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怪奇討伐部Ⅲ  作者: グラニュー糖*
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大自然の病院

第二十五話 森の病院



 私はヘラと共にナニルというエルフが営んでいる病院に行くことになった。そして今キスタナ洞窟の前にいるのだが……。


「ここを登るんだ」

「本当に洞窟に入らないのね」

「当たり前だ。洞窟は白狼の天蓋樹林の真下にある。前は危険なモンスターが出る樹林を通らずクノリティアに行けるから洞窟を使ったんだ」

「そうなんだ……そんなとこ大丈夫なの?」

「今はちょっと整備されてるからね」

「へぇ」

「さっそく登るぞ」


 ヘラはこっちに来るように手招きし、彼の方へ歩みだそうとした。その時、洞窟の中から声がした。


「……ちょっと待って。この声……」

「……はぁ、この力、なかなか制御できねぇな……」

「リスト?!」

「スクーレとヘラ?!どうしてここに?」

「それはこっちのセリフよ!……まぁその様子じゃ特訓でもしてたんでしょうけど」

「よくわかったな。……実はオレも魔法を使えるようになったんだ。ちょっと見てくれ」


 リストは懐に手を当てて呟いた。すると彼の周りに花びらが舞った。そしてそれはどんどん量を増していき、やがて人の形……姿形そのものがリストに変わった。いわゆる分身だろうか。


「ちょっと待て。何を持っているんだ?お前」

「え?……秘宝だけど」


 リストは懐からその秘宝を取り出してヘラの手の上に乗せた。


「これは……『聖者の涙』?どうしてこんなところに?」

「お前には関係ないだろ」

「……青く光ってる。それなら問題なさそうだな」

「どうしてこれのことを知ってるんだ?」

「本で読んだ。あとカリビアさんの部屋にあったんだ。あの人鉱石とか好きだから」

「……お前、邪悪な心を持ってないんだな」


 リストが秘宝を示した。ヘラの手の上に置いている間ずっと青く光っている。その事だろう。彼は邪悪な心と言っていた。もし持っていたら何が起こるのか、それを考えるだけでなぜか背筋が凍った。


「ん?俺はいつも通りにしてるだけだけど」

「清らかな心を持つ悪魔……ある意味恐ろしいな」

「ねぇ、リスト。あなたもこの上の病院に行く?」

「病院に?……いや、オレは人を探しているんだ。だからパスさせてもらう」

「リストが人探し?合わねぇな。ところで誰を探してるんだ?」

「なんか……黒い長髪の……男の人……」

「ざっくりしすぎだろ」

「魔法を使えるようになったとき、突然声が聞こえたんだ。その時、この特徴を言われた。あの声は……きっとハレティのものだ」

「「ハレティ?!」」


 私とヘラは思わず大声を出してしまった。ハレティが生きている?やっぱりレインとの話は……。じゃあまだシフって人に倒されてなかったのか……!


「……そうだ。だが……録音っぽかったがな。で、黒髪ってムジナとかヘッジとか思い付くんだが、ムジナは短髪だし、ヘッジは微妙だし……」

「……予想できるな……恐らくあいつだろ」

「え?でもハレティってあの人と話したこと無さそうなんだけど……接点がわからないというか……」

「ん?何か知ってそうだな。誰だ?一応聞いておく」


 私はヘラの顔を見た。ヘラが頷く。いいということだろう。


「黒池さんよ。私たちが出発する前はカリビアさんのとこにいたんだけど、どっか行っちゃったわ」

「マジかよ……タイミング悪すぎ」

「ま、おおかた皇希のことだろう。特徴完全一致だし」

「その黒池……皇希?ってやつを探せばいいんだな。違ったら別のやつを探せばいいんだし」

「えぇ。何事もポジティブに考えないとね」

「ポジティブ……か。そうだな。もうあんな目に遭うのはこりごりだし」


 リストは返してもらった秘宝を見つめながら言った。それを見てヘラは睨みつけた。


「リスト……まさかその秘宝の制裁を喰らったのか?」

「!」

「本当なら、今すぐその桜を使うのをやめろ。これは警告だ」

「……どうして?」

「それはプラスの力だとは限らない。お前と秘宝の闇の力が相性良くて、そのまま馴染んでしまったという可能性も否定はできないからな。だからあまり使うな。……お前のためだ」

「……ヘラ……」

「行くぞ。リスト、病院でその力のことも調べてもらう。皇希探しはその次だ。お前は頑張れば登れるだろ」

「ま、まぁな」


 突然話を切り替えたので私は戸惑ったが、ヘラの手をしっかり握って抱き上げてもらった。

 リストは近くの木に鞭を巻き付けているところだ。枝が一本折れているが、何があったのだろう。


「しっかり捕まってろ、スクーレ」

「優しくね」

「あぁ、わかっている」


 ヘラはニヤリと笑い、小さな翼を広げて垂直に、しかも猛スピードで飛び上がった。Gがヤバい……!


「!!!?!」

「こっちのが楽しいだろ?俺って優しいなぁ」

「ヘラのバカぁあああああ!!!」


 優しくないヘラの顔面を思いっきり殴ったあと雪山の方を見ると、先程の壁の上でリストは腕を組んで呆れた顔で見ていた。しかし、少し目線を上にあげるとそこには樹林と雪山が織り成す絶景が広がっていた。


「……綺麗だろう?俺はいつもムジナのところに行くときテレポートを使うのは洞窟の前までにしている。なぜならこの景色を見るためだ。こうして見ると世界にはこんなに素晴らしい景色が広がっているんだなって思えるんだ。俺は人工より自然が好き。俺はこう見えても花を育ててるんだぜ……」


 ヘラはとても幸せそうな顔で絶景を見ていた。彼は本当にこの景色を愛してるんだなって思えた瞬間だった。ヘラの顔を見ていると、彼もこちらに気づいたようで慌ててリストのところへ下ろしてくれた。リストは腕を組んだままこっちに来、遅かったからなのか不機嫌な声で質問してきた。


「二人で何話してたんだ?」

「この山綺麗だねって話。ねー?」

「あぁ。リストも飛べたらいいのにな」

「それ、皮肉かい?」

「さて、どちらでしょう?」


 ヘラは悪魔らしく悪戯な笑みを浮かべておどけた。さっきのヘラらしからぬ言動……あれは夢か幻かと思えてしまう。


「……お前が魔法禁止にしたからだろ」

「それもあるけどね。さ、病院はすぐそこだ。早く行こう」


 ヘラは心底楽しそうに歩き始めた。

 今の彼は昔とは大違い。大切な親友が封印され、とっても荒れていたらしい彼は、レインの話によると引きこもっていたようだ。しかも今は元通りだが、当時は部屋を真っ赤にして明かりを消し、異様な生臭いにおいを充満させていたらしい。


 レインは慣れていると言っていたが、私にとってはすぐ顔を背けた方がいいと言っていた。まぁスフィアが消え、記憶も消えた私には関係のないことだが。


 樹林の中を進んでいくと、ウッドハウスが見えた。ヘラはその扉にノックすると、中からエルフの男の子が出てきた。その子はヘラの顔を見て嬉しそうな顔をし、中へ招き入れた。


「今回はどうしたんだ?」

「あぁ、二つ用事があってだな……」


 ヘラはチラッとリストの方を見た。男の子はリストの方へ歩いていき、まじまじと観察し始めた。一分ほど見終わると、ヘラに耳打ちし始め、ヘラは真剣な表情で頷く。男の子はリストの方へ面と向かった。


「リスト……キミの力は正常。マジックアイテム系はよくわかるんで間違いない。しかし、あまり使わない方がいいよ。使うならゆっくりと、体に負担がかからないようにするのがいいかも」

「そうか……ありがとうな」

「あぁ!あと、そっちのお嬢さん……」

「え、私?」


 突然話しかけられたので私は体をこわばらせた。


「お嬢さん、マジックアイテムの気配を感じる……」

「きっとスフィアのことだろう」

「スフィア……あの勇者伝説の?」

「えぇ。一時期集めたり、一体化したりしてたわ」

「あのスフィアは、所持する人に力を与えます。あなたは人間なのにスフィアのおかげで魔法を撃てた……って感じだと思いますが、スフィア無き今でも魔法の気配を感じるんです。もしかすると……リストみたいに人魔化してきてるかも……」

「えぇ?!」

「で、でもプラスに変えられたらっていう希望もあるから!」


 エルフの男の子は必死に話してくれている。しかし、事実の衝撃でその言葉は耳には届かなかった。


「……ラビス、その辺にしておけ。ありがとう」

「……うん」

「なぁ、ナニルさんはどこにいるんだ?」

「姉ちゃんなら奥で薬作ってる。呼んでくるね」


 ラビスと呼ばれた男の子はナニルさんを呼んでこようと後ろを向いたとき、ヘラが呼び止めた。


「ラビス……ちゃんとナニルさんと仲良くやってるか?」

「……うん。おかげさまで」

「よかった。……行ってもいいぞ」


 ヘラは手を振りながらソファに腰掛け、リストも続いた。私は辺りを見てくると言い、棚などを見ることにした。


 数分後、長い金髪で片目を隠したエルフの女性……ナニルさんがラビスと共に別室から出てきた。ラビスは照れくさそうにしている。ヘラはナニルさんが部屋に入ると同時に立ち上がり、深々とお辞儀をした。リストも帽子を取り、同じようにしている。不思議なオーラを放つ彼女に私は動くことができなかった。


「お久しぶりです、ナニルさん」

「ふふ、元気になったみたいで良かったわ。ヘラさん」

「そんな、あなたの的確な対応のおかげです。それで……」

「えぇ、あなたたちの目的はわかっています。この先、どうするかを占う……ということでしょう?」

「はい。お願いします。……いい未来でも、悪い未来でも……すべてを受け入れる覚悟はできています」

「……そこまで言うなら仕方ないわ。本当は未来の話はしてはいけないけど、どうしてもっていう緊急事態ってことはわかったわ。……後悔はしない?」

「はい」

「……ちょっと待っててくれる?」


 ナニルさんは再び部屋を出て行ってしまった。代わりにラビスが私の方へ歩み寄り、小さな袋を差し出してきた。


「……これ。レイン・ラプルの処方箋。この前来たとき置いてったから渡しておいてほしい。お前がレインの友達ってことは知ってるから頼まれてほしい」

「いいけど……レイン、ここ来たことあるの?」

「よく来てる。入ってるのはそこにも書いてる通り、鎮痛剤だ。最近記憶障害が酷いらしいからな。それで頭が異常な痛さを発生させてるらしい。この話は誰にもしてないって言ってた」

「……そうなんだ」

「ま、ここにはあまり人が来ないから、そういう深刻な悩みを抱えている人が来やすいんだろう。でもレインも大変だな。俺の友達ばかりが立ち寄るこの病院を選ぶなんて。ま、病院なんてここ以外知らないけど」


 そしてラビスまでもが部屋からいなくなった。残された私とヘラとリスト。それぞれ違う行動をしているが、思っていることは同じだった。


「……レイン、記憶障害を起こしていたんだな……」

「無理もないさ。一瞬でも吸血鬼になったということは、一度死んだというのも同じだからな。オレはあいつを看病してわかった。体が冷たかった」


 リストはリメルアとの戦いを思い出しながら言った。あの屋敷はまだ残っている。今は誰もいないが、たまにヘラが掃除のために顔を出しているらしい。


「魂の問題で受け入れられる情報が左右される、ということか。興味深いな」

「魂の話って……死神じゃあるまいし」

「だが、関係はある。たまにハレティがおかしくなっていたことがある。それはその記憶障害と同じではないのか?」

「……ってことは、魂が一度でも体を離れたら記憶があやふやになるってことか?じゃあ……」

「……ムジナも恐らく、記憶障害を起こすだろう。まもなく、な」


 ヘラは窓の外を眺めながら呟いた。

 するとリストがソファから勢いよく立ち上がり、ヘラの肩に手を置いてぐいっと引っ張った。そしてヘラの不機嫌そうな表情を確認したあと胸ぐらを掴んだ。


「……待てよ。お前があんなに助けたがってて、大切な存在だって言ってたんだろ?そんなんでいいのかよ!そんなにドライな言い方でいいのかよ!友達なんだろ?!……なぁ!」


 ものすごい剣幕で捲し立てるリスト。ヘラは胸ぐらを掴む手を振り解き、リストを睨んだ。


「……あぁ。友達どころじゃない。親友だ。だが……こればかりはどうしようもない。あとは……ムジナが死神だということにかけるしかない」

「お前がそんな弱気でいいのかよ!」

「……すまん。外に……行ってくる」


 ヘラはリストの横を通り、玄関の方へと向かった。


「ヘラ!」

「……スクーレ、やめとけ。オレだって言い過ぎた」

「でも……」

「こんなことになるなんて……悪いことの予兆かもな」


 リストはおどけた。こんなことしてる余裕なんてないのに……。

 そうこうしている間にヘラは扉に手をかけた。その時、扉は逆方向からすごい勢いで開いた。


「いてぇっ!」

「わぁっ?!」


 ゴツンと鈍い音と共にヘラの声と少しマヌケな声が聞こえた。ヘラは思わず尻餅をついている。急いで病院に入ってきた男の子は痛がるヘラを見て驚いた。


「ご、ごめんっ!急いでたから……ってヘラ?!」

「ムジナ?!なんでここに?」


 ヘラは赤い目を大きく開き、ムジナ以上に驚いた。


「とっ、とにかくここで隠れさせて!お兄ちゃんが追いかけてくるんだ!」

「え?!何してるんだよ?!」

「いいから!」


 ムジナはヘラを押しながら部屋に入ってきた。その様子を見てリストは冷静になっていた。


「……賑やかになったな」

「本来のヘラって感じよね。ムジナと一緒にいるときが一番楽しそう」

「ふん……親友って言っていたからな」


 リストは秘宝を見つめながら言った。


「リストには親友はいるの?」

「いたさ。死んじまったがな」

「そう……」

「面狐っていうんだ。いいやつだったよ……。この秘宝で蘇らそうと思ったんだが、台無しになっちまった。……オレは面狐の分まで生きてやる」


 リストは言い切ったあとこっちを向いて笑いかけた。数年前まで人間嫌いだったリストにはあり得ない行動だが、本来のリストもこんな人なのかなと思ってしまった。大事な人が消えたら狂ってしまう……それはヘラでもリストでもアルメト様でも誰でも同じなのかと思った。


 リストと話していると、ナニルさんがたくさん道具を持って部屋に入ってきた。彼女はムジナの姿を見て言った。


「……あら、大きな音がしたと思ったらムジナくんじゃないですか。カリビアさんとヘッジさんは元気?」

「ナニルさん!はい、元気ですよ!呆れるほどに!」

「いや、呆れちゃダメだろ」


 ナニルさんの隣でラビスがつっこむ。


「でもやっぱり火傷は治らないみたいです」

「あら……。また軟膏を渡しておくわ。届けてくれる?」

「はい!」


 ムジナは元気に返事をした。

 火傷はカリビアさんの両腕に巻かれてある包帯の下全体的にあるという。いつから火傷しているのかは知らないが、かなり昔ということだろう。


「ナニルさん、占いを……」

「……えぇ。これから占いをするわ。この先の未来を占うのね。そこに座ってちょうだい。……ラビス、電気を消してくれるかしら?」

「わかった」


 ヘラが促し、ナニルさんは持ってきたものを机の上に置いていった。大きな水晶と水と真っ白な何も書かれていないカードが用意されている。全てを置き終わったのを確認し、ラビスは電気を消した。


「……見えました。これは……どちらとも言い難いですね……」


 ナニルさんはカードに炎の魔法をかけ、すぐに水をかけた。そのあと、呪文を唱えると水晶に大きな銃が浮かび上がった。

 ナニルさんは呪文を続ける。すると何も書かれていなかったカードに絵と文字が書かれていった。


「……あなたたち、あまり首を突っ込まない方がいいですね。もう手遅れですけど」

「どういう事なんですか?」

「あなたたち……特にムジナくんとヘラさんはこの問題の中心にいる。なぜなら、問題を起こしている張本人があなたたちがよく知る人間だから。……彼からはあなたたちの波長を感じる。それなのに、彼はあなたたちを倒そうと頑張っている……というところでしょう。彼は今霊界にいるようですが、ここと霊界は大幅に時間の流れが違うので、完全にではないですが、彼は……霊王をかなり危険な状態に陥れている、そう感じます。もうそろそろ決着がつくでしょう。この人間が勝ち、霊王がいなくなるとあなたたちの戦いはこれから先、とんでもなく厳しいものになります。覚悟して取りかかるように」


 ナニルさんは神妙な声で私たちに伝えた。

どうも、グラニュー糖*です!


はっきり言いますとね、四期作るのサボってます!!!

その代わり、昨日今日で四人増えました!

いいのかな?……いいの、かな?

ダメだ、思考がふわふわしてる。

ストーリー進まん……。

四期はつらいと思ってたけど、それにマジで短いと思ってたけど、これほどとは……!


では、また!

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