ベッドのレイン
第二話 殺意をなくした殺人鬼
「大ケガじゃないか!」
「うぅ……カリビア……」
「とにかく手当てをしないと!」
謎の少年に襲われて数時間後、動くことができないオレをいつまで経っても帰ってこないので心配になったカリビアが見つけた。彼はオレを運ぶのにどうしようかと一瞬考えた後の結果がこれだ。
「よいしょ」
「いや、よいしょじゃない!なんでお姫様だっこなんだよ?!」
「ギャーギャー騒ぐと傷口が開くぞ」
「そういう問題じゃ……いててっ!!」
「ほら、寝とけ。安心しろ、落とさないから」
「魔力の欠片もないお前の腕の中で安心して寝れるか!」
「じゃあ一人で帰るんだな」
カリビアは鋭い眼差しで見てきた。
やばい、本気だ、この人。
「ごめんなさい、大人しくしてます」
「よろしい!」
カリビアはオレをバノンまで落とさずに運んでくれた。翼の無い彼のことだ。とても辛かったであろう。
翌日、ヘッジとムジナ兄弟がこの鍛冶屋を訪れた。
「うわ!レイン、どうしたの!?」
「静かにしてくれよ。傷に響くだろ?」
「ご、ごめん……」
反省するムジナの隣でヘッジが口に手を当てて考え始めた。
「それにしても、誰がこんなことを?」
「なんかさ、そいつオレのことをお兄ちゃんなんて呼んでさぁ。オレ、一人っ子なのに……」
「……ちょっとその魔力見させてくれる?」
「いいけど……」
ムジナはオレの手を握り、集中した。しばらくして顔をあげたムジナは納得した表情をしていた。
「やっぱり。襲ったのは霊界を通って人間界に行った子だよ」
「ムジナ、見てたのか?」
「うん。魂だけの時にね。霊界からこっちに戻ってくるときに見たんだ。親族とは思ってたけど、弟だったんだね」
ムジナが謎が解明して嬉しそうに頷く。しかし、どうしてオレに弟なんかいるのだろうか。全く記憶が無いのに……。
「もしかして記憶が一部無くなってるとか?」
「いや、戦ってるときも知らなかったぞ」
「違う違う。無くなってるのが昔からってことだよ」
「ありえるな。何かあったんだろうな」
かわいそうに、とオレを見つめるヘッジ。絶対そんなこと思ってないだろと思いつつ、オレもいろいろ考えてみた。
同じ呪術師。知らない弟。消えた記憶……。
どれも信じられないことだが、事実なのは確かだろう。死神であるムジナがそう言っているのだから。嘘偽りなど無い。いや、あってはならない。なぜなら魔力はその人の個性、魂の存在を示すものだからだ。それが他人のものとなれば、それはクローンか生き霊か……とにかくありえないものなのだから。それを見分けるのが死神という種族……の中でも僅かな者だけだ。その中にムジナが含まれている。
「レイン本人が覚えていないなら、弟が知ってるかもね」
「おぉ、ムジナにしちゃ冴えてるな」
「ヘッジ、お前は何も考えてないじゃないか……」
呆れたオレがヘッジの黄色の瞳を睨んでいると、カリビアが店のカウンターと彼の部屋……つまりオレたちが今いる部屋を繋ぐ梯子を上ってきた。
「あ、ヘッジとムジナくん来てたのか」
「うん。店はもういいのか?」
「まだまだだ。三人とも、これから客人が来るから静かにしておいてくれよ」
「客人?普通の客じゃないのか?」
「オレの師と言える人、かな」
「師?聞いたことないけど」
ヘッジは首をかしげる。
「ヘッジは知らなくて当然だ。お前がいない時に来てるからな」
「なんで紹介してくれなかったの!?」
「い、いや、なんでって……」
「おーい、カリビア!上にいるのかー?」
ヘッジのものすごい剣幕に圧倒されたカリビアが視線のやりどころに困っていると、下から女性の声が聞こえた。この人がカリビアの師匠……?
「ゲッ……もう来たのか……」
「おい、今『ゲッ』って……おぐほぉっ!?」
グーパンだ。この人怪我人にグーパンしやがった。
「はーい、今行きます!」
「か、カリビア……ケガ人には優しくって……」
「そんな教え知りませーん♪」
「あっ、こら、逃げんな!」
カリビアはいたずらっ子のような笑みを浮かべ、梯子を下りてしまった。ヘッジは横で腹を抱えて笑っている。ムジナはオレとヘッジを交互に見てどうしようかとオロオロしている。ヘッジめ、完治したら覚悟しろ。
その後ヘッジたちが帰り、一時間くらい経つと再びカリビアが部屋に戻ってきた。
「二人とも帰っちゃったのか」
「長いからって言ってたぞ」
「もう……まぁヘッジも暇じゃないしね」
「え?あいつ、何かやってたっけ?」
「知らなかったっけ?死神王だよ」
「死神王~?」
オレは聞きなれない言葉に首をかしげた。カリビアは近くに置いてあった本を手に取った。彼はそのままベッドの横にある椅子に座り、オレの頭を撫でながら話を続けた。
「クノリティアには昔から仲が悪い奴がいたんだ。ムジナは彼女と仲良くしてほしかったらしいが、どっか行っちまってよ……。強力な死神、ヘッジと彼女のどちらかを死神王にしようとしていたらしいけど、自動的にヘッジになったってことだ」
「この前クノリティアに行ったとき、ヘッジは嫌われてたのに?」
オレはあいつ呼ばわりされていたことを思い出しながらカリビアに聞いた。
「それはクノリティアを守る強い死神がヘッジのせいでいなくなったと言ってる奴らだよ。そいつらは強くてさ……ヘッジは悪くないって言ってる奴らを脅かしてたから、反ヘッジ派しかいないように見えたってわけ」
「へー、大変なんだな」
「それに死神王の仕事は結構精神的にキツいらしい」
「そうなの?」
「あぁ。だって死ぬところを見ないといけないんだぞ?魂の声がうるさくて、仕事も多くて、かなり面倒みたいだからな」
そう言って彼は撫でるのを止め、今度はベッドに顔を埋めた。頬杖をつき、オレの顔を覗き込んだあと、疲れが溜まっていたのかウトウトし始め、ついには眠ってしまった。
「おいおい……まだ夕方だぞ?……仕方ない、誰か呼んで店閉めてもらおっと」
オレは傷だらけの手を伸ばし、仕事用に置いている電話を操作し、近くに来ているというヘラに電話した。
「もしもし、ヘラ。今どこにいる?」
『あれ、その声はレイン?へー、カリビアさんのとこにいるんだー』
電話の向こうからのんきな声が聞こえた。
「ま、まぁそうだけど……カリビアの店、閉めといてくんない?」
『えー?自分でやってよ』
「オレは今動けないんだ!頼む!」
『しょうがないなぁ……今バノンの図書館の外にいるんだ。ちょっと待ってて』
「わかった。来てくれるだけでも助かる」
『何か買った方がいい?』
「そうだな……カリビアってば寝ちまったし、すぐ食べれそうなの買ってきて」
『了解』
数年経って、ヘラは変わった。昔はぶっきらぼうな奴だったのに、ムジナがこの魔界に戻ってから表情豊かで優しい人になっていた。
一緒に旅していた時に感じていた呪いの力もすっかり無くなり、親切になった。何と言うか……人が変わったような。
あの呪いが消えたきっかけ。それはハレティという霊王が消えたこと。ハレティがいなくなったことにより、呪いの出所がなくなったということで解けたのだ。
リメルアを倒させ、自分も消えて、ヘラとムジナを再び平和な生活に戻す……。ハレティはその未来を掴ませようといろいろ準備してきたのだろうか。
しかし、大きな誤算があった。
それは、いろんな人を巻き込みすぎたこと。行方不明とされていたカリビアから始まり、ヘッジ、オレ、リスト、そしてスクーレ……他にもたくさんいる。ハレティはみんながあの事を忘れると思って準備してきたのだろうが、オレたちはあの事を忘れないようにしている。この前だってスクーレが手帳を持って「ハレティはちゃんと存在している!消えてなんかない!」って騒いでいたんだが……。
「……なに真剣な顔してんの?」
「う、うぉっ!?……いててて……」
いつの間にかヘラが到着していたようだ。オレは思わず飛び退き、傷が痛んでしまった。ヘラはそんなオレを見てクククと笑った。
「ベッドに縛りつけられてるレイン、なんか面白い」
「面白いわけないだろ!」
「そんなに騒いだらカリビアさん起きちゃうよ」
「お前のせいだろ!?」
オレは半分怒鳴るように、半分呆れるように叫んだ。ヘラは「どうだかね~?」と言いながらニヤニヤしている。昔からこいつは変な奴と思っていたが、どうやらその称号はぴったり合っていたらしい。
しばらくオレたちが話していると、下半身の方でもぞもぞと動くものを感じた。あれほど爆睡していたカリビアが目を覚ましたのだ。
「んー……ヘラくん、来てたのか……って今何時!?」
「六時くらいです」
「やばっ!店閉めないと!あとあの武器を……」
「ストップストップ!今日はもう休んでてください!俺が閉めてきますから!ヘロヘロじゃないですか!」
「でも悪いし……」
「今日はカリビアさんもレインも俺が世話します!」
ヘラは自信満々に胸を叩いた。
一方、オレは驚きのあまり口をあんぐりと開けていた……。
どうも、グラニュー糖*です!
腰が痛いんです。
喉も痛いんです。
やばいですね。うん。
ここ最近気温の変化がすごいことになってるんで、みなさんも気を付けてくださいね!
レインみたいになりますよ!
では、また!