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怪奇討伐部Ⅲ  作者: グラニュー糖*
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人間たちの覚悟

第五話 人間、それぞれの願い



__________



「……先輩、僕、これからどうしていったらいいんでしょうか……」


 僕は誰もいなくなった部屋で一人、携帯電話の画面を見つめていた。黒いケースに入っており、少し手に収まりきらない大きさの液晶。最近大人も子供も持っているスマートフォンというものだ。


 その画面には先輩の名前と、彼のアドレスが記されていた。

 メール、電話、編集……。様々な選択肢があるが、今僕が押すことができるのは編集だけだ。なぜなら、この任務が終わるまではこの『怪奇討伐部』といわれる組織以外の人物と通信をしてはいけないことになっているからだ。


「……やっぱり寂しい?」

「わ、わっ!?……あなたでしたか……シフくん」


 急に端末を覗き込んだ影の正体は、この任務のリーダーであるシフという男の子だった。これでも随分昔から政府などに信頼され、様々な任務をこなしているという。僕が知っているのは、たった一人で魔界に赴いたこと……。


「驚かせちゃってごめんなさい。あの、黒池さんって、どんな職場にいたんですか?」

「僕は刑事だよ?普通に事件とか解決してたけど」

「でも黒池さんの部署って秘密の部署という話を……」


 あの部署の話を持ち出されたとき、脳内で戦慄が走った。


「あはは、やっぱり調べたのか」

「はい。あそこは珍しい力を持った方が集まっていると聞きました」

「でも僕は一番珍しくないかもね」

「どうしてですか?」

「それは……僕はただ、剣を持ってただけだからね」


 シフくんのただ知りたいという知識的欲求を少しだけ満たし、僕は端末を操作して機内モードにした。チラッと彼を見ると、僕の気持ちを察したのか、先程より疑い深い瞳をしていた。それを見たとき僕は何でも隠したがる意地悪な大人の気分になってしまった。……とても気分が悪い。


「……剣を持っただけであの部署に送られたのですか?」

「うん。でも面白い人ばっかりだよ。危ない仕事ばっかだったけどね。普通の人間だとできない仕事……何度も死にかけた。でも正直、僕はあのままがよかった。魔界行きを知らされたときは悲しかった。もう会えないかもってね」

「……じゃあさっきの先輩のこと、大切に思ってたんですね」

「そ、そんなことないよ!あの先輩には迷惑ばっかかけられたし……」

「でもさっきは画面を見てた。他にも部署の人がいたのに。どうしてですか?」

「それは……」


 僕は結局シフくんの質問に答えることができなかった。しかし、僕は無意識に写真アプリのフォルダを開いていた。そして同時に先輩の言葉を思い出した。


____黒池ちゃん、悲しいとき、寂しいときはこの写真を見て。きっと力になってくれるはず。また会えたら……いっぱいお話ししよう。黒池ちゃんの土産話、楽しみにしてるからね!絶対……生きて帰ってきて。約束だからね!


 僕は自然と涙が溢れ、画面をまともに見ることができなくなっていた。どうしてあの先輩のことを思い出すといつもこうなんだろうか。最初は僕と先輩だけだった。だけど、それからどんどん人数が増えて……。元気な後輩に、姿を見せてくれないパートナー。みんな大好きだった。仲が良いかどうかは別問題として、みんな大好きだった。今からでも戻りたい。でも魔界という別の世界に行くのが僕らの役目。きっとまた戻って話ができたらいいな。僕の背中を押してくれる大切な仲間のもとへと帰る、それだけだ。


 気がつくと、隣にはもうシフくんの姿はなかった。僕は急いで袖で涙を拭き、部屋をあとにした。



__________



 私の弟はいつも暗い部屋にいて、電球を一つだけ付けて作業をしている。


 その作業というのは機械を作ったり設計図を描いたりと、発明家じみている。そんな弟の作品は一級品だ。大抵は彼の携帯電話で遠隔操作できる仕様になっている。


 彼は身の回りの整理が苦手なようで、よくあの設計図はどこだ、鉛筆はどこにいったと探し回っている。

 そして今日もまた同じように机に向かっている。あの年頃は勉強がどうたらと言うが、イリアには必要ない。あの子は一般の人間の頭を越えているからだ。今日は寝間着のままドライバー片手に爆弾のネジをしっかりと止めている。私はもう夜中なので弟を寝かせるために話しかけた。


「イリア、今日はその辺にしておいたら?」

「ううん。まだまだだよ。戦いに向けて爆弾作っとかないと」


 彼は前を向いたまま素っ気なく答えた。


「あのねぇ、あなたはまだ小さいのよ?ちゃんと寝なさい」

「……お姉ちゃんっていつもそうだよね。先に寝てりゃいいじゃん。子供じゃないんだから。もしかして一人で眠れないの?」

「な、何ですって!?」

「怖いんでしょ?」

「怖くないわ!何か出ても知らないわよ!?」

「何かって何だよ。ここは日本だよ?アメリカじゃないんだから」

「もう……好きにしなさい!」


 私は堪忍袋の緒が切れ、勢いで部屋の外へ飛び出した。私は向かいにある自室のドアを開き、座り込んでしまった。

 怖くないって言ったけど、本当は怖いのだ。いつ機械が暴走したりしてイリアを傷つけてしまうのか、ということが。私が弟のことを気にかけない日なんて一日もない。私の大切な大切な弟だから。もう手放したりなんかしない。これが最後のチャンスなのだから。だからごめん。私のわがままのせいでこれから死にゆく悪魔たち……許して。



__________



 明日の予定は最終作戦会議、及び準備。デスさんはさっきまで隣でその話をしていた。なんでも、僅かな情報でも頭に叩き込み、少しでも勝率を上げたいからだそうだ。デスさんはああ見えてかなり真面目のようだ。


「ヘラさんとムジナ……俺のこと、覚えてる……よね」


 俺は側に立て掛けた銃を見て呟いた。自分の腕より大きなショットガンと言われる銃だ。なかなかの威力で、暗殺向きではないが致死性はあるだろう。だが、俺はそれをヘラさんとムジナに向けるようなことはしない。ムジナにはこの俺を呼び寄せたことがどれほど愚かなことだったかを思い知らせねばならないからだ。なぜなら、この俺を魔界へと呼び寄せ、情報を流したからだ。ムジナのおかげでこの作戦があると言っていい。


「俺のこと……忘れてたら承知しないんだから」


 俺はぎゅっと拳を握りしめて言った。すると後ろをポンポンと叩かれたので振り返ると、そこにはイリアくんが立っていた。その手には箱があった。きっと『アレ』が完成したのだろう。


「あぁ、イリアくんか」

「……完成したよ。これはさすがに疲れた。もう寝る」

「そっか。こんな遅くまでありがとう」

「ふぁぁ……ほんとだよ。お姉ちゃんに怒られたし」

「そ、それはごめんね」


 あくびをしながら目を擦るイリアくんの頭をそっと撫で、礼を言うと彼は不機嫌そうな顔をした。何か気に障ることをしたっけ?


「いいけどさ……ほんとにそれ使っていいの?悪魔たちと知り合いなんでしょ?それを使うと見境無く攻撃することになるけど」

「いいんだ。今も昔も……俺は人間だから」

「……そ。好きにしたら?おやすみ」

「ふふ、君はいつもクールだな」

「そんなつもりはない」


 彼は眠いのか本当に不機嫌なのかわからない表情でこちらを睨みつけ、右手をヒラヒラと振りながら自分の部屋へと歩き出した。


「……知り合い、か……」


 俺は受け取った幾つかのチップを眺めながら呟いた。


 俺は悪魔のことをただ情報を聞き出すための道具としか思っていなかった。


 だが、他の人から見ればどうだ?知り合いだの友達だの言ってくる人がいる。俺は今までそんなことを思ってもいなかった。……いや、一度は思ったことがある。あの霊王が関わったときだ。俺が囚われて……ムジナとヘラさんが一生懸命助けようとしたとき、俺は……。

 ……今、そんなことを考えてしまったら明日戦えなくなる。これは一種の誘惑として考えておかないと。悪魔の誘惑ほど恐ろしいものはないのだから。俺は誓った。悪魔は悪魔。人間以外の怪奇は倒してしまわないといけないと!


 明日から始まる戦いは何日かかるかわからない。もしかすると一年以上かかるかもしれない。だが、これだけは……この戦いだけは制したい。


 あの方の……頼みだから。

どうも、グラニュー糖*です!


「あの設計図はどこだ」←それな

「鉛筆はどこだ」←それな


先月鉛筆探してました。見つかってないです。


では、また!

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