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怪奇討伐部Ⅲ  作者: グラニュー糖*
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天才少年イリア

第十八話 氷の地を這う無人探査機



 人は一度でも夢見たことあるだろう。

 見たことのない世界、自分だけの世界、不思議な世界。

 それはただの妄想にすぎない。しかし、そんな不思議な世界が実在するとしたら?その夢を誰かと共有できたら?

 ……僕は喜んで悪魔にでも魂を売り出すかもしれない。


「……はぁ、着いてすぐ、まさかこんなことになるなんてなぁ……」


 僕は今、吹雪の中に突っ立っている。なんでこんなことになったのか……理由はリーダーであるシフさんにあった。


__________


『手分けして悪魔どもをぶっ倒そうねー♪はーい、イリアくんはこっちのワープホールねー』


 ドーンッ


『……?!』


__________


____今になって思えば、あれがどれだけバカなことなのか、身にしみている。


 だが、僕の発明品は優秀で、肉眼では真っ白なこの景色も、手元の機械の前では地形や行くべき方角が記される……つまり丸裸だ。


「……まぁ寒さはしのげられないけどね。どっかに建物無いかなぁ」


 僕は深い雪の中を歩いていく。最年少の僕をこんな過酷なところに連れていくなんてと思ったが、この世界のどこにも安全地帯なんて無いのかと考えると、どうでもよくなった。


「あれ、この辺すっごく寒い」


 地図には通常通り……地形が普通に表示されているが、氷があるなんてどこにも表示されていない。機械にもわからないことはあるのだ。だから人間の目が必要となる。僕は端末をポケットに入れ、その寒い方向へと歩き出した。


「……わぁ……!なんだ、この氷漬けの町!最初に洞窟と悩んだけど……ここなら寒さをしのげそうだ!多分!」


 僕は思わず口に出してしまった。すぐに口を塞ぎ、誰か聞いていないかを確認する。ここでは油断してはいけないのだ。


「……それにしてもドアが凍ってちゃ入れないなぁ」


 僕は町を警戒しながら歩いている。そして氷が少しマシな建物の裏に駆け込み、ポケットから端末を取り出して操作した。持ってきた鞄から背が低いロボットを取り出し、氷漬けの町に放った。このロボットにはカメラが付いている。これで少しでも情報を得られればいいが……。


「もしかしてここってシフさんが言ってたクノリティアかな?」


 ロボットのカメラ無線で端末にデータを送りつけてくる。僕はそれが見せてくれる景色を見てシフさんの話を思い出した。


____ムジナの家はとっても寒い町なんだ。山の上にあって、洞窟を抜けないと決して到着しない。あの土地の名前は……クノリティア。


「ここならもしかして探しているムジナが見つかるかもしれない。急ごう」


 僕は建物の裏から飛び出した。すると、左半身に大きな衝撃を受け、その場に倒れてしまった。思わず手を離してしまい、端末が放物線を描いて雪の上に落ちる。


「いってて……」

「大丈夫?」

「あ……うん……」


 黒髪の男の子は僕に手を差し伸べてきた。僕はその手を取り、立ち上がった。


「君は?見たところ人間だよね?」

「……」

「大丈夫!襲ったりしないよ!……オレには他に倒すべき人がいるからね」


 男の子は「えへへ……」とはにかんだ。見た感じ悪い人ではなさそうだ。


「ここは危険だ。オレも今から離れるところだから一緒に行こう!」

「あ、待って!」

「ん?」

「これ落ちちゃった……」


 僕は後ろを向き、雪に埋もれかけた端末を拾う。彼はそれを不思議そうに見ていた。


「……どうしたの?」

「そのちっちゃいやつ、何?」

「あー……スマホってやつ」

「スマホ?……わ、光った!」

「……お兄さん、いつの時代の人なの……?」


 呆れる僕を見て彼はケラケラと笑った。まったく、調子おかしくなるなぁ……。


「わかんない。何年間か閉じ込められていたからね」

「お兄さん……かわいそう」

「大丈夫。今だってとっても楽しいから」


 新しいおもちゃを買ってもらって喜ぶ子供のような笑顔。……得たのはおもちゃなんかではなく、自由だけど……。


「……そういえば、お兄さんの名前は?」

「そういうのは自分から名乗るものだよ」

「あ……僕はイリアです」

「オレはムジナだよ。よろしくね」


 お兄さんはにっこり笑った。……ってムジナ?!シフさんに見せてもらった写真と全く変わらないんだけど……。


「あ、わ、わっ……」

「ん?どしたの?」

「な、なんでもないよっ!」

「そう?ま、とにかく急いでるから早く行こっか」

「え、どこにですか?」

「どこか。お兄ちゃんを探すんだ」


 ムジナは瞳に危険な光を灯しながら僕に告げた。


__________


「た、ただいま……」


 カリビアさんがフラフラになって帰ってきたのは昼過ぎだった。ちょうど町を出ていたヘラがカリビアさんとレインを見つけ、テレポートで帰ってきたのだ。


「おかえりなさい!……ってボロボロじゃないですか!」

「レインを連れてきた。……あれ、ヘッジは?」

「昨日から寝たきりで……」

「寝たきり?仕事の疲れが出たのかな……とりあえずそっとしておこう」


 カリビアさんは髪をくくっていたリボンを外しながら指示した。以外と長いなぁ……なんだか女の子みたい。


「あ、あの……こんにちは」

「君が黒池くんか。話は聞いているよ。剣を直してほしいんだね?」

「はい。……僕の剣は直りますか?」

「もちろん。もっと折れにくくしてあげるからね」


 カリビアさんはウインクをする。しかしそのあとすぐに片手で頭を押さえて膝から崩れ落ちた。


「大丈夫ですか?!僕の剣はあとでいいので、ゆっくり休んでてください!」

「あ、あぁ……すまんな……」


 カリビアさんは黒池さんに支えられ、椅子に座らされた。……お尋ね者と刑事さんが一緒にいるなんてとんでもない光景だ。


「レインは俺が連れていく。スクーレ、何か飲み物でも出しておいてくれないか?」

「わかったわ」


 ヘラは動けないレインを連れて店の外へ出た。店からプライベートルームに行くには、はしごを上らないといけない。しかし今のレインには不可能なので、店の外の階段で上っていくしか方法がないのだ。


「……ヘラ……」

「あんまり無理するな。……明日たくさん話してもらうからな」

「ふっ……甘くねぇな。ケガ人だぞ?」

「俺がここまでする方が珍しいけどな。……だが、本当に信頼できる相手には服を縫う。レイン、お前が俺にそこまでさせるほど信頼できるくらいになるか、楽しみだ」

「……ムジナのことか」

「あぁ。あいつは……俺が支えてやらないといけない。なのに……どうしていつも障害があるんだろうな……」


 ヘラは悲しそうに言った。


「障害って、ハレティのこととか、今回のことか?」

「そうだ。あとリメルアのこともな。……俺は下に戻るが、何か欲しいものはあるか?」

「いらない」

「そうか」


 ヘラははしごに手をかけた。最後にレインの方を見て微笑み、そのまま下りていった。


「レイン、何か言ってた?」

「いや。おとなしかった」


 私の質問にヘラはそっぽを向いて答えた。私はそれが嘘だとわかった。わかっていることもヘラの想定内だろう。なぜなら、何も焦っていないからだ。つまり別に大した話じゃないということだ。


「……レインとカリビア、帰ってきたのか」

「あ、ヘッジさん……しーっですよ」

「……なんだ、寝てるのか」


 ヘッジさんは隣の作業場から出てきた。カリビアさんにはヘッジさんは寝たきりと伝えたが、実は思いっきり起きていた。……カリビアさんの仕事を増やしたくなかったからだ。


「リボンを取るほど疲れてるんだな」

「リボンに意味なんてあるんですか?」

「あぁ。あれもこの首についてるマジックアイテムの類いだ。昔とある呪術師に呪いをかけてもらった。あのリボンは呪いを受け止める器なんだが、その内容は体の限度を超えて動くようにすることだ。言っておくが、今のカリビアには魔王軍のときの力は出せない」

「ちょっと待ってください!あの戦いのとき、武器とか服装も変わってたんですよ?!」


 ヘラの言葉にヘッジさんは目を丸くした。……ヘッジさんに頼まれたとは言っていたが、まさかそこまでやるとは思っていなかったのだろう。


「……これからのことを案じたのかもな」

「これからのこと?」

「この先のことは言えない。どうしても聞きたいなら、ナニルの病院に行ってみてはどうだ?」

「ナニルって……」

「レインが言っていたところか。あそこにはエルフの姉弟がいるって言ってたな」

「病院って珍しいわね。全然見かけないわ」

「一番最初に病院を始めたところだからな。最初で最後になるかもしれないけど」


 ヘッジさんは目線をそらしながら話す。


「じゃあ午後は病院に向かうことになるな」

「どの辺にあるのか知ってますか?」

「クノリティアの雪山の麓だ。彼女の占いを聞いてみるといい。あの占いは……よく当たる」


 そう言ったヘッジさんの表情はとても暗かった。エルフのナニルさんの占いとはどのようなものなのだろうか。それに、ヘッジさんの様子からすると悪いことだろう。

 ……いい未来、悪い未来。私たちはどうなるかを知っていながらもそれに立ち向かうことになるだろう。

どうも、グラニュー糖*です!


最近イリア描くようになりました。

今週末は予定が入ってるんで描けないのが残念です。

今週日曜、あべのハルカスの展望台のイベントのうちのひとつ、「ファッションショー」に出演するんでよかったら見に来てくださいね!


では、また!

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