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怪奇討伐部Ⅲ  作者: グラニュー糖*
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ヘラの変化

第三十五話 合流



「じゃあ、光線銃より強いプロテクターを作ればいいじゃない」

「無理無理。向こうでアレンジされてるから、ボクじゃ手を出せない。でも貫かれることを防ぎ、身を焼く程度に抑えることはできる。これは比喩じゃない。本当に身を焼くことを我慢できるのかと訊いているのさ」


 本当に身を焼く。それがどういうことか、能天気なマリフの真剣な目が語っていた。

 痛みで鎌を持つ手を離してしまうかもしれない。最悪、防具じゃないところに撃たれると……。そんなことをただの死神少年が耐えられるのだろうか。


「……耐えるわよ」


 リメルアは小さな声で呟いた。それは少し怒りを含んでいた。


「あの子達なら耐えてみせるわよ。マリフ、あんたは人間側かもしれない。というかヘラたちに興味がない、どうなってもいいと思ってるだろうけど、彼らはハレティの戒めに心を……一度は折れたけど、耐え忍んだ。だからきっとやってくれるわよ」

「リメルア……!」


 私は目を見開いて驚いた。リメルアがこんなことを言うからという理由もあるが、まさかあんなに恨んでたヘラを認めるなんて……!


「べつに褒めたわけじゃないわ。あの子達が負けたらめんどくさいことになるって言う意味で____」

「あっはっはっ!リメルアはツンデレだ。昔と変わってないねぇ!」

「ちょっと、ツンデレってどういうことよ!」


 腹を抱えて笑うマリフに向かって飛びかかるリメルア。字面だけ見れば穏やかだが、現場を見れば酷いものだ。それを見てフローラとウィルは私に向かって話した。


「マリフさんとリメルア様は昔からのご友人と聞きました」

「あぁ。マリフさん、リメルア様より精神年齢高いらしいぞ」

「二人とも、なんで私より詳しいわけ?!」


 ____こちらはこちらで騒いでいた……。



__________



 二日は経ったと思う。シフたちはまだ到着していないだろう。ついに目的地が見えてきた。……エメスではない、別の場所に。


「あそこだな、店は」


 隣にいるヘラは限りなく眠たそうな顔をしながら呟いた。


「そう!はー、やっとついたー」


 オレはそれに精一杯の笑顔で答えた。


「やっとついたー……じゃない!迷子になってただろ、絶対!」

「えー?んまぁ、丘を一つ二つ間違えちゃっただけだよー」

「そ、れ、を!迷子と言うんだ!」


 ヘラは牙を剥いて怒鳴ってきた。……やばい、ガチで怒ってる。

 ……この辺りはさすがに燃えてはいない。だからこっちに来たのに……。


「……俺のことを思って燃えてないところに連れてきてくれたんだろうが……それはお前の気持ちがやはり生半可なものだと証明してるってことだ」

「……そんなこと言われたら、肯定するにもできないじゃん」


 オレは下を向いて何かを堪えながら言った。


 確かにヘラを危険な目に遭わせたくないからここまで来た。ここまで戻ってきた。……いや、ここまで逃げてきたのかもしれない。それを生半可な覚悟だと言いたいのか?オレは……オレは……!


「……ムジナ、お前の本心は何なんだ?」


 怒っているのはもちろんだが、眠っていないのだろうか、いつもよりさらに赤い目で問いただしてくる。心臓を鷲掴みにされたように、体が強張る。震えが止まらない。その姿を見てヘラは我に返ったような顔をし、膝から崩れ落ちた。


「……すまん……言い過ぎた……。お前を泣かせるなんて……ごめん……本当にごめんなさい……」


 彼はオレを落ち着かせるためか、それとも自分を落ち着かせるためなのか、オレの手を握り、肩を震わせた。


 ……オレが泣いていた?どうして?


 オレは握られていない方の手で顔に触れた。確かに泣いていた。

 ……オレがヘラを恐れたのか?一番の親友を?そんな馬鹿な。オレとヘラ、唯一無二の存在だというのに。それに、ヘラが『ごめんなさい』なんていう言葉を使うなんて。いつもは『ごめんな』とか『すまない』とかなのに。それほど反省、もしくは後悔しているのか。


 オレは先程より酷く、むしろ咽び泣いているヘラの手を優しく握り、目線を同じ高さにした。


「ヘラ、いいんだよ。オレのために、今までありがとう。……そしてこれからもよろしくね。これからはオレがヘラを守るから」

「ひぐっ……あぅっ……こちら、こそっ……ムジナ……ムジナぁ……!」

「よしよし。泣いてたらヘラらしくないよ」


 ……しばらくの間、声を上げて泣き続けるヘラをずっと見守った。


 この時、オレは考えた。

 ハレティの封印によってヘラの感情が抑えられ、それがどれほど厳しいものかを。ヘラはずっと強くあり、そして頼られる存在であったということ。スクーレたちの旅を少しだけ見たが、ヘラは仏頂面を続けていた。その理由はすぐにピンと来た。つまらなさから来ているのではなく、ハレティへの怒りと悲しみを抑えているということを。そしてそれを表に出せない自分の不甲斐なさを恨んでいるのだと。

 そして、今、何年も溜めてきたものを吐き出しているのだ。

 オレの封印を解いたときもヘラは彼らしくない笑顔を見せ、そして泣いた。それもかなり感情が込もっているものだった。

 だが、今はそれよりも上位で……オレを泣かせた、それは自分のせいだということに向けての怒り、嘆き、後悔なのだろう。

 オレにとってはそんなに大したことはないのだが、ヘラにとっては切腹ものなのかもしれない。


「……ひぐっ……あ、ありがとう……」


 ヘラは泣き終わる頃、笑顔を見せたが、それは友達としてではなく別のものを見るような笑顔だった。


「こら、そこ。イチャつくんじゃないよ」


 行こうかと言い、立ち上がったとき、後ろから寝起きを邪魔されて怒っているような声が聞こえた。……ってイチャつくってなんだ。


「マリフさん!」

「誰かと思えばキミか!やっぱり来たね。どうせボクの力を借りに来たんだろう?」


 マリフさんは相変わらず飴を食べている。彼女は天才発明家として最近活躍を見せている。


「うん。シフたちが土地を燃やして……そして殺傷力が強いものを持っていると聞いたんだ。それに対抗できるようなものがあれば、と思ってここに来たんだ」

「そうだろうね。先日、スクーレたちが来たんだ。それで話は聞かせてもらったよ。結論を話すと、『無い』ね」

「……そんな気はしてた」


 隣でヘラが呆れたように言う。

 無いのならしょうがない。今から作ってもらうというわけにはいかないし……。


「よし、頼まれてたし作ってやろう!」

「え?!」


 マリフさんはオレたちに有無を言わさず意気揚々と作業場に向かっていく。

 ……一体どういうことだ?何を頼まれていたんだ?


「実はね、スクーレたちに頼まれたのさ。彼女たちは他のところに行くらしいから、もしここに来たときのためにこの防具を渡してほしいって。でも知っての通り、これは役に立たない。はっきり言ってゴミだ。だからこれより強いのを作るって言ったんだ」

「は、はぁ……」


 マリフさんは机に置かれたチョッキのようなものをバンバンと叩き潰す。言い草はひどいが、紛れもない事実だろう。一度叩く度にバキッ!という音を立てている。マリフさんもこう見えて同じ魔物だ。どう見ても人間界製のチョッキは、もう使い物にならないほどグチャグチャになってしまった。


「で、どうするんだい?完成するまでここにいるか?それならできる頃には世界は滅んでいるよ。……いや、滅びはしないが、キミたちの命が滅びる、ということだね。ハレティが必死に守った世界をいとも簡単に人間たちの手に渡らせるのかい?」

「そ、それは……」

「できないだろう?なら、死神は死神らしく彼らを正しい道に引き戻しな。ドーピングも何も無しでやってみろ!」


 ____あまりの迫力に声が出なかった。

 言っている本人と迫力が違う。これがカリビアさんと同じ戦乱の世を生きてきた人の貫禄というものか。


「……ムジナ____」

「……なーんて、冗談さ。防具なんて一日もあればとっくに完成する。ボクを誰だと思っているんだい?」


 マリフさんは大口を開けて笑っている。冗談……冗談って……。それ以上の言葉の強さを感じたのにどうしてそんなことが言えるんだ?


 ……オレがそんなことを考えていると、ヘラが一歩踏み出して聞いた。


「……マリフさん、あなた、俺たちを試したんですか?」

「あっはっはっはっ!……あぁ、もちろん。ボクの発明品を身に付けるだけの覚悟と正義感があるかを確認したんだよ。で、見事合格したってわけ」

「え、えー……」

「ん?どうした?テンション低いぞ?もっと素直に喜べぇい!」


 マリフさんは爆笑しながらオレの背中を笑顔で叩きまくっている。酔っぱらいか!?この人、酔っぱらいなのか!?というかヘラの視線が恐ろしい!!どうか耐えてくれ、オレの背中とヘラの堪忍袋!!

 ……そしてしばらく好き勝手したあと、再び飴を咥え、店に入っていった。恐らくその防具を取りに行ったのだろう。オレたちは追い付けない展開に混乱しながらも店まで追いかけ、中の椅子に座って待つことにした。


「……大丈夫か?折れた骨が内蔵に刺さってないか?」

「だ、大丈夫だよ……てかそんなことなってたら喋ったりできないよね!?」

「いや……お前に何かあったら俺が耐えられないからな……」

「あ、あはは……そりゃどうも……。最近キャラ変わってきてない?」

「気のせいだろ。誰も『ムジナの骨が折れてたらマリフさんの命はない』とか『命を懸けてムジナを守る』なんて言ってない」

「言うつもりだったんだ……」


 真顔で答える、完全にキャラが変わったヘラ。思わず笑顔が引きつったよ……。


「はいはーい!お、ま、た、せ!苦労人ムジナくんとヤンデレ間近のヘラくん!これが防具さ!コンパクトにまとめてみましたー」


 空気読めない系女子のマリフさんが地雷に石像をぶつけるような言葉を振り撒きながらハイテンションでやって来た。オレは「うわぁ……」と頭を抱え、ヘラは無言で武器であるヨジャメーヌを握った。


「んん?なんで意気消沈してるの?なんで武器持ってんの?」

「「マリフさんのせいだよ!!!」」


 ____森の中の武器屋。そこでは怒声が響いたという。

どうも、グラニュー糖*です!

iPadって、音楽プレイリストの画像変えれるんですってね!

なので昨日、黒池さんで作ったんです。正方形の。多分どっかに載せる…かな?

では、また!

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