ヤーマイロの復讐
第三十二話 大切な相棒
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サメラの魂が封印されてしまった。
これほど悲しいことはない。
しかもそれに手を貸したのは主であるリメルア様だというのだからもっと悲しい。
「……許さない」
私はスクーレに預けた一匹の蝙蝠を回収し、一人、下山していた。身を切るような冷たい風が吹こうが関係ない。私は復讐心さえあれば身を暖めるものなど要らないのだ。
私とサメラは元は人間。当時、部下がいなかったリメルア様が部下としたのだ。なんでも、ヘラに倒されたあと部下の大切さが身に染みてわかったからだそうだ。
「こんなことにしたノート、許さない」
どこにノートがいるのかわからない。だが、考えはある。山より南の街……大都市エメスの霊界への塔だ。レインの話によると、ノートと共にそこが夢に出たようだ。私はそのたった一つの情報を頼りに進むしかなかった。
「あとは……壁を……えっ?」
森を抜け、壁のような石段から降りるだけ。
……のはずだった。
「なんじゃこりゃ?!……てかこんなとこまで影響してたなんて……」
雨のせいでこの地域の地面から生えてきたのは、壁。今いる場所はなかなか高いのだが、それを上回る壁だ。白に金色の筋が入り、いかにも王宮のような壁だ。
「こ、これはさすがに上れないわ。飛んでいくかぁ」
上を見上げ、青空が見えたのを確認して飛び上がった。壁の上の方はこの山からの冷たい風のせいで少し凍ってしまっている。飛んでいく私には関係の無い話だが。
「さっむぅ!……そういや洞窟から抜けるとき、この壁通れるのかしら?」
そんなことを思いながら優雅に飛んでいたその時だった。
「うぎゃ?!」
見えない壁が天井にあるように、結界のようなものに頭をぶつけてしまった。そのままバランスを崩し、勢いよく冷たい雪の上に墜落した。
「あいたたた……冷たぁ!うぅ……歩いてくしかないのね……」
あまりの冷たさにぴょんと勢いよく飛び起き、スカートに付いた雪を払って歩き出した。
「下に入口が無かったら出られないってことよね……?いやいや、そんなことは考えないようにしないと」
私は壁を十分注意を払いながら下りていった。しかし入口どころか穴すらなかった。
「回っていくのかな。めんどくさいなぁ。でも壊したら何が起こるかわかんないし、郷に入っては郷に従えってやつね」
私は壁沿いに歩いていった。城にいたときとはまた違う建物が生えている。恐らくこの壁を持つ街が王様などが住んでいたところなのだろう。その街は山を隠すようにできている。もしかすると山にはとんでもないものが棲みついていると思っていたのだろう。実際、死神たちがいたのだからその判断は正しかったと言える。
そしてこれは憶測だが、この高い壁は単なる風よけなのだと思う。では結界は何だろうか?……こんなことを考えてもしょうがない。早くエメスに行かねば。
「へぇ……今は人はいないけど、こんな壁を作れるくらい栄えてたのね」
私は感心しながら歩いていった。
かなり大回りしたあと、やっと門らしきものを発見した。しかし、長い時間のせいで木製の門がボロボロになっており、役割を果たしていなかった。
壁も風化してれば良かったのにと呟きながら門を背にしてエメスへと向かった。
平坦な道を越え、大都市エメスが見えてきた。やはりいつものシルエットではない。何かが多い。ここにも昔の建物が……。
「あーもー!首を洗って待ってなさい、ノート!」
太陽が照らす異変が起きた大地を駆けていく元人間の吸血鬼。ジャングルのように生えてくる木と建物を軽やかによけていく。どれもこれも大切な大地を汚されたハレティの怒りなのか。もしそうならもっとやってくれてもいい。だがハレティのことだ、きっとリメルア様やスクーレたちが巻き込まれるとなったら手を緩めるだろう。
しばらく走っていたら、また壁があった。もうとっくにエメスに入っている。
今度は丸石で出来た壁だ。所々に木や花などの自然の彫刻がある。そしてそこに書かれていた古代文字に釘付けになった。
「『ユグドラシル』……ハレティとアルメトの国だ!」
知っている場所に入り、少し安心したが、どこか落ち着かなかった。周りの建物は、ユグドラシルの壁によって壊されている。中には完全に崩れてしまった建物もあった。これじゃあまるで侵略ではないか。
「ハレティ……何を考えてるの?……とにかく進まなければ何も始まらないわ!」
私は逃げ惑う人たちの間を逆行していった。ぶつかったりもしたが、振り向かなかった。
空を見上げる。霊界への塔は壁より高いようだ。あそこまではわりと距離がある。急ぐためと言って飛ぶわけにはいかない。どうしようかと一瞬立ち止まったその時、近くで爆発が起こった。その犯人と思われる者が喚き散らす。
「こんなもののせいで立ち止まる俺たちじゃねぇ!お前らもどんどん壊せ!」
「リーダー!前!前を見てください!」
「あぁ?……な、なんだこれは!」
数人組のグループに襲いかかったのは真っ白な霧だ。霧は彼らにまとわりつき、スライムのようになっていった。それと同時に周りの悲鳴よりさらに大きな悲鳴が聞こえた。私は恐怖によって足が動かなくなった。なぜなら、その悲鳴は霧から聞こえているからだ。そして彼らは動かなくなっていき、ついに体が地面に消えていった。まるで古代のモノと今を生きるモノを入れ替えるように。この光景はまさに地獄絵図だ。
「どうして……ハレティはこんなことを望んでないはずなのに……!」
今息も絶え絶えに言ったのは果たして真実か、自分に言い聞かせているのか。それは定かではない。しかしそうあってほしい。
消えていった彼らを見た人はさらに混乱し始めた。あまりにも叫ぶものだから鼓膜が破れそうだ。それにさっきよりぶつかる人が増えている。しかし私はこの街の奥に行かなければならない。復讐を遂げなければならない。私は再び足を動かし始めた。
「……もしかしてこの建物は全てあの霧でできている?それに、悲鳴も聞こえるから……」
私は走りながら一つの仮説を立てた。
建物を壊すと、霧が現れる。その霧は常に悲鳴を上げている。そしてこの建物は昔のものだ。ということは街に住んでいた人たちの断末魔、つまり怨念が形となって現れているのではないかと。ハレティは霊王。これらは幽霊じゃないのだろうか。ならば力を持った幻ということになる。
「それにしても人多いわね。さすがエメスだわ」
難聴になるのではないかと思うほどの悲鳴。なぜだと思って振り向くと、霧が迫ってきていた。耳を塞ぎたいが、そんなことをしている暇があったら走らなければ。
「これ……精神的にキツいわ……でも……きっと怨念たちはあの塔には入れないはず!」
縺れそうになる足を必死に動かし、それを続けているうちに広場に出た。周りには雑貨屋などがあり、その目の前には霊界への塔が建っていた。あまりの大きさに私は呆気に取られたが、私は転がり込むことにした。
ヘラの話によると、いつもは警備員がいるらしいのだが、今はさすがにいない。これはチャンスだと思い、両手で思いっきり観音開きのドアを開け、素早くドアを閉めた。外からはまるで地獄の蓋を開けたような声が聞こえる。しかし、ここには入って来られないようだ。今はもういないが、彼らもハレティのことを恐れているのだろう。それとも、ノートのことを恐れているのだろうか?……今そんなことはどうでもいい。どちらであってもありがたかった。
「はぁ……はぁ……やっと……ついた……長かった……」
私は疲れて思わず座り込んでしまった。両手を後ろに伸ばし、そこに体重をかけて上を向いて荒い呼吸をする。その双眸に映ったのは、螺旋階段だった。
「……ちょっ?!これ……はぁ?!マジふざけんな!飛んでやる!」
階段に向けて女の子にあるまじき口をきき、私は毒を食らわば皿までもということで翼を広げた。私だって復讐なんて良いこととは思っていない。だが、この気持ちが抑えられないのだ。私は住み着いた鳥などを避けながらゆっくりと上昇していった。
「……本だらけね。どれもこれも自然や人間の歴史の本ばっかり。ハレティの趣味なのかしら?」
ある場所は絵本や玩具の本ばっかり。そして別の場所は本ではなく壁画などと、バラバラだ。
だが、これをハレティの人生と考えるとわかりやすい。壁画なんて誰が描いたのだろうか。アメルの人間がここまで来て描くなんて考えられない。いや、考えられるとすればスクーレか。……ダメだ、あの子から芸術の欠片も感じられないから違うだろう。絶対。
「いやいや、なに寄り道してるのよ私!さっさと上に行かないと!」
壁画エリアから少し飛んでいると、踊り場に出た。降り立ってその階を見てみると、学校のような景色が広がっていた。そのままくりぬいてここに持ってきたかのような、そんな気がした。
「そういやここ、昔は学校だったのよね。リメルア様が仰ってたわ」
頷きながらさらに上を目指す。すると、怪しげなドアを見つけた。怖いもの見たさかは知らないが、下を見てみるとさっき休憩したところが見えなくなっていた。私は思わず「うわ」と声に出し、急いでドアの前に降り立った。
「たっか……。霊界の座標と合わせてるって聞いたけど、相当高いのね。でもさっきから感じてる威圧感はさらに上……。霊界にはノートはいないみたいね」
私は息を整えたあと再び翼を広げた。上に行けば行くほど息ができない。クノリティアよりはまだマシだが、屋内ということもあり、酸素が少ないのだと一人で納得した。しかし、これより上はただの塔で、何もなかった。
「……ここが頂上……」
私は耳鳴りがしているなか、呟いた。
雲は眼下に。悲鳴は元から無かったかのように。しかし背筋が凍るような感じがした。ノートではない。もっと違う何かが……。
「!!!!」
なんと、こんなところにまで霧が迫っていたのだ。直進がダメなら上に行け。まさにそんな思考なのだろう。私は限界だったのでしゃがみ、両手で顔を覆った。その時だった。
「あああああああっ!!!」
「え?!」
シュボッ!という音と共に一瞬で霧が消えた。同時に悲鳴とも断末魔ともつかない声が響いた。おそるおそる前を見ると、そこには長い透明とも白ともつかない髪の男が立っていた。
「ようこそ、神の領域へ」
「……どんな奴かと思えばただの中二病みたいね」
「いえ。本当のことですから。あと感謝の気持ちを大事にしなさい」
彼は後ろを指差しながら言った。
「……ありがと……くっ」
私は屈辱を感じながら返事をした。どうして復讐の相手に礼なんかしなければならないのか。私は彼を睨みつけた。
「そう怒らないでよ。ほら、仲良く仲良く!ね!」
「……ぐ……」
「あ、もしかしてあの吸血鬼のことで来たのかな?確か……んー?」
わざとらしく首をかしげる彼に私は怒り心頭だった。そして我慢できずに叫んだ。
「サメラのことよ!サメラ!!あんた一体何したの!?」
「何って……力を与えただけ。一種のドーピングみたいなやつだね。ま、今の興味はそのサメラからは逸れてるけど。とっくの昔にね」
「!!」
私は攻撃を仕掛けようとした。だが、体が動かない。どんどん言葉を口に出すことすら困難になってきた。これがレインが体験した……。
「そう、ボクは君が考えている通り、ノート……アストロ・ノートだ。正真正銘、神だ。ここにワープさせたり、あらゆる人を監視するくらい朝飯前。ここではボクに抗えないように特殊な霧を発生させている。さっきの低俗な霧とは全く違う霧をね」
ノートはちらっと怨念の霧があった場所を見た。消滅か成仏か。それを知るのはノートのみ。
「今から戻って不死の死神に伝えなさい。もう遅い、とね」
「ふざけないでちょうだい。私はあんたを倒しに____」
「君にボクは倒せない。可能性があるならば、あの呪術師と不死の死神くらいだろう。不死の死神が誕生したときは驚いたさ。あんなトリガーがあったなんて。あの幽霊が余計なことを……おっと、口が過ぎたね」
ノートはケラケラと笑い、すぐに真顔に戻った。
呪術師?不死の死神?あの幽霊?
呪術師と幽霊はわかるが、不死の死神なんているのだろうか。だが、幽霊と関係があるならば選択肢は二つ。一体どちらなのだろうか。
「……でもちょっとくらい傷をつけることはできるはず」
「やってみなよ。動けるならね」
「くっ……」
ここまで来たのにこれはないだろう。あまりにも酷すぎる。それに神ならば地上で起きている問題くらい解いてくれたっていいだろう。なのにどうして?私たちが神に背く存在だから?そんな偏見、認めない。
「ひとつ質問していいかい?」
「何?」
「君は本当にサメラが相棒だなんて思っているのかい?」
「……どういうことよ」
サメラはずっと一緒だった。人間のときひとりぼっちだった私に手をさしのべてくれたリメルア様が用意してくれた相棒だった。そんなサメラが相棒じゃないなんてありえない。
「もしボクが記憶操作でもしてサメラを君と仲良くさせたら?もしボクが君の主であるリメルアやその友人の記憶も操作していたら?君は本当にみんなのことを信用できているの?」
「そんなことありえ____」
「ありえるさ。なんてったって、ボクは神なんだから」
ノートは不敵に笑った。
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炎が完全に鎮火した地上では二人の男が対峙していた。
一人はリスト。もう一人は……。
「お前がサニーか」
「いつもお兄ちゃんがお世話になってます」
サニーはにこにこしながら頭を下げた。
「何の用だ?」
「初対面なのにそんな顔されたら悲しいですよ。なに、助太刀に来ただけです。現にあなたは焼死せずに済んだ」
「まぁ……それは感謝する。でもどうして急に現れたんだ?」
「もちろん、お兄ちゃんを守るためです」
やれやれという仕草をし、当然だというように話す。
「残念だったな、ここにレインはいない」
「えぇ、知っていますよ。あの戦士のところにいるのでしょう?」
「……よく知ってるな」
オレはサニーの方を見ながら鞭に手を伸ばした。しかし鋭いサニーに見つかった。このままではカリビアにまで被害が及ぶかもしれない。その前に倒しておかなければ。
「だから攻撃しないでくださいって。あ、魔法もダメですよ。少しでも力を感じたら捻り潰します」
「……なんてやつだ。でもなぜレインのところに行かないんだ?」
「……今ノートの活動時期だから」
サニーは顔を曇らせて答えた。
「え?なにその火山みたいな表現」
「確かに……火山みたいですね。あの人の起伏は半端ないですから」
「そこは否定しないのな……。オレたちの行動も見張っているってことになるのか」
「はい。僕も『たまたま居合わせて、火を消した』ってことにしようかと思っているんです」
「……待て、ということはノートの手下なのか?」
「違います、鞭を下ろしてください。僕はあくまでも中立として生きていたいんです。例えお兄ちゃんを敵に回してでも、です」
「この前もう敵ってことで認識されていたぞ」
「理不尽じゃないですか!!」
サニーは心底悲しそうな顔で叫ぶ。そりゃそうだ。オレだって面狐に「絶交しよ」なんて言われたら切腹する覚悟だし。あぁ、懐かしいな、あの頃が……。
「とにかくおとなしく帰って寝ることだな」
「僕はお兄ちゃんを守る。それだけは譲れません」
「……あくまで逆らい続ける、ということか」
「……それに……」
「それに?」
「そこにいるんでしょう?桜に紛れた人間たちが」
サニーはビシッと横を指す。オレは小さく舌打ちし、手を掲げた。すると桜の花びらが舞い、大勢の人間たちが現れた。彼らは混乱しているようだ。
「どうしてわかった?」
「僕に魔術は効かないって言わなかった?ま、あの二人には効いたみたいだけど。……あなたはまだ嘘をつき続けるんですか?」
「あぁ、そうさ。オレは嘘つきで簡単に他人を犠牲にする卑怯者さ。だが、どうしてオレの前に現れた?ここでも異端なオレのことを見世物のように扱いに来たのか?」
「そんなことないですよ。確かにあなたは孤独で卑怯かもしれません。ですが、お兄ちゃんの力を読むとあなたの存在が大きいようです。……なんかしましたか?」
孤独なんか言ってないのに……。思っても言うか、普通。見た目ボッチで悪かったな。
……レインはいつもスクーレ、スクーレと言っていたのにオレのほうがよく印象に残っている、だと?あぁ、初対面で閉じ込めたからか。何かしたに入るな、それなら……。
「なにもしてないが……レインは少なくともオレよりスクーレの方が大切だと思っているだろう。それにライバルであるヘッジやカリビア、泉に落ちて助けたというヘラもいるんだぞ。なのに何でオレなんだよ」
「とある方に教えてもらった情報なんですが、あの吸血鬼との戦いの時、ずっと面倒を見てたそうじゃないですか。その時、お兄ちゃんの記憶にあなたが優しく、いい人ということが残ったんじゃないでしょうか?」
「……嘘だろ……?内通者でもいるというのか?」
「あ、そこですか」
サニーは面食らった様子で口に手を当てて考えた。
「でも今人間側の人に捜索されているみたいですよ。刑事の黒池さんにね。なんでも犯罪者だーって。そう簡単に見つかりっこないのに馬鹿ですよねぇ」
「黒池?!」
「知り合いですか?」
「いや……探してるんだ」
「ありゃ、探す人が多いのになんと世界が狭いことか」
気の毒そうに言っているが、微塵も思っていないだろう。
……でもまさか黒池がその内通者を捜索しているだなんてな……。今オレが黒池のことを見つけ、彼もまた内通者を見つけたとすれば厄介なことになるのは目に見えている。
「……リストさん、あなたに問います。この兵たちはどうなさるのですか?」
「いきなり何を……ま、さすがに殺すわけにはいかねぇだろ。人間としての先輩であるわけだし」
オレは両手を上げ、降参のポーズを取った。サニーはにこっと笑い、歓声を上げる兵たちに指示を与え始めた。サニーが本当は内通者じゃないかと思えるが、はっきりと相手がわかっているのでそれは言わなかった。いや、事実上敗者なので言う資格なんか無いだろう。
しばらくして、ある一人の兵士が手を上げた。
「サニーさん、よろしいですか?」
「何ですか?」
「この人はどうするのですか?血を流し、苦しそうです。データ上ではリストは元人間。手当てをしてもよろしいのでは?」
「そうですね……何でもいいので情報を与えてくれたら救ってあげます」
「ふん……。どうせ通信とかでわかっているんだろう?ま、江戸時代のことについては教えてやってもいいけどな。本を読んだところ、わかってないことも多そうだし」
「そういえばあなた江戸時代の人間でしたね。……どうしてあなたは簡単に降参したのですか?何か理由がおありなのでしょう?」
「……あの少年だ」
「え?」
オレはあの金髪の少年を思い出しながら呟いた。
「金髪で赤い服の少年は生きているか?」
「イリアくんのことですか?」
オレの質問にある兵士が答えた。
「あぁ。生きてるなら……よかった」
「イリアくんを危機から救ったのはあなただったのですか!?イリアくんの姉が大変感謝していました!あぁ、まさかそんなあなたが目の前におられるなんて……!」
その兵士は目に涙を浮かべていた。
「ちょ、ちょっと、そんな感動しなくても!オレはただ放っておけなかっただけで……!」
「リストさんにも人間の心が残ってるみたいですね。やはり心から悪魔にはなりきれないのでしょう。だから人魔なのです」
「う、うるさい!ほら、さっさと行かんか!」
オレは今まで何度か聞いてきた言葉にイラつきを覚え、サニーを追いやった。
そしてサニーは振り返り、兵士たちに質問を投げかけた。
「あ、そうだ。みなさん、この方は黒池さんを探しているのですよ。手がかりありますか?」
「黒池さん?どう関係があるんですか?」
質問の矛を向けられ、オレは尻込みした。
「ま、まぁ……探せって天の声が……ね……」
「天の声ってテレビ番組じゃないんですから。でも黒池さん、本当にどこに行ったのでしょうか……」
「知らないのか?」
「えぇ。あの方はいつも単独行動をしていらっしゃるので。さすが刑事さんですよね」
一人の兵士の言葉に周りの兵士たちが頷く。その光景にオレは思わず吹き出した。
「リストさんでも笑うんですね」
「……っはぁ?!いきなり何を……!」
オレは顔を真っ赤にして後ずさった。
「笑わないと人生半分損しますよ」
「知るかよ。道化師も顔では笑って心で嘲笑っていたり泣いていたりするんだぞ。笑わなくたっていいじゃないか。お前……ただの人間なのに俺に指図するつもりか?」
「いえ、そういうつもりではありません。ですが、本当のことなんですよ」
「……なんだかお前、切支丹みたいだな」
「切支丹?あぁ、『キリシタン』ですか。やっぱり江戸時代の人なんですね!」
「くそ、馬鹿にしやがって」
「尊敬の意なんですが」
正直で曇りのない瞳を見ていると、自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。オレは目を逸らし、吠えた。
「……くだらん口論はここまでだ!もうオレは黒池探しに行く。あ、治療は遠慮させてもらうぞ。早く行かねばならんし、今のオレは感知ができるから少しは黒池探しも簡単になるだろう」
「……リストさん」
「どうした?」
サニーがこちらに歩み寄り、今にも泣きそうな顔でオレを見た。
「せめて、せめて視界だけでも共有させてください!そして……一目でもいいので、お兄ちゃんを見たいのです!」
そう言って彼はオレの両手をがっしりと掴む。
「視界を?それにお前の兄なんだ、自分で行けばいいじゃないか」
「いいえ、できません。それにあなた、言ってたじゃないですか。お兄ちゃんはボクのことを敵視してるって。だから……お兄ちゃんが一番信頼しているあなたに頼みたいのです!」
「サニー……」
オレは助けを求めるかのように兵士たちを見た。彼らはニコニコとし、皆が「いいじゃないか」と言っているかのようだった。オレは短くため息をつき、無言で首を縦に振った。
どうも、グラニュー糖*です!
今日、アルメト描いてたんですよ。そしたら途中で「あれ……デザイン忘れたw」とか言って上半身だけになりました。あとリスト描くの楽しい。
では、また!




