マリフの策略
第三十六話 邂逅
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「……とんでもない目に遭ったよ」
ボクは両手に花……ではなく炎を纏ったムジナの友達であるヘラという少年を見て呟いた。他人には言っていないが、ボクは未来を見通す力を持っている。もちろん今の言葉にヘラは不可解だという表情をしている。
リメルアはボクの発明品を『本来は不可能なもの』と言っている。……あながち間違っていない。なんせ、作り方を『それができている未来から持ってきて』見ているからだ。人はこれをパラレルワールドと呼ぶ。
一見便利に見えるこの能力だが、ボクはあまり気に入ってはいない。だからボクは能力を使って、それを見えないようにするものを作った。それがこのゴーグルだ。……ま、普段は頭に乗せてるけどね。
「どういうことなんだ?受けてもないのに」
「おやおや、キミは他人の最大の秘密を苦労もせずに聞き出そうというのかい?」
「ね、ねぇ……やめようよ、こういうこと……」
敵意丸出しのヘラを宥めるムジナ。
このコンビが人間たちをあそこまで追いつめるとはね……。これは予想外だ。……いや、これはボクの予想が外れたんであり、能力では予想できていた。そしてこの能力が示すのは必ず破滅だ。嫌味なのか否かは知らないが、この能力を与えたノートとかいう小僧は何を考えているんだろうか。ボクなんか発明品を作るくらいしかやることないのに。
「最大の秘密?確かにそれはタダで聞いたらダメだな……ってそうじゃない。あなたが変ってことはわかった。……で、聞きたいのはどうして帰る道を塞いでいるのかということだ」
「そりゃまぁボクが人間界側だからってことだよ。え?答えるのがあっさりすぎてビックリした?それは失敬。でもキミたちはラッキーだ。だってボクがあっち側ということは、こっち側の人間がいるということだろう?」
「こっち側?それは……」
ボクは正直戦うのが嫌いだ。だって面倒じゃないか。
____死体を片付けるのが、ね。
「____!!ムジナ、隠れろ!」
ヘラがムジナを隠す。へぇ、このインキュバス、殺気も感じられるんだ。インキュバスって最弱なのに、攻撃極振りとか面白すぎる。でも完全に暴力的にはなれない。カメラで見てたが、彼は読書が好きだ。そこまで心を落ち着かせることができるなら、ボクでも抑えられる。
……じゃ、面倒なことはさっさと終わらせるか。
「おっと、手が滑った」
「!!」
____ッチューン!という音を出して光線銃の光が飛んでいく。それはドアノブを溶かした。これで逃げられない。膨大な熱量でひん曲げて開けることすら不可能にした。
「そうそう。人間たちにここに来たと伝えておいた。あと半日すれば来るだろう。エメスとはそう遠くない。彼らは車で来るだろうし、そうだな……二、三時間くらいで来るんじゃないか?」
「……防御には徹せないってことか」
「そう!そして近づいたらこの光線銃の餌食になるってことさ!これはムジナ、キミには見覚えがあると思うんだけど、覚えているかい?」
「……ムジナ!?」
「……覚えてるよ」
ヘラは驚きのあまり、敵であるボクから目を逸らし、ムジナを見た。そしてムジナは下を向いて肯定する。ボクはそんな好機を見逃しはしなかった。
____ッチューン!
「!!」
ボクはわざと外した。彼の赤いコートが脇腹辺りで黒く焦げる。彼は身が焼ける痛さで膝をついた。
体が震える。なぜかって?そりゃあボクが悪魔でさえ悶絶する光線銃を開発したからに決まっているだろう!
「ヘラ!」
「来るな!お前はあの防具を着ろ!」
「でも……これは一つしか……!」
「言っただろ!命を懸けてムジナを守るって!言うことを聞け!」
「……わかったよ!」
そういってムジナは防具を……投げ飛ばした。……不可解だ!なぜこんなことをする!?
「オレも戦う!ヘラは下がってて!その傷じゃあ動けないでしょ?」
「ムジナ!?」
ヘラは悲鳴のような声が響く。だが、すぐに腹部の傷がそれを上回る悲鳴を上げ、彼は前に倒れた。
「……ムジナ、あれからお兄ちゃんと仲良くしてるかい?」
「生憎だけど、ぜんっぜん仲良くないね。また喧嘩してきたよ」
「あらら。その様子だと、張り倒してきた?」
「ボッコボコにね」
「そっか。じゃ、死神くんには冥界に閉じこもってもらわないとね」
ボクは光線銃を構え、ムジナは鎌を構えた。ボクは前振りもなく乱射したが、全て弾き返された。
「やるじゃん」
「……ここからだ!」
ムジナは突進してきた。と、その時、店内のスピーカーがノイズを発生させた。ムジナもヘラも当然ボクも驚き、一斉にスピーカーの方を見た。間髪入れず、聴いたことがある科学者の声がした。
『あ、あー……マリフ!今回は電話じゃなくてすまんな』
「……どうしたんだい?」
『悪魔たちを救わせてもらったよ。消えただろう?』
「えぇ?」
ボクは科学者に促されるまま、二人の方を見た。確かにここにいない。
『……おかしいな、あそこにテレポートさせたはずだが……』
「へぇ、それがさっき感じた魔力か」
『……マリフ?』
ボクは心の底から嬉しくなった。テレポートさせただぁ?笑わせるな。それだけの魔力を与えたのは誰だと思ってる!そう、他でもないボクだ!だからその流れを断ち切ることだって可能だ。……と、いうことで……。
「テレポート、ねじ曲げさせてもらったよ。行き先はまぁ……彼らにとっての地獄、かな」
『____マリフ!』
科学者が叫んだ直後、向こうでガサゴソという音が聞こえた。ボクは次のテレポートの準備かそれ以外のことが起こったのかと思い、科学者が次の言葉を発する前に通信を切った。あっちが放送なら、こっちはブレーカーを落とすのみ。
「……はぁ。彼とはちゃんと決着をつけたかったよ。ムジナ。カリビアの弟子の弟……少し近いものを感じたからね。あとヘラ……彼は……」
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「うぎゃ!?」
「____!!!」
オレはヘラの上に落下し、彼は先程のダメージのせいで声にならない叫びを上げた。
「ごっ、ごめん……!」
「いいよ……」
ヘラは伏せたまま唸った。とりあえず今のこの状況を把握しないと……!
見渡す限りの建物。舗装された道路。そしてどの方向から見ても目立つ巨塔……。ここはエメスだ。マリフさんの店にジャックしてきた何者かにここまでテレポートさせられたのだ。なんということだ。何も対策していないのに!
「……エメスか。だが、シフたちはマリフさんの報告を受け____」
「……そんなことないですよ、ヘラさん」
ヘラの言葉に何者かが答えた。……これは……今一番聞きたくない声だ。
「……シフ……」
「こんにちは、ムジナ、ヘラさん」
笑顔で挨拶をするシフ。しかし目が笑っていない。その目には明らかな殺意が込められていた。
「その服……!」
「あぁ、これですか。特製バトルスーツってところですかね。脳の命令に完全に背き、体が悲鳴を上げても動き続ける……そんなスーツです」
「……どうしてこんなことをするの?シフ……オレはとても悲しいよ」
「そうですか。俺は何とも思いませんが」
「……」
「さっきから押し黙ってるヘラさんは俺に殺意を向けてきてるんだけど……これは完全に敵と認識していいんだよね?」
「問題ない」
「ヘラ!」
物騒な話についての即答。ヘラは真剣に答えている。それについて難癖つけるというわけではないのだが……やはり言いたいことはある。シフの成長は素直に喜びたいのだが、中身は……直視し難い。いや、直視したくない。認めたくない。こんな好戦的なわけがない。やっぱり戦いたくない!
「他の人たちだけを向かわせて、この学校の前で戦うように仕向けたんだ。全てマリフさんのおかげ。どうやらこちらにも裏切り者がいるようでね。今頃警察に取り押さえられているはずだよ。……ねぇ、さっさとやろうよ!殺すか殺されるかの二択だよ!こんなに簡単なことはない!早く体を動かしたくてうずうずしてるんだ!」
シフは恍惚な表情で叫ぶ。戦闘狂なのかと錯覚するほどだ。しかし、それはそのスーツのせいだろう。恐らく、関節の至るところにパッチか何かが埋められているに違いない。それらを壊さないとシフは止まらないだろう。シフはマリフさんと同じかそれ以上の光線銃を持っている。その光線銃を撃てるときを今か今かと待ち望んでいるシフにはもう昔の面影は見られない。シフはそれをオレに向けたまま再び叫んだ。
「さぁ、始めよう!そして見極めよう!人間か悪魔か、どちらが上かを!」
どうも、グラニュー糖*です!
今回は霊界と冥界の差を説明させてもらいます。
霊界は人間が死んで、死神がいる魔界に送り込まれるときに経由する場所。
冥界は死神が作る世界の穴です。
では、また!




