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怪奇討伐部Ⅲ  作者: グラニュー糖*
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始動

第二十七話 最後にもう一度だけ



__________



 半透明な両手で感じられるのは、生命がない大地の上の砂。そんな大地に横たわる私の上にのしかかり、首を絞めるのは数年前に助けた少年……シフさん。彼には明確な殺意があり、死んでいる私をさらに殺そうとしている。

 そして今……私は幾度の葛藤を越え、命の灯火を消し去ろうとする直前だ。


「シフ……さん……本気、なのですね……」

「もちろんですよ、ハレティさん」


 にっこり笑ってシフさんは肯定する。

 とりあえず助けは呼んだ。しかし誰も来なかった。私は葛藤に負け、逆にシフさんの首を絞めた。そこまでは覚えている。

 しかし……そこからは完全に覚えていない。


「そう、ですか……。あなたの勝ちです。私は……もう……」


 私は霞む視界の中で手を伸ばした。その半透明な手はシフさんを貫き、空を切った。直後、視界が青く染まった。


「な、何をするんですか、ハレティさん!」

「……最後にもう一度だけ……」


 ここにはいない誰かのことを想い、私は……。私は……!


「皆を守る力をください!」


 苦し紛れに叫んだ。すると私の中から何かが消える感覚がした。代わりに巨大で純粋な力が辺りに広がった。


____そして私の世界は幕を閉じた。



__________



 霊界ってどこにあるのだろう?

 オレはそう思ったことがある。オレはいつも魂を狩って霊界に送りつけるお兄ちゃんを見て思ったんだ。

 お兄ちゃんに聞いたら「秘密」と言われた。オレはますます知りたくなった。ヘラじゃないけど、知識欲があったんだ。


 だからあんな罪を犯した。現世といわれる人間界とこの魑魅魍魎の魔界を霊界を介さずに繋げてしまった。しかも幼い人間を引き入れてしまった。オレはなんてバカなことをしたんだろう。


 オレは隣で小さな翼を広げて飛ぶヘラを見た。彼はそんなオレに気づいて「どうしたの?」と聞いてきた。だからオレは「何でもないよ」と答えた。


 何でもなくはなかったのに。本当は勇気づけて欲しかった。一時でも家族のように一緒にいたシフを殺そうとするんだ、怖じ気づくに決まってるじゃないか。泣きたくもなるじゃないか。なのにどうしてお前は平然といられるんだ?


「……ムジナ?」

「ん?」

「その……シフ、元気にしてるかなって」

「……きっと元気にしてる」

「……そっか」


 やっと二人揃って一緒に行動しているのに、どうしてこんなに悲しいんだろう。どうしてこんなに辛いんだろう。


 不自然に振る舞ってしまった。親友なのに。どうしよう。……突然焦げ臭いにおいが鼻についた。


____何だ、このにおい……?


「……あそこ!燃えてる!」


 ヘラが指を指した方向を見ると、森が燃えていた。どうしたものかと向こうの方を見ると、そこも燃えていた。


____この辺一体が燃えている?!


 ヘラもこれはまずいと思ったのか、急降下した。オレも慌てて後を追う。ヘラは炎の悪魔。氷のオレにはきついものだった。

 オレは森に突っ込み、葉をたくさん纏わり付かせて落ちていった。


「あいたたたた……」


 辺りを見渡すと、そこは何かの巣の上だということがわかった。


「ここ、どこだ?おーい、ヘラ!どこにいる?!」


 オレはヘラの名前を叫んだが、彼の声は聞こえなかった。しかし何か甲高い声が聞こえた。


「この声は……プキュラー?!砂漠地帯の怪鳥がなぜここに?!」


 プキュラーとは、主に砂漠や荒地に棲む怪鳥。めちゃくちゃでかいしめちゃくちゃ強いため、砂漠に連れてこられた種族。砂漠なんてリーバトラーなどの強者しかいないため、彼女らに任せるということになった。しかしヒナはものすごくかわいい。幼少期の栄光ということか。


「まずプキュラーに出会ったら、声を出さず、前を見たまま後退りする……。もし失敗したら逃げる……」


 上を向き、プキュラーがいることを確認する。


「もし巣や卵を潰したら……」

「キィエエエエエエッ!!!」

「死を覚悟しろ!!!嫌あああああっ!!」


 オレは走った。大声で叫びながら。注意事項を完全に無視しながら。


「何でだよ!何でプキュラーいるんだよおおおお!!」


 後ろには炎を吐きながら飛んでくるプキュラー。前には複雑な木の配置。最悪だ。


「絶対あいつが燃やしただろ!決まり!決定!」


 オレは振り返り、急停止した。

 手に鎌を召喚し、氷の魔法を唱えた。


「凍れ!プキュ____」

「待て、ムジナ!」


 魔法を放とうとすると、制止がかかった。

 プキュラーの後ろにはヘラがいた。ヘラはプキュラーを撫で、落ち着かせた。


「何だよ、ヘラ!というかどこにいたんだ?」

「その話は後!ムジナ、このプキュラーは被害者だ」

「被害者?どうして?」

「恐らく人間のせいだろう。ヤーマイロの蝙蝠がまだ残ってたんだが、どうやら人間たちは俺らがいないとわかったところに火を放っているらしい」

「じゃ、じゃあそれが続いたら……」

「追い込まれる、ということだ」

「それじゃあ、砂漠や荒れ地も燃えてるってこと?『海』より遠いのに?」

「『海』は関係ない。皇希もそうだったらしいが、どこかにワープするらしい」


『海』とは、一番の危険地帯だ。人間界から霊界を通らずに正式に行くにはそこしかない。昔、魔王軍が遠征していたらしいが、魔王軍が無くなったあとは無法地帯だ。


「……そっか。……本当に人間は悪い人たち……なんだね」

「……シフを前に怯まないって約束してくれるか?」

「……うん」


 オレはプキュラーの元に向かい、手を伸ばした。


「プキュラー……ごめんな。巣を壊して」

「……は?お前巣を壊したのか?」

「う、うん。だからおいかけっこしてた」

「馬鹿か!そんなことするからこんなに……こんな、に……ぎゃーーっ?!」


 プキュラーは怒ったままだ。

 ヘラをオレの仲間だと認識したプキュラーはオレたちをまとめて追いかけ始めた。飛ぼうにもプキュラーは鳥なのですぐに追い付かれる。しかも森はどんどん燃えていく。逃げ場は無くなっていっている。事実上の大ピンチだ。


「ちょっと、どうすんだよ!倒すの?!」

「お前が言うな!しかもプキュラーは被害者だぞ!それにめちゃくちゃ強いんだ!倒せるわけないじゃないか!」

「あーもー!どうすりゃいいんだ!」


 走りながら頭を抱えて下を向いたその時だった。頭に当てている手に冷たい感触があった。それはどんどん多くなり、雨が降ってきた。


「あ、雨?」

「見ろ、ムジナ!森が……時が巻き戻されていく……?」


 雨に当たったものがどんどん逆再生されるように元に戻っていく。燃えていた木も雨で消火され、さらに元の姿に戻っていった。


「あ!巣も戻ってる!」


 突然戻った木にぶち当たって動きを止めたプキュラーの巣も元に戻っていた。

 巣に気づいたプキュラーは何事もなかったかのように帰っていった。


「雨……ってことは水使いが死んだのか」

「うん……今はお兄ちゃんは動けないから魂は霊界に送れないのに何でだろうね?」


 天気は死んだ悪魔の魔力によって変化している。死んで行き場の無くなった魔力が空へと放たれるためだ。なのでよく雨が降る湿地帯は水使いが多く、暑い砂漠は炎使いが多い。


「……まさか、な」

「え?」

「人間が活発になり、雨が降った。それが何を意味しているかわかるだろう?」

「それって……」

「あぁ。ハレティが消滅した」


 雨の中、オレたちは事の重要さを理解した。そんな中、オレはハレティの形見とも言えるこの雨粒を握り、声を殺して泣いた。



__________



 暗く、狭く、コンクリートむき出しで寒いこの部屋。人はそこを牢屋と呼ぶ。そして今いるのは牢屋の中でも一番悪い人が入る独房だ。本来道具はすべて取り上げられるはずだが、魔王もこれはさすがに、と渡してくれたものがある。それがこの枯れない白百合。霊王であるハレティが生きている……いや存在している間、枯れるはずがない。枯れてはいけないのだ。なのにどうして?


 私は茶色くなり、水分がなくなって床に落ちた白百合の花弁を見た。それをそっと手に取る。


 これはハレティと繋がっている。この白百合が元気ならば、ハレティは元気になる。ハレティが元気ならば、白百合は元気になるのだ。

 今、それが枯れている。つまり……。


「ハレティ、お疲れ様」


 私はポツリと呟いた。そういえば生と死の境界がおかしくなっている気がする。これもハレティの影響か。やはり嫌な予感が当たってしまった。私はこの異変を報告を報告するため、魔王を呼んだ。


「……そう……。スグリから聞きました。スグリの故郷の荒れ地のモンスター……プキュラーの棲み家を何者かに荒らされ、どこかに飛び去ってしまったと。そのプキュラーは先程帰ってきたみたい。そのハレティの消滅と関係がありそうね」


 魔王は白百合を手にして考え込んだ。

 しばらくして魔王は顔をあげ、少し驚いた表情をした。思わず後ろを見ると、ヤーマイロの蝙蝠が慌ただしく翼を羽ばたかせ、独房の小さな隙間に入ってきた。そして私にだけわかる言葉で話してきた。周りの人からはキィキィとしか聞こえない。なので全部魔王に教えることになった。


「どうしたの?」

「雨が、雨が降ってきたんです!」

「雨?それぐらい普通よ」

「違うんです!雨に当たったら、壊れたものがどんどん元に戻っていっているんです!それに、大昔にあったと思われる建物や遺跡が復活し……このままでは、この世界が……壊れてしまいます!」

「……だって」


 私は魔王に丸投げすることにした。


「何ですって?!ねぇ、スグリたちに調査させるから教えてちょうだい」

「自分で行きなさいよ」

「わかりました。……と言っても、この魔界全体で起きていることなのです」


 ヤーマイロは俯いた。


「全体?!そんなの……無理よ……!」


 魔王は悲愴な声をあげた。しかし、私は諦めなかった。ハレティのためだもの。ここはきっちりしないと。


「いえ……ハレティの部下を使うの。そう……幽霊と妖怪よ」

「幽霊と妖怪……?でもどうやって操るの?」

「いい人がいるじゃない。ハレティに一番近い人間……スクーレが」

「スクーレちゃん……?あの子が……?」

「聞いたわね、ヤーマイロ。スクーレを呼んでちょうだい」

「はい。……あの……」

「何?まだ何かあるの?」

「……サメラはどこで仲間にしたんですか?」


 私は不思議そうで真っ直ぐなヤーマイロの目を見た。サメラ……ね。……きっと何かに騙されているのね……。


「……サメラがどうしたの?」

「サメラが籠城し、私とヘッジを死神の館に入れてくれないのです。籠城する際、バルディとムジナを連れていきました。ムジナは自力で脱出したんですが、氷で固まった館の中には恐らくまだバルディが捕まったままです。魔法で洗脳もされているでしょう」

「その氷を溶かしたりはできないの?」

「はい」

「困ったわね……」

「代わりに呪術系は効きます」

「呪術系……レインは動かせるかしら?」

「いいえ。彼は今重症で動けません」

「重症?何があったの?」

「そこまでは……」

「わかったわ。主人命令として活動停止するようにするわ。ありがとう、スクーレに言いに行っていいわよ」

「スクーレは今戦っています」

「何と?」

「人間たちです。現在クノリティアの下にある白狼の天蓋樹林にいます。ムジナの力による氷柱の周りで私も戦っています」

「ムジナ?氷柱?……一体何があったの……?」


 私はとても悔しくなった。ハレティを助けられず、この世界の危機にも気づかず、人間たちの侵攻のことは薄々気づいていたのに止められず、サメラの異変にも気づかない……。私はどうしてこんなところにいるの?何もできないなんて……。


「……私は行くわ。どうなってるのか調べなきゃ。スグリを呼び、数人で出かけることにするわ」

「それなら私をここから出しなさい。私も調査するわ」

「ダメよ。出せないわ。私たちに任せてくれたらそれでいいの」

「……わかった。私の蝙蝠を持っていきなさい。これで意思疎通するのよ」


 そう言って赤い蝙蝠を渡す。


「……行ってきます」


 魔王は真剣な表情になり、牢屋がある廊下を去っていった。いつの間にかヤーマイロも消えており、また一人、この灰色の空間に取り残された。

どうも、グラニュー糖*です!


選挙の人の部下ってよく駅にいるじゃないですか。

ずいぶん前からよく話してたんですよ。

その時、エスカレーターでのぼって、電車に乗るんですが、今回はバスなんですよ。

で、向こうの人が上を指すから、あぁ、上に行くと思ってるんだろうなって、右を指したんです。そのあとイヤホンをとったら、「雨止んでよかったですねー!!」って。


思ってたのと違うやないかい!!!


では、また!

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