現代科学者マリフ
第四話 現代
家出をして、途中で出会った女性に運ばれていったオレは彼女の家で治療をしてもらい、驚くべき光景を目にすることになった。
「わぁ……何だこれ?!」
「光線銃っていうの」
「光線銃?」
「ちょっと貸して」
彼女は光線銃を手に取り、外へ出た。彼女の家は森の中にある。家の近くにあった切り株に木の実を置き、光線銃を構えた。彼女が引き金を引くと、ジュッという音と共に木の実が消えた。
「すごい!」
「あ、触っちゃダメだよ。めちゃくちゃ熱いから」
「えっ」
オレは思わず飛び退いた。
「そういえばキミ……カリビアの友達かい?」
「うん!お兄ちゃんがカリビアさんの親友……で……」
「どうしたの?」
「……お兄ちゃんなんて嫌いだもん……」
「お兄ちゃんと喧嘩でもしたのかい?」
「……」
オレは静かに首を縦に振った。彼女はどうしてカリビアさんのことを知ってるのだろうか。
「どうしてボクがカリビアのこと知ってるの?って顔してるね」
「し、してる!?」
「だって不思議そうな顔してるし。知りたい?」
「うん!」
「いいよ、教えたげる。そこ座んなさい」
彼女は光線銃を置き、代わりに袋から取り出した棒つきの飴を口に運んだ。
「カリビアはボクの弟子だ。昔カリビアはボクが作った武器を部下に使わせててね。ボクの腕前に感動したカリビアはボクに弟子にしてくれって懇願してきたんだ」
「だから鍛冶の知識を……」
「そ。でもボクの飴だけはいらないって……キミは食べる?」
「い、いいです」
オレはドン引きして遠慮した。彼女が持っている飴の色が怪しすぎたからである。
「えー?酢豚味がダメなら……タコス味は?」
「いいです!」
何て物を持ってんだ、この人。というかよくそんなものが売ってるな。
「せっかくボクの手作りキャンディあげようと思ったのに」
「手作りなの?」
「そうだよ。あ、七味味でも作ろうかな……」
「どうして辛いのばっか作るの!?イチゴ味とか作らないの!?」
「そうしても意味ある?作業中に栄養を取るためには飴にしないとダメなんだ!」
拳を握り、口の中の飴を砕けさせてまで熱弁する彼女。一品分の栄養を含ませるなんて、飴を何にしたいのだろうか。
「でもちゃんと食べないとダメだよ?」
「あはは、わかってるわかってる!カリビアにもよく言われたよ。『師匠、ちゃんと食べないと死にますよ!』ってさ!」
「それでも治らないから、オレだって心配を通り越してよくやってるって言いたくなるよ……」
「おっ、ありがとな!」
「褒めてない!」
ガミガミ言うのが嫌だからこの前カリビアさんは嫌そうにしてたのか……。
「そういえば師弟関係で思い出したんだけどさ、カリビアって弟子が出来たんだっけ?確か……ヘッジ!」
「……そうだけど、何?」
「あれ、知ってたんだ」
「だってさっき家出したのはヘッジお兄ちゃんが原因だし……」
オレは下を向く。
だが、この人はオレの肩を叩き、こらえきれないという表情をした。
「あっはっはっ!こりゃ傑作だな!ボクの弟子の弟子の弟が家出だって?ちゃんと自分の下の子の面倒を見る修行もさせるべきだったな!」
彼女は女性らしさの欠片もなく、大口を開いてゲラゲラと笑いながら机を叩いている。オレはそんな彼女を見て、だんだんと怒りの感情が湧いてくるのを感じていた。
オレがこんなに悩んでいるのにこの人ときたら何だ。こんなにゲラゲラと笑って。知り合いかはわからないけど、オレのお兄ちゃんのことで笑われるのは気に食わない。許さない。
オレは堪忍袋の尾が切れたのか、机をバン!と叩いてその勢いで席を立った。
「あの!さっきから笑って何なの!?オレがこんなに苦しんでるのに!もういい、帰る!」
「お、帰るのか?お土産いる?」
「ふざけないで!飴なんかいらない!バイバイ!」
オレは無我夢中で彼女の家から飛び出した。
よく考えれば最初から怪しい人だった。女なのに『ボク』とか言ったり、光線銃とかいう変な危ない物を持ってたり、変な味の飴を持ってたり、カリビアさんやお兄ちゃんをバカにしたり……。服装も変だった。幾何学模様で、赤と黒のカラーリングなので目がチカチカしそうだった。
彼女の家から転がるように逃げてきたオレの目に写ったのは、とても心配そうに雪を掻き分けてオレを探すお兄ちゃんの姿だった。しかしバルディさんの姿は見当たらない。どうやら彼の目を欺いてここまで来たのだろう。
「お兄ちゃん……」
「ムジナ!どこ行ってたんだ!?」
「……ごめんなさい」
「まったく……とにかく無事でよかった……!」
ぎゅっとオレを抱き締めるすっかり冷たくなったお兄ちゃん。その瞳には大粒の涙が溢れていた。
森の奥の奥にある研究所……。そこで電話の呼び出し音が響き渡っていた。その受話器を上げたのは頭にゴーグルを付け、なんとも奇抜な服を着た女性だった。
「……あぁ、キミか。ボクはいつでも準備できてるよ。……え、キミたちは魔力無いの?そっか……じゃ魔力製造装置でも作っとくから、今から地図送るからその場所に来てよ。……あぁ、それなら気に入ってくれた子がいてね……うん、ボクの弟子の弟子の弟だよ。なかなか面白い子だったよ……ちょうどあの子の友達だって?……へぇ、面白くなりそうだな。そろそろ飴できるし切るよ。キミだけだよ、ボクの飴をわかってくれるのは。今回はチョコ味だよ。ん?ほんとのチョコ食えと?ボクは飴が好きなんだよ。あっはっはっ、じゃあねー」
彼女は誰かと話したあと、受話器を元に戻した。彼女は後ろを振り向き、光線銃を見ながら呟いた。
「……世の中にはいい人だけがいるというわけじゃないんだよ」
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赤レンガの建物で有名なバノンに一軒だけ鍛冶屋があった。そこでは毎日騒がしい面子が集まっていた……。
「あーもー、忙しー!」
「口より手を動かしてくださいよ。俺だって忙しいんですから」
「わかってるよー!あ、換気扇回さなきゃ。暑い暑い」
「窓で十分です。てか換気扇なんて言葉、どこで知ったんですか。人間界の道具ですよ?」
「ヘラくんだからそんなこと言えるんだよ!炎使いだから!」
「それを言うなら、その仕事を終わらせて、魔法を使えるようになってからにしてください」
「それじゃ一生言えないよ!」
負傷したレインの代わりに店の手伝いをするヘラ。カリビアはレインよりヘラの方が小言を言うし、細かい人だと言っている。最近オレはこの店に訪れるようになった。オレの知り合いであるレインが勧めてきたのだ。
「それぐらいにしたら?カリビア困ってるぞ」
「ほら!リストもそう言ってるぞ!」
「二人は甘すぎます!これでもめちゃくちゃ優しくしてるんですよ!?」
「出たよ、ヘラくんのオカン気質……」
「何か言いましたか?」
「え?!言ってない!」
「ヘラこえぇ……」
数年前なんかすごい静かな人だなと思ってたのにまさかこんな小姑みたいな人だったとは。
「あの……修理良いですか?」
「え、あ、はいっ!」
(助かった……)
新たに来店してきた客にカリビアは救われたという表情をしながら接客を始めた。……っておい、オレの鞭はどうなるんだよ。
「リスト、あの鞭は俺がやるよ」
「ヘラ……お前できるのか?」
「まぁね。俺の愛剣ヨジャメーヌは一心同体だからな!」
「……ってことは、オレの鞭は一心同体じゃないってことだな」
「あっ」
「ふん、まだまだだな」
オレが得意気に言うと、ヘラは頬を膨らませながら『鞭』と書かれた箱に近づき、それを手に取った。その中にはドライバーやカリビア手書きの説明書などが入っていた。
「なぁ、そういえばヘラって剣以外使ったことないのか?」
「あー……無いね!」
「じゃあさ、鞭使ってみるか?」
「遠慮する」
「なんで!?」
「いや……だって……鞭でしょ~?」
「鞭だ」
「無理……」
「そんなあからさまに嫌そうな顔しないでくれる!?」
剣だけって言ってるけど、剣以外にも魔法とか使ってるよな!?……いや、武器の話か。ヘラのマイナス面を探そうとしたオレがバカだった。
「ありがとうございましたー」
オレがヘラの言葉に悩まされている時、カリビアの接客が終わったようだ。その手には銀色の箱が握られていた。
「何だそれ」
「最近こういうのが出回っててね。機械ってやつらしい。人間界から来たお前なら知ってると思ったんだけどな」
「オレは江戸時代の人だから……。明治に人間界に戻ってそんなに経ってないから知らないぞ。でも確か……エレキテル……だっけ?」
「そう。電気とかで動くものなんだ。これをこの魔界で生み出したのはマリフさん……オレの師匠が、ね」
そう言ってレバーやボタンを何も考えずにポチポチと押すカリビア。壊れたりしないのだろうか。その後、いろんな角度をジロジロ見ながら彼は呟いた。
「機械ってどんなことができるんだろうなぁ」
「受け取っておいて知らないの?!」
「おう。大抵はマリフさんが知ってるんだけどな。でもどうやって作ったんだろうな」
「弟子なんだから教えてもらえばいいのに……」
「いや、オレは機械なんかに手を出すつもりはない。今は機械の時代だか何だか言ってるようだが、オレは絶対に使わねぇ!」
「そう?でもまぁ警戒はしておいて損はないだろうね」
「ん?なんだ、知ったような素振りをして」
「だってカリビアって影響されやすいじゃん……」
不思議そうな顔をしてこっちを見るカリビアはさておき、楽しそうに鞭の整備をしているヘラの方を見た。
カリビアはヘラと違い、世間の目から身を隠さねばならない。この店に訪れる人には彼の場所をバラさないという約束を守ってもらっている。
もちろんオレもだ。昔存在した『魔王軍』という組織の唯一の生き残りだという彼は、魔王に見つかると何をされるかわからないんだそう。グループ、仲間ということを大切にしてきた魔王軍のことだ。お前も同じところへ行けと、殺される可能性が高い。
「ま、お前の言う通りにしておくかな」
「ありゃ、えらく素直だな」
「オレの方が世間に疎いからな……リスト、頼りにしてるぞ」
彼は少し寂しそうに呟いたあと、作業場へと姿を消した。オレに微笑みかけ、そのまま百八十度向きを変えた彼の背中はいつもより小さく見えた。
どうも、グラニュー糖*です!
昨日、今日と午前五時まで絵を描いてました。
ドラゴンて。バトルスーツて。(これだけでキャラがわかったらすごい)
まぁpixivに載せたんでよかったら見てってくださいね!
では、また!