできません。
転移の魔法陣がどのように機能しているかは、残念ながら
解っていません。
一説には空間を捻じ曲げ繋げていると言われています。
他説では六界以外の世界があり、
その世界を経由しているという説もあります。
一部の人々の間では、召喚の魔法陣と同じで突然魔獣が
召喚されるのではないかという不安の声もあります。
しかし、人間界以外の世界とつなぐほどの力は
ありませんので安心してください。
さて、魔法陣の作り方ですが。
まず魔晶石の粉と土を混ぜた魔晶土で土台を作ります。
この土台の上に転受の魔法陣を描きます。
そして、定着するまで一ヶ月ほど待ちます。
なお、定着にかかる時間はその環境や地質によって
変わります。
定着の確認方法は残念ながらありませんので
経験と勘により行う事になります。
そのため、定着期間を特定しやすくするため、
魔晶土で土台を作るわけです。
さらに定着までの間、術者は定期的に呪文を
唱えなければなりません。
十分に定着したら転受の魔法陣は完成です。
もし、完全に定着せずに次の作業に進んだ場合、
魔法陣は壊れてしまいますので注意が必要です。
転受の魔法陣が完成したら、
続けて転送の魔法陣を作ります。
転送の魔法陣を作るには、転受の魔法陣を使います。
転受の魔法陣の上に魔法紙*1を敷き、魔晶石の粉を混ぜた
インクで転送の魔法陣を描きます。
この魔法紙から帰還の巻物が作られるわけです。
地に描く転送の魔法陣の場合、魔法紙に描かれた転送の
魔法陣を魔晶土の土台の上に敷き、魔法で転写します。
成功すれば、魔法紙に描かれた魔法陣は消え、
土台に魔法陣が移し替えられます。
しかし、転写した魔法陣は多くの使用には
耐えられないでしょう。
転写した魔法陣を維持するためには、
転写を繰り返すしかありません。
そのため、転送の魔法陣は使用回数に応じて
補修する必要があります。
なお、転移の魔法で使われる魔法の力のほとんどは、
転送の魔法陣で消費されます。
このため、転受の魔法陣は1度作れば壊れるまで
補修することなく使用する事ができます。
これは非常に重要な事です。
過去に作られた転受の魔法陣を再利用することが
できるのです。
大抵の場合、転受の魔法陣は安全な場所に作られます。
転送の魔法陣を描くことができれば、必要な材料があれば
その場で転移の巻物を作る事ができるわけです。
それでは、実際に帰還の巻物を作ってみましょう。
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」
講義が終わり、パイン、アリス、サール、ジェイル、シェリルの
5人は、食堂で会話していた。
パイン:「だめだ、全く分からなかった。
特に、後半の魔法文字の辺り。」
ジェイル:「同じく。」
サール:「あぁ、それならば問題ないですよ。
講師の先生も言っていましたよね。
魔法陣研究を志す魔導士以外の人は
わからなくても問題ないって。
前半部分を理解していれば、
利用することは出来る訳です。」
アリス:「そうそう、私も分からなかったよ。」
シェリル:「私、なんとなくですが分かりました。」
サール:「えっ、すごいじゃないですか。」
シェリル:「理解したというより、思い出したみたいな。」
アリス:「記憶が戻ったの?」
シェリル:「いえ、なんとなくなのですが、知っていたという
感じがするんです。」
サール:「あのズールの娘さんだし、魔法の知識があっても
おかしくはないと思いますよ」
*1:魔法紙
10年樹の木の繊維で作った紙。