vs.リスト
第三十九話 桜舞い散るこの世界
城下町のすぐそばの林。そこに一人の無口な男が立っていた。彼はこれから戦う相手。恐らくサニーから情報を得てやって来たのだろう。そんな彼の前に今、オレたちは立っている。黒池のどこから取り出したのかわからない刑事セットか何かでリストの魔力を割り出し、ここまで駆けつけた。もちろんサニーの居場所もわかっている。サニーにエンカウントしないルートを通って行ったのだ。
「……ヘラたちか」
リストが抑揚の無い声でヘラの名を呼ぶ。
その目は虚ろで、目の前にいるのは本当にリストなのかを疑うほどだった。
「……リスト……だよな?」
ヘラも疑っているようだ。
その問いにリストは一歩踏み出して答えた。
「あぁ。オレは正真正銘、リストだ」
「……では、お前の左のこめかみ辺りに刺さっている髪飾りみたいなものは何だ?」
よく見るとひし形の一角を伸ばした、白い髪飾りのようなものが三本刺さっている。……これは?
「そんなものは無い」
「……なるほど、本人は知覚できない特殊な道具ということか。……皇希、聞こえているか?今すぐあれについて調べてくれ」
『わかりました』
無線の向こうでカチャカチャとタイピングするような音が聞こえる。
それに、特殊な道具ということは……リストは……。
「……じゃあリストは洗脳されたってことなの?」
オレが思っていたことをライルが口に出した。……やはり洗脳されているのか……ってヤバいじゃん!!
『出ました!これは……作戦当初に開発され、危険物として禁止、凍結された道具のようです。僕たちが召集される前に凍結されたようです。今となってそんな物が出てくるなんて……。しかし、これは逆にチャンスです!それほど相手は焦っているということになります。このまま押し切りましょう!』
黒池が声を張り上げる。だが、オレたちはその真逆だった。
「……皇希、あれを抜いても大丈夫か?」
『無理にやった場合、記憶障害や、最悪、精神汚染や暴走の恐れがあります。残念ですが……やめた方がいいでしょう』
「そんな……ライルも何とか言ってよ!」
「……ごめんなさい。人間が作った技術は完璧すぎて手の施しようがないの。時に非情になる人間だもの。処置は殺すという選択しかないこともあるわ」
「ぐ……リスト……」
ヘラが奥歯を噛み締めて唸る。そしてそうしたいのはこの場にいる全員だろう。どうにかリストを助ける方法を考えないと……!
「……ムジナ、ヘラ。よく聞いて。まずは気絶でも何でもいいから倒すの!それから慎重に抜くのよ。わかった?」
ライルの作戦にヘラは胸の前で拳を合わせた。
「要は力ずくってことだな?」
「うぅ……リスト、ごめん!!」
オレたちはそれぞれの考えを口にし、武器を構えた。リストも鞭を一度地面に叩きつけた。それが開戦の合図かと思いきや、体が動かなくなった。なぜかと思い、下の方を見ると、足元に大量の桜が足を固定していた。その全てが怨嗟の声を上げる人間たちの怨霊に見えて……。
「う、ぁ……うわあああああっ!?」
「落ち着け!ムジナ!これはただの……え……?」
ヘラがオレを見て目を丸くする。直後、刺すような睨みがこちらに向けられた。
「……ヘラ?」
「ムジナ……今、助けてやるからな……っ!覚悟しろ、リスト!」
「違うよ!リストはあっちだ!」
『どうなってるんだ……?反応が……無い?ちょ、うわっ?!電波ジャッ____』
「黒池?!黒池!!くそっ!」
ノイズと黒池の悲鳴を最後に通信が切れてしまった。いくら叫んでも返事は無い。それに今すぐにでも襲いかからんとするヘラが目の前にいる。ヘラはすでにリストを庇っている。ライルは……詠唱中だ。しかしその顔に驚きと焦りが見えている。
この状況……誰が見ても確実にピンチだ。
「……行くぞ!リスト!」
「え、嘘、待って!……うぎゃあああっ?!熱い!あっつ!!燃やさないでぇええええっ!!」
問答無用で炎を撒き散らすヘラ。こちらに向けて放たれたそれはオレの氷の盾さえ乗り越えてきた。……しまった、オレの氷はドラゴンソウル保持者の炎しか溶かせなかったんだ。
てか熱い!熱いってば!
「……リストってこんなに弱かったっけ……?」
「だーかーらー!オレはリストじゃなーいー!!」
「嘘つくな!」
「本当だってぇ!」
オレは半泣きになり、一方ヘラは怒りながら指を差し合うという謎の光景に、さすがのライルの詠唱のトーンも下がった。
しかしリストは真顔のままだった。
……と、ライルの詠唱が佳境に差し掛かった。この詠唱は……離れたいけど動けない!ヤバいかも!
「……白昼の煌めき、落ちよ轟雷、気付けの招光!『白雷』!!目を覚ましなさい、ヘラ!」
「な、なんて力だ!?ぐ……押し返せ……ない……!」
ライルを中心に地面を伝ってまばゆい光を放つ電撃が走る。オレは桜があってあまり電撃が効かなかったが、何も無いヘラはもろに受けてしまった。
いつもの電撃はズドン!と来る感じだが、詠唱の途中に『気付けの招光』と入ったため、チクチクと刺すような電撃が走るのだ。しかもこれは拷問にも使われるものらしく、わりと長い。
ちなみにオレは桜があるからと言ったが、地味に痛い。何というか、足つぼの石のやつみたいな……。あれの針バージョンと言った方がわかりやすいか。
「いたたたた!……やりすぎだー!」
ヘラはアホ毛をさらにピンと伸ばして叫ぶ。……少し涙目になっていてかわいそうだが、これでさっきの失言はチャラにしてあげよう。鉄槌を下したのはライルだけど。
「でもこれで気付いたでしょ?本物はこっちだって」
「うぐ……すまない、ムジナ……やはり詫びるには切腹をば……」
「ヘラ、どこ見てるの?そこには鳥しかいないよ」
「……おのれリストめ!!幻術で嵌めやがって!」
「それはヘラのミスだからね?!」
ヘラのテンションの変わり方がまるでギャグっぽいが、よしとしよう。レアなものとして記憶しておこう!
「さて、どうするか、だな……」
気を取り直して剣を構え直すヘラ。電撃で舞った砂ぼこりを払うリスト。
二人が向かい合う。
……すると突然耳元でモスキート音が聞こえたと思いきや、通信が回復したようだ。
『____あ、あー。やった!回復した!聞こえる?三人とも!』
「皇希……すまない。俺のせいだ」
『ヘラの?ま、まぁ、話はあとで聞くよ!それよりリストのことだ。あれは思いっきり倒しちゃって問題無いよ!……まったく、サニーくんってば優しいんだから……』
「ん?何か言ったか?聞こえないんだけど……」
『何でもない!さ、ファイト!』
通信は一方的に切れてしまった。とにかく倒しても問題無いなら思いっきりやるしかない!
「む……やるぞ!」
ヘラの言葉にその場にいる全員が得物に魔力を込めた。
まずリストが予想通り桜を撒き散らす。いつの間にか張られた結界の中をグルグルと舞っていく。
一瞬見惚れた隙に目の前までリストの鞭が迫っていた。
反射神経が反応しない。とんでもないスピード……!
「……っ!」
「ムジナ!」
間一髪のところでヘラが剣で対抗した。その間にオレが桜を凍らせるために詠唱し、水蒸気を吹っ掛けた。そして急激に水蒸気の温度を下げ、凍らせる。その方が花である桜によく絡みつき、隅々まで凍らせることができるからだ。
「ヤバいな……これだけ桜……いや魔法をフル回転だったら体が持たないよ。リスト、まだ体が人間寄りなんだろう?」
「あぁ。……それに皇希が言ってた『優しい』とはどういうことなんだ?……って右!」
「わかってるって。……ったく、考える時間もくれないのか!」
右から差し迫る桜を凍らせ、背中を預けるように立った。周囲に桜が渦巻く。端から見ると追い詰められているようだが、オレたちはそうとは思わなかった。むしろ一ヶ所にまとめてから凍らせたり燃やしたりしようかと思ったほどだ。
「……ムジナ、気付いているか?」
「え?」
いきなりヘラがトーンを低くして話しかけてきた。気付くって……何に?
「あのリストだよ。まるで生気を感じない。あれに魂があるか調べてくれ」
「う、うん……それぐらい……って嘘ぉ!?魂が無いよ、あれ!」
なんと、リストには魂が無かった!
……ってことは?あれは偽物?
「やっぱりな……思いっきりやるぞ!日頃の鬱憤を晴らせ!」
「目的変わってない?!変わってるよね?!」
「……ふん。バレたか」
オレたちの会話にリストが鼻で笑った。しかし分身だと思われるそれは消えることはなかった。それに怒りを覚えたヘラはリストの分身に質問をした。
「……なぜお前はサニーの下に付いた?本物のリストはどこにいる?本物のリストはお前がここにいることを知っているのか?」
「ちょっと質問多くない?……こほん。では答えよう。まず、本物は黒池を探しに東奔西走している。これはヘラ、お前が勧めたことだ」
「……そ、そうだったな」
「おいおい……いつの間に……」
ヘラはまずったという顔で明後日の方向を見る。
「……そしてここにいることを知っているかどうかだが……もちろん知らない。だからそっちに黒池がいるということも知らん。本物はそっちにいることを知らず、この世界を駆け回ることだろう。あと、本物は魔王に顔を合わせていない。ということは城に行くことはないということだ。つまり____」
「リストは目的を果たせない。そういうことだな?」
「ご名答」
「くっ……巧妙だな。これもサニーの仕業ではなく、ノートの仕業なのか……?」
オレは唇を噛む。リストと黒池を出会わせると何かが起こる?それをノートは恐れている?まず一体何が起こる?それにリストに黒池の存在を知らせたのはハレティ……。まったく、頭の良い奴らの考えはわかんねぇよ……!
「さぁな。そして最後の答えだが……それはもうわかっているだろう?この頭に刺さっている道具で無理矢理やらされているということに……」
「……じゃあなぜサニーの味方をしているのか、というのは人間たち全員が知っているということか」
「そういうこと。……さて、話すことは話した。殺し合おうぜ?なぁ!」
リストは待ちきれないとばかりに再び周囲に桜を出現させる。これがリストが思い描く日の本の国だとすれば、それは限りなく魑魅魍魎にまみれた場所であろう。
「リスト……いや、獅子ヶ鬼剣一。その分身であるお前は魂を持たん。故に輪廻転生に刃向かうものはこの死神ムジナが許さない!」
「……行くぞ!お前が命を語るなら……この獅子ヶ鬼剣一、真の体に代わり、その理を打ち砕いてみせよう!見ていてくれ、面狐……必ずや、貴殿の命を取り戻してやるからな……!」
リスト……改め、獅子ヶ鬼は走り出すと同時に姿を消した。彼には魂が無いので行き先を辿ることができない。オレがキョロキョロと見回していると、ヘラの指示が飛んできた。
「ムジナ!あんな奴は大抵背後が好きなんだ。常に後ろに気を付けろ!」
「わかった!……っていったぁー!」
パシーン!と良い音を出しながら打たれるオレの背中。どう考えてもこれは獅子ヶ鬼の鞭だ。
……どこにいた?!完っ全に見えなかったんだけど!
「ふふ……これは相手を惑わす桜。そら、視線を上にして見てごらんよ。真ん丸の大きな大きな青白い月が見える。これこそこの桜が織り成す魔術の真骨頂。どうだ、美しいだろう?」
どこからか聞こえる声に促されるまま空を見る。そこには彼の言う通り大きな満月があった。……そんなに時間がかかっていたのか……。
「確かに美しい。でもそれは上っ面だけだ。これを作り出す者に本物の心が無いとこれは本当に美しいとは言えない」
「……つまり分身であるオレには作れないと?……ふん、皮肉もいいとこだ。存在を否定されちゃ黙ってらんねぇな!」
突然大量の桜の中から現れた獅子ヶ鬼。その手には桜でガチガチに固めて作ったであろう騎槍があった。
オレは切り替えたバトルスタイルに少し驚いたが、落ち着いて一撃、また一撃と避けていった。
「ちょっとヘラ!手伝ってよ!これじゃ防戦一方だ……よぉっ?!あぶなっ!」
「わかってるが……緻密すぎじゃねぇか、この幻術……わかってても解除できないんだ、くそっ!」
ヘラの周りを半透明な桜が舞う。振り払っても振り払っても纏わり付く厄介な桜だ。
「……サニーに協力してもらってるからな。オレが知る中でサニー以上の呪術師は見たことがない」
「……レインを越える呪術師か……」
「____隙あり!」
「ぐっ!」
獅子ヶ鬼の声と共にヘラの苦しそうな声が聞こえた。
桜まみれでまさに暗中模索の戦い。たとえヘラであれ見えない攻撃を避けることは不可能だ。
「ヘラ!」
「……俺に構わずリ……獅子ヶ鬼を討て!それとまだか、魔王ライル!電撃の話はどうした!?」
「それが……さっきから撃ってるんだけど当たらないのよ!桜邪魔!」
ライルのイラつく声が聞こえる。……ならば……。
「ライル、耳貸して!ヘラ、頑張って耐えて!」
「マジかよ……しょうがねぇな!」
ヘラの嘆きを背にオレはライルの元に向かった。
「何?」
「この結界全体に電気のフィールドを張ってくれ」
「……はぁ?!バカじゃないの?!そんなことしたら二人も喰らうわよ!」
ワンテンポ遅れてライルが反応する。
確かにバカみたいな諸刃作戦だ。しかしこうでもしないと勝ち目はない。
「わかってる。わかってるんだけど……こうしかないんだ!」
「……わかったわよ。とりあえず二人には避雷針の呪文は唱えとくから。それでいいでしょ?」
「避雷針?何だそりゃ」
「……はぁ」
「え、何?!何で?!」
訳がわからないまま背中を押された。
「……あっちは何を話しているんだ?」
「さぁな!そんなことよりお前の相手は俺だ!」
「いや、待て!なんかあいつバチバチしてねぇか?!」
「気のせいだろ!!」
向こうの方から話し声と一撃ごとが玉突き事故レベルの衝撃音が聞こえる。……そうか、獅子ヶ鬼には景色がクリアに見えるのか……。
そう、オレは今あいつの言う通りバチバチしている。静電気なんて程じゃない。もっともっとすごいことになっている。
「……よーし、そんなヘラにもバチバチしてあげよう。魔王からの贈り物だー」
「なに棒読みでとんでもないこと言ってんだ、この魔王はー!うわお!?」
ヘラは叫び声と共にオレよりヤバい電撃を浴びた。……そう、語彙力が欠如するぐらいだ。
というか……これが避雷針か!ほんとだ、あまり電気を感じないぞ!
「なんだ、こいつら……仲間割れか?おーい、敵はこっちだぞー……」
遠くで呆れている分身が一人。しまった、放置しすぎた。
「ヘラ、そろそろリスト……じゃなかった、獅子ヶ鬼の相手しないとかわいそうになってきた」
「よし、本戦やるか!」
「まだ本気じゃなかったんだね……オレはもうとっくに本気だったよ……」
衝撃の言葉でもはや鎌を持つ気力も削ぎとられたが、あと一息。本物がこの分身を見る前に……早く倒してしまわねば!
「ムジナ、そういうのは言わないのが吉なんだぞ」
「はいはいっと!おまたせ!まずは水蒸気と氷の世界をご覧あれ」
オレは大仰に礼をし、手を振り上げると同時に水蒸気を撒き、最初と同じように凍らせた。
「その手には乗らないぞ」
「いいや、本当の狙いはこっちだ!」
「ヘラが!?」
獅子ヶ鬼が振り向くより前にヘラが炎を撒き散らし、氷に炎を勢いよくぶつけたため、ものすごい風圧の水蒸気が生まれた。
息をするのを遮り、視界も悪くなり、水蒸気と熱風で何とも言えない不快な空気が出来たため、自分たち全員がむせたり目の前の煙を払ったりと大忙しだ。しかし一人だけ無事な者がいた。そんな彼女は今、詠唱を終わらせ、本を持っていない右手を前に出し、電撃を放った。
「もう、どうなっても知らないんだからね!」
「大丈夫だ、避雷針があるからな!」
「……電気のフィールドか……だが、常に浮いてれば何も____」
獅子ヶ鬼が自信満々に地面を蹴った、その時だった。
「……後方注意だぜ、獅子ヶ鬼さんよぉ」
「何っ!?」
ヘラの言葉に慌てて振り向く獅子ヶ鬼。その目には殴るために大きく振りかぶっているオレの姿が映った。
「歯ぁ食いしばれ!!」
「がっ……!」
ズドン!という音と砂埃を上げて電気のフィールドに落下する獅子ヶ鬼。巻き上がっていた桜は力なく散っていった。
「……ヘラに聞いたさ。火事と喧嘩は江戸の花ってな。最後はそれらしくしてみたが……オレも江戸っ子になりきってたか?」
「……ぐ……死神が……。国境なんて無い、か……誠に見事であっ……た……」
彼が満足そうに言うとその体は魔力の桜へと変化し、異物である洗脳道具のみがその場に転がった。
「……」
しばらくの間、オレたち三人は何も言えずに立ち尽くしていた。そしてその静寂を絶ったのは城に残っていた黒池だった。
『お疲れ様です。……どうやらサニーくんは危険である道具が一つだけ残っており、それを壊すために分身に預けたそうです』
「……ということはサニーは人間の闇を消す行動に出た、と?」
『そうなりますね。……一つ質問していいですか?』
「ん?」
『どうして獅子ヶ鬼という名前になったんですか?』
「あ、それ俺も気になった。何で?」
一緒に獅子ヶ鬼と言っていたヘラも身を乗り出して聞く。
「魂を見ようとしたときに判明したんだ。リストは偽の名前。獅子ヶ鬼剣一というのが本名なんだ」
「魂が無いのに見れたのか?」
「いや、逆に魂を隠そうとしてた。それより見せようとしてたのがこの本名だったんだ。多分あいつはたとえ偽の命だとしても自分は獅子ヶ鬼剣一だということを知ってほしかったのかもしれない」
オレは落ちている洗脳道具を手に取り、思いっきり叩きつけて踏み潰した。驚くヘラを尻目に分解したパーツを拾い上げる。その中にはシフの服に付属していたチップが入っていた。
『それって……』
「シフの制御チップか……っておい、また泣きそうになってるぞ!」
「あぅううう……シフぅ!」
「ムジナ、男でしょ?泣かないの!」
一見コメディーチックな空気になったが、皆心から笑うことはできなかった。
周りを見ると桜はもちろん結界も消えて無くなり、雲に隠れた月と風でざわめく木々だけがある。
黒池は空気を読んでか席を外しているようだ。
ヘラはしゃがんで手を合わせている。
ライルは心配そうにオレの方を見ている。
……ならオレはどうだ?オレは、何を……。
「そろそろ壊してくれると思ってましたよ」
「!?」
さっきまでここに無かった声に反応し、勢いよく前を向く。そこには……。
「とうとう現れたな……サニー」
「いつもお兄ちゃんがお世話になってます、ヘラさん。やだなぁ、そんなに睨まないでくださいよ」
「睨むに決まってるだろ?……レインの惨状を見た。あのレインがあそこまで動けなくなるとはな……ただの攻撃ではないだろ?」
ヘラの言葉にサニーは無言で笑った。その顔にはどこか見覚えがあるような……。
「よくわかりましたね。呪いの類いですよ。言ったでしょ、兄弟だって」
サニーはボソッと呟き、手の平サイズの紫に光る羊を作り出した。それは彼の周りを飛び回っている。
「……ねぇ、この人誰?こんな人……書類に無かったわよ」
ライルが肩を叩く。そりゃそうだ、サニーは霊界でオレの前を通って人間界に行っていたのだから、データに残るわけがない。
「こいつがサニーだ」
「この人が……?」
「おやおや、お初にお目にかかります、魔王様。あなたの武勇は旅人である僕の耳にも入っています」
「そ、それはどうも……」
サニーはプレッシャーをかけたままオレたちから視線を放さない。
「その手にあるチップ……僕のやりたかったこと、理解していただけたようですね。まだ壊れてないようですね……ちょっと貸していただけませんか?」
「えぇ?どうしよう……」
オレはヘラの方を見た。彼は少し渋りながらも頷き、サニーは満足そうに笑った。
「……はい、どうぞ」
「ありがとうございます。無力化させてもらいますね」
「なぁ、サニー。お前の目的は何なんだ?」
「あなたに教える義理は無いと思いますが。……それでも邪魔してくるなら……問答無用ですよ」
サニーを取り巻く空気が一瞬にして刃物のように鋭く、氷のように冷たくなった。
「……やるしかないようだな」
「もう、ヘラがそんな顔で話すから……!」
「いや、どうしても戦うように仕向けられていたようだ。くそっ」
ヘラが諦めたような顔になりながらも愛剣ヨジャメーヌを構える。
ライルは本を開く。
通信の向こうからタイピング音が聞こえる。
オレは全員の仕草を一瞥し、これは敵だ。脅威だと頭に言い聞かせ、鎌に水蒸気を纏わせた。
「ふふ……ムジナさん、ヘラさん、魔王様……。彼らが倒されると黒池さん、あなたの生存率は皆無になります。せいぜい足掻いて死んでいってくださいね」
どうも、グラニュー糖*です!
腰をやってしまいました。
めっっっっちゃ痛いです。
痛すぎて授業が耳に入りませんでした。
課題をやっていただけなのに、それで眠くなって寝ただけなのに、なんでこんなことになるんでしょう……。
どなたか早く治る方法を教えてください……!
では、また!




