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怪奇討伐部Ⅲ  作者: グラニュー糖*
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溶けない氷

第二十九話 信者と狂信者



 サメラは宣戦布告を聞き、目を細めた直後、大量の蝙蝠に変身した。ヤーマイロより青く、体格差からしてわかるように、とても大きな蝙蝠だった。それを見たヤーマイロは明らかに嫌そうな顔をした。


「出たわね、蝙蝠!めんどくさいのよね、これ」

「めんどくさいって……どうめんどくさいの?」

「私は一匹に集中して攻撃するんだけど、サメラは全部攻撃してくるの。力は弱いけど、避け続けたり、避けきれなくて全弾当たるってなったら相当キツいわ」

「それはめんどくさいわね」


 ヤーマイロの言う通り、全蝙蝠が攻撃し始めた。氷を放ってくるのだが、一つ一つが小さいので地面に当たって凍ったものは踏めば容易く壊れる。


「気をつけて、サメラにはクールダウンの時間はないの」

「うわ、めんどくさ!やっぱり時間稼ぎにしたらよかったわ……」

「もう遅いわよ」

「何をごちゃごちゃ言っている?二人ともまとめて凍らせてやる」


 サメラは手を上にあげた。収束する冷気と力。これはやばいとわかるが、体が動かない。どうやら踏んできた氷がブーツと引っ付き、動けなくなってしまったのだろう。


「やっば!」

「私は逃げるわよ!」

「あっ、ひどい!」


 ヤーマイロが肩を離れたその時、強烈な冷気が私を襲った。それと同時にサメラの姿が見えなくなり、やけくそで斧を前に構えた。


「……甘いな」

「……っ!!」


 いつのまにか背後をとられ、背中からがっしりと捕まれてしまった。力任せにもがくが、サメラもリメルアと同じく吸血鬼。抜け出すことは出来なかった。


「こんなことして何になるの?!」

「ノートのためだ。ノートの理想郷を作るためだ」

「ノートって誰なの?!」

「それは教えられない。だが、いずれわかるだろう」

「それじゃ遅いの!」


 さっきの攻撃が囮だということを気付けず、激しく後悔した。こんなことすら予知できないなんて……。

 サメラはそんな私の首元をじっと見つめ、ふん、と笑った。

 嫌な予感がする。ただでさえ冷たいサメラが氷のせいでさらに冷たく感じる。それに加え、悪寒までするなんて……。


「何も言えぬよう、お前の血を吸ってやる」

「なっ……!やめなさい!……やめてっ……!」


 私はキツく目を瞑った。すると、打撃音が耳元で響いた。背中の重みが消えると同時に前から誰かに支えられた。真っ白く、そして冷たくて……。顔を見ようと上を見ると、そこには気絶していたはずのヘッジさんが前を見据え、そして睨みつけていた。


「……大丈夫か?スクーレ」

「ヘッジさん!!」

「サメラ、もう誰も吸血鬼にはさせない。バルディもこの屋敷も返してもらう」

「お前……ヘッジ!」

「よくも俺の大事な大事な弟を誘拐したな!絶対に許さん!!」

「いや、そこ?!そこなの?!」

「もちろんだ!ムジナは何よりも大事だからな!」

「と、とんでもないブラコン!!」

「……清らかな魂を持つ者は皆家族だ。だからスクーレ、お前も家族同然だ。……俺が守ってやる」


 ヘッジさんはそう言い残し、腰に巻いていたフードを被り、何度も修理した形跡がある鎌を手にした。これは初めてヘッジさんとカリビアさんに出会ったときに修理してもらっていた鎌だ。


「その……バルディさんのこと、ごめんなさい」

「そのことか……。なぁに、すぐに戻るさ。ドラゴンソウルは摩訶不思議だからな」


 ヘッジさんは直立不動のバルディさんを見て言った。


「……あとはサメラ、お前を倒すだけだ」

「そんなに簡単に倒されるわけがない!なんせ、ノートの……神の力を授かっているんだからな!」


 サメラは私をかばい続けるヘッジさんに向かって氷を撃ち始めた。ヘッジさんは鎌を高速で回転させ、全て弾き飛ばす。弾き返された氷は先程と同じように地面に当たり、小さな小さな氷柱に変わった。あとから来たヘッジさんはこの氷柱の仕組みがわからないと思ったのだろう。だが、ヘッジさんはどこかに隠していた大きな翼を広げ、高々と飛び上がった。


「……見破られていたか」

「もちろん。スクーレが動けないのと、その大量の魔法で察しがついたからね。地上は危険だ、ってさ。せっかくの神の力なんだ、これで終わりじゃないだろ?」

「あぁ。今度こそお前を仕留める!」

「いいぞ、来い!返り討ちにしてやる!」


 サメラはもう一度大量の蝙蝠になり、最初に見せた攻撃をしてきた。それだけかと思いきや、サメラの半身が残っており、それも魔法を撃ってきた。……撃ってきたという表現少し違うかもしれない。強いていうなら……生み出していた、だ。それらはどこかで見覚えのある氷の触手で、ヘッジさんが避けると、勢いが止まらなかったのか遠くまで飛んでいき、結界を守る像を凍らせた。


「うわ……これか、レインたちが言ってたやつって。生命を生み出すのは神の所業。悪魔は決してやってはいけないが……。それを可能にする神の力、か。確かに魂を感じるな。心が無いように見えるが……当たり前か」

「気をつけて!それに当たると操られるわ!」

「ヤーマイロ!?いつからいたんだ?」

「ずっと隅っこで見てたわ!それより避けなさい!あんたが操られると、動けないスクーレしか戦える人がいなくなる!」

「わかってる!わかってるが……こいつ、何もかも凍らせてくる!この蝙蝠たちを避け、さらに氷の触手を避け続けるなんて不可能に決まってる!」

「気合いで何とかしなさい!男でしょ!」

「ここでそんなの言ってくるか、普通?!」

「ほら、よそ見しない!」

「あっぶね!」


 ……そして半吸血鬼と本物の吸血鬼の戦いは長いこと続いた。体力の化け物の吸血鬼同士の戦いだが、ヘッジさんは一発当たればアウトというハンデを背負っている。

 一方、放置され続けている私は封印から解放され、正気に戻ったバルディさんに毛布を貰っていた。


「大丈夫ですか?」

「えぇ……動けないとか恥ずかしいです」

「いえいえ。こうして私が動けるのはあなたのおかげです」

「……あなたを戻せたのはハレティとアルメト様のおかげですよ」

「……そういうことにしておきます」


 バルディさんは眼鏡をくいっと上げ、一礼した。そして屋敷の方へ歩いていってしまった。


「……はぁ……はぁ……。これ以上避けるのは……キツいっていうかとんでもないハンデというかチートというか……」

「ごちゃごちゃ言うんじゃないわよ、男でしょ?」

「さてはお前らグルだったんだな!俺を凍らせて____」

「違うってば!自棄になるな!」

「……うぐぐ……。わーったよ、避けりゃいいんだろ、避けりゃ!」

「そう!そのまま撃ち込んじゃえ!」


 ヤーマイロは私の肩に乗り、大声で叫ぶ。できれば離れてほしいが、毛布があるからということで離れてくれない。

 戦いが終わるか、鼓膜の命が終わるかどちらが先なのだろうか。


「そういえばわりと経ってるけど誰も来ないわね。リストたち、ずっと抑えてくれてるのかしら」

「ん?何々?向こうの様子?そうね……あの医者が暴れだしてたわよ。強いのなんの、医者のくせに人間をなぎ倒してたわ」

「えぇ……」

「ま、助かるってことには変わりないけど」

「そうだけど……っ」

「やっぱり同じ人間が倒されるの、嫌?」

「……いえ。ここでイエスと答えたらみんなの敵になってしまう。……私はずっとみんなの仲間でいたい」

「よくできました!なら……もう動けるでしょ?すでにその『霊王の力』で邪気は祓われている。それに『真の勇者の力』も目覚めてるんでしょ?……ね、スクーレ」

「……!……うんっ」


 私は全てを見透かすようなヤーマイロの瞳を見て答えた。

 ためしに左足を上げてみる。パキパキという音と共に氷柱が割れていく。右足も上げてみる。同じようにして地面から離れた。


「……いける!」

「でもどうやってあの戦いに首を突っ込むのよ。下手すりゃ一撃死よ」

「大丈夫。それにハレティが囁いてる気がするの。勇気を出してってね」

「そう……。そこまであの人たちのこと言うのであれば信じてあげるわ。本当に会ったのね」

「ありがとう」


 私はハレティに授かった光り輝く斧を持ち、一歩踏み出した。小さな氷柱がパキパキと音を立てるのが聞こえるが、引っ付く気配は微塵もない。走り続けられる!


「あの幽霊……余計なことを!」

「スクーレ?!来ちゃダメだ!凍るぞ!」

「大丈夫!きっと……いや、絶対勝つんだから!」

「……凍ってしまえ!」


 サメラがこちらに氷の触手を向け、飛ばしてきた。……が、私は斧を回転し、弾き飛ばした。これは最初にヘッジさんがやっていた方法だ。


「よしっ!」

「やるじゃない!観念しな、サメラ!神なんかに頼った罰よ!」

「罰……そうか、罰か」

「何よ?」

「そうだな、ヤーマイロ……。神に逆らった罰を受けてもらわねばな」

「!!」

「安心しろ。終わらない苦しみを与えてやる」


 サメラは片手を上げ、氷の仮面を作り出した。バルディさんに付けられていたものと全く同じものだ。また同じことが繰り返されるのかとヘッジさんは身構え、ヤーマイロは服の中に入った。すると彼はそれを自分に装着した。その瞬間、何とも言えぬ緊張感が辺りを埋め尽くした。


「こりゃでけぇのが来るぞ……」

「ちょっと!どうにかしてよ!」

「無理よ!ヤバいもん!サメラってばこんな隠し玉を持ってたなんて……!」


 サメラの氷が多大な力を持ち、それが飛んでくるとなるその時、急激にその力が弱まった。よく見ると彼の周りに大きな蝙蝠たちが集まっている。それはどんどん人の形になっていき、正体を現した。


「リメルア!」

「私の部下がごめんなさいね。ヘッジ、スクーレ、怪我はない?」

「散々な目に遭ったけどな」

「動けなかったわ……」

「あらあら……。で、サメラ。そんな仮面、ぶち壊すわよ」

「……たとえリメルア様でもこれだけは譲れません」

「そ。なら覚悟なさい。今、あなたは背後をとられている。そしてつららを手に持ってる。やることはわかるわよね?」

「首を刎ね飛ばすならそうしてください。きっとあなたは罰を受けるでしょう」

「罰、罰、罰って……。軽い口でそんなこと言っていたら自分が受けることになるわよ」


 ガタイのいいサメラと華奢なリメルア。しかし強さはリメルアが上だ。そんな二人の間で不穏な空気が立ち込める。バチバチと音がしてきそうだ。


「リメルア様!神通力は使えないのですか?」

「えぇ。なぜか遮られてね……。使えたら一撃なのに。名前を呼んで動きを止める。そんな簡単なこともさせてくれないのよ」

「あのリメルアがここまで困るなんて……」

「……リメルア様だって万能じゃないの。情にだって流されることはあるの」

「そ、そんなに冷たい人とは思ってなかったわよ……」

「ヤーマイロ……あとでお仕置きが必要のようね」

「ひぃっ?!ごめんなさいっ!」


 ヤーマイロは慌てて再び私の服に隠れてしまった。


「……さて、私が手を横に動かすか、先に動くか……どちらにせよ木っ端微塵よ」


 そう言ってニヤリと笑うリメルアの牙と刃物のように鋭いつららが輝く。


「……不死といえど、再生には力を使う。こちらには神の力がついてるが、リメルア様には何もない。どう見ても不利だと思うが?」

「そうね。でも不利じゃないわ。だって私、負けないから」


 一方、膠着状態の二人と少し離れたところで私とヘッジさんとヤーマイロは一歩も動けずにいた。


「すごい……ここまで波動のようなものが伝わってくるなんて……」

「お、女ってこえー!」

「だから言いたくなかったのよ。リメルア様、怒らせるとあんな風になるから」

「これからどうするの?加勢する?」

「いや……ありゃあ手をつけられない。こっちが木っ端微塵だ」

「え、嘘でしょ?!」

「マジだ」


 ヘッジさんは手を組んで冷静に答えた。だが、内心は冷静の正反対だろう。相手はムジナを拐い、バルディさんまで操った実力者。勝てるかどうかわからない。


「加勢するなら……一瞬だな。ムジナの力とサメラの力は恐らく同じだ。いや、ムジナの方が上と言ってもいい。あれは純粋な力だからな。サメラのものは自称とも授かったとも言いがたい。それにムジナは言っていた。あの氷はヘラじゃないと溶けない、と。ヘラはドラゴンソウルを持ってる。それはバルディも同じだ」

「……ってことは、バルディさんを操ったのは……」

「倒されないようにするため、だな」

「うわ……よくやるわね……倒されるのを覚悟で操ってたのね。狂信者って恐い」

「お前も似たようなものだろ」

「私は違うわよ」

「……始まったわ!」


 ヤーマイロの声に反応し、私たちは前を向いた。そこでは地面に突き刺さったつららと、ドレスのレースが風で巻き上がり、それを邪魔そうにするリメルアと、彼女から少しでも離れようと飛び上がったサメラの姿があった。

どうも、グラニュー糖*です!


みんな大好きバトル回でしたね!

あとさっき見かけた人なんですが、手にカレンダーのスタンプって画期的すぎやしません?

まぁ私は体に何かが付いてるのが許せない人なんで、そんなことはしませんし、化粧も日焼け止めもしませんが。


では、また!

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