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怪奇討伐部Ⅲ  作者: グラニュー糖*
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刺客

今回も挿し絵あります!

第八話 氷の吸血鬼



「あー、腰が痛い!休みたい!」


 あーだこーだ騒ぎながらツルツルの茶色い机に突っ伏すのは死神王のヘッジである。彼の様子を見てサポーターであるバルディは静かに彼の頭を叩いた。


「始めたばっかりじゃないですか。いい加減慣れてください」

「じゃあせめて飲み物くらいでも……」

「置き場がないですよ。書類を片付けてからなら持ってきてもいいですよ。それに異常なほど飲むじゃないですか」


 バルディは机の上に積まれている書類を見て呆れながら言った。


 書類には、これから死神たちが回収する魂の人生の歴史について書かれていることが多い。あとは意見を書いた紙や、手紙などだ。しかし、じっくり読む必要はあまり無い。大抵「死神が来なかったら永く生きれるのに」のような内容ばっかりだからだ。


「だってさ……後遺症のせいで飲んでも飲んでものどが渇いちゃうんだもん」


 ヘッジは首につけた大きな銀色のわっかを爪でキンキンと音を立てながら指した。


 これはカリビアが作ったマジックアイテムだ。どうしてもこのサイズにしかならなかったらしい。そしてこのわっかの下には妻である吸血鬼リメルアが咬んだ痕がある。今でも熱くなって疼くようだが、このわっかのおかげで大分抑えられている。

 彼は一度吸血死神となったが、元に戻ったので血を吸わなくても生きていられる。その代わりとんでもなくのどが渇くようだ。この面倒な後遺症にバルディも手を焼いている。


「だからと言ってお酒ばっかり飲まないでくださいよ。仕事中ですよ?酒豪だからって理由じゃダメですからね」

「俺は日本酒が好きだぞ」

「そんなこと聞いてませんよ……」


 バルディはドラゴンソウルの影響を受けた左手を腰に当て、右手を顔に当ててため息をついた。誰が見ても苦労人だと一目でわかるだろう。


「あと肩凝りとかはその首の飾りが原因だと思いますけど」

「これは大事だよ」

「わかってます。ですが……」

「大丈夫だって!俺はいつも死神のままだから。そうだろ?」

「……はい」


 悲しそうな顔をしていたバルディはヘッジの言葉を聞いて一瞬驚いた後、安心したのか嬉しいのかわからない表情で返事をした。恐らく彼の心配事はそこにあったようだ。

 ヘッジはバルディの様子を視界に入れ、おもむろに立ち上がり、彼の後ろにある大きな窓の外を睨んで呟いた。窓の外は吹雪しか見えていないはずだが……。


「……いい加減出てきたらどうだ?」

「あーあ、見つかっちゃった。いつからわかってたの?」


 窓の外から二人の様子を観察していたサメラとこの私、ヤーマイロはニヤニヤしながらヘッジに問いかけた。やっぱり死神王にかくれんぼなんて挑戦するんじゃなかった。魔力探知されてしまうから。


「飲み物の話した時からだ」

「つまんないの。ねー、サメラ」

「そうだな、ヤーマイロ」

「雪だるまにしてやろうか」

「……」


 私はいつも同じ返事しかしないサメラを本気で雪だるまにしようかと思って言ったのに、まさか無視されるだなんて。あとで雪だるまにして焼いてやる。


「で、お前たちは何しに来たんだ?お前らの主人は魔王城の独房にいるはずだが」

「その事なんだけどさ、ライルに頼まれてアンタを呼びに来たんだ」

「俺を?」

「ついてきてくれるよね?」


 ヘッジはバルディに「行ってもいい?」と目で訴えていた。バルディは再びため息をつき、首を縦に振った。


「よし、じゃあ早めに来てよね!私がつれてってあげる。バルディとサメラは残っててね」


 伝わったのかはわからないが、その言葉を告げてから私とサメラは座っていた木の枝から降り、死神王が仕事する建物の前に向かった。



__________



「ヘッジ様、本当によろしいのですか?罠だとしたら……」

「大丈夫。何が起こってるのか気になるし……襲われたとしても対処するから」

「でも、あなたに何かが起こればあの子は……」

「ムジナは大丈夫。ヘラくんがついてるからね。それに最近は友達も増えたしね」


 俺は机の上に置いてある写真立てを手に取った。これはみんなが集まったからというよくわからない記念で撮ったもの。

 中心ではムジナとヘラくんがピースをし、スクーレがレインの腕を引っ張っている。レインは恥ずかしそうにそっぽ向いているリストの肩に手を置いている。俺とカリビアは右の方で話をしているところをカメラに撮られてしまった。


「まさか死神であるムジナに人間の友達ができるなんて。俺はとても嬉しいんだ」

「昔共にいたと言われるシフさんはどうなのですか?」

「あー……保護者的な?」

「……」


 バルディは疑いの目をこちらに向けて黙った。話だけは聞いていたが、シフってのに会ったことないし当然だろう。


「さて、そろそろ行かないとな。吸血鬼でもさすがにクノリティアの寒さにはこたえるだろ」

「ヘッジ様……罠だとしても行かれるのですか?」

「もちろん。必ず帰るから」


 俺はドアの横に置いてある自分の鎌を片手に、ドアノブを回しながら返事をした。バルディがついてくることはなかった。

 そしてドアを閉めたときの音がいつもより大きく聞こえた。


 外に出ると、体をさすっているヤーマイロが嫌そうな目付きでこちらを睨んでいた。まるで体全体で「遅い」と言っているかのように。


「あはは、ごめんごめん……」

「おっそーい!めちゃくちゃ寒いの知ってるでしょ!?」

「ま、まぁね……」


____とても最近外に出ていないとは言えないぞ……。


「目を逸らさないで!ほら行くよ!お城に!」


 ヤーマイロが俺の手を掴む。その手は氷のように冷たかった。


「……こんなになるまで待っててくれたんだな」

「ん?何?」

「せめてその手を暖めさせてくれ。冷たいから」

「なっ……!」


 吸血鬼の顔はもとから青白い。しかし今はどうだ。寒さのせいなのか、とても赤くなっている。やっぱり暖めなくては。


「この変態!」

「いったぁ!?」


 なぜか思いっきり顔面に平手打ちを受けた。


「な、なんで!?寒くないの!?」

「そういうことじゃないの!」

「は、え?!」

「黙って行くこと!いいね?!」


 怒ってずんずん先へと進んで行ってしまうヤーマイロの背中を見て、訳が分からずその場に立ち尽くしていた俺は大きくため息をついた。



__________



「元気ですね」

「……そうだな」


 残された私とサメラさんは窓の外でギャーギャー騒ぐヘッジ様とヤーマイロさんを見て話していた。


「紅茶でもご用意いたしましょうか?」

「あぁ。悪いな」

「どの紅茶にしますか?」

「何でもいい」

「かしこまりました」


 私は一礼をしたあと部屋を出た。


 見たところ、何も異変はないようだ。単なる勘違い……いや、考えすぎだったのかもしれない。


 魔王城には当然のことながら「魔王」がいる。昔から魔王がしていることは、「魔王軍」の一人である「カリビア・プルト」という人を探すことだ。なぜその一人だけを探しているのか?その理由は生存者の数にあり、彼のみだかららしい。その命令は極秘ではなく、恐らく魔界全土に渡っているだろう。そしてその内容は「彼を殺すこと」だ。証拠隠滅というだけで殺してしまうのはナンセンスだと思うが、仕方がないことだ。


 それともう一つ問題がある。それはカリビアさんはヘッジ様の親友であり、師匠であり、命の恩人であるということだ。私も一度だけ会ったことがあるが、彼は両腕に肘辺りまで包帯を巻いていた。後にヘッジ様に聞くと、初めて会った時、炎から守る代わりに火傷を負ったようだ。それは今も治らないようで、治すこともできないらしい。とても痛々しい話だ。


「この紅茶にしましょうかね」


 私は左腕だけドラゴンソウルの影響を受けているのだが、ちゃんと機能している。なのでいつも右手だけでプレートを持っているのだが、いつもヘッジ様に「あー、それ一回人間界で見たことあるわ……なんだっけ、ウェイターだったかな」と言われた。なぜそんな人がいるような場所に足を踏み入れたのかは不明だが、不思議とその言葉に顔が引きつった。まぁやっていることは大差無いでしょう。


 私は右手でプレートを持ち、左手でドアノブを回した。カチャリと軽い音を立て、ドアが開いた。少し冷たい空気が私の体に吹き付ける。どうしてだろう?と思い、部屋の真ん中を見ると、こちらを見つめるサメラさんと水色の氷でできたヘッジ様の氷像があった。私は驚き、思わず窓の外を見たが、二人の姿はなかった。私はこの氷像が作られた意味が分からず、目を白黒とさせていると、サメラさんが私の右手にあるプレートの上のカップを手に取って口に運んだ。


「おいしい」

「……っあ、どうも……」


 我に返った私はサメラさんに礼をし、ヘッジ様が仕事をする机のとなりにある小さな机にプレートを置いてから氷像をまじまじと見つめた。


 綺麗に彫られた目や口。シルエットだけを見ると本物と見分けがつかないだろう。こんなことはあり得ないが、まるで本人をそのまま凍らせたような……。しかし、どんなにリアルに作ってもどこか必ず違和感を感じるところがある。それはこの氷像も例外ではなかった。首もとにある銀の輪。それが無いのだ。単に忘れていただけなのか、それとも吸血死神には戻らないという気持ちの現れである輪を無くし、再び吸血鬼に戻そうとする企みなのか……。私にはわからないが、あまり愉快ではない。とにかく褒めておこう。


「……氷像ですか。お上手ですね」

「ありがとうな。氷系の魔法が得意なんだ」

「そうなのですか……はっくしゅん!」

「大丈夫か?」

「えぇ……」

「氷の近くにいるからだろう。それか疲労か?とにかくゆっくりして寝ているといい。ここは見張っておく」

「そんな、申し訳ないですよ!」

「任せろって」

「……わかりました」


 私は椅子に座りながら異常に寒く感じるのは私だけなのかと思い、サメラさんが持っているカップを見たが、中の紅茶は何事もないかのように湯気を立てている。椅子も氷のように冷たいと思ったが、そうではないようだ。吐く息が白い。自分だけ違う世界にいるようで気持ち悪い。


「……ゆっくりしていいぞ……ずっと、な」


 サメラさんがカップを机に置き、私に向かって言葉を発したが、寒さのせいか思考回路が完全に停止した私の耳に届くことはなかった……。


「ヘラより確実な力を持つバルディ……あの死神が気づくまでお前に協力してもらうからな。レインにした魔法をお前にもかけてやる」


 こうして意識の無い私は氷に包まれた。


挿絵(By みてみん)

どうも、グラニュー糖*です!


挿し絵というかすでにただのイラストを載っけてるって感じですねw

ヘッジさんです。ステンドグラスの真ん中はハレティです。

左から天国、霊界、地獄……というか魔界?を表してます。

どこに行くかは霊王次第……。


では、また!

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