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怪奇討伐部Ⅲ  作者: グラニュー糖*
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苦労人カリビア

第十六話 氷の魔法の解決法



 数時間前、俺と隣にいる人間……黒池皇希は人間の聖地とされているアメルの丘で戦っていた。勝利は見事俺が勝ち取ったが、最後の攻防の際に黒池の剣が粉砕してしまった。なので俺はカリビアさんの店を紹介したのだが……。


「カリビアさんいないんですか?!」


 カリビアさんの代わりにヘッジさんとヤーマイロがいたのだ。


「あぁ。いなくなったレインを探しに出かけた」

「そ、そうなんですか……」

「……すまんな。引き止められなかったんだ」


 どこか憔悴しきったような表情で語るヘッジさん。何かあったのだろうか?


「……ちょっと話があるわ。ヘラ、工房に来て」

「話?……というか、ヤーマイロ……なんでここにいるんだよ」

「それも話すの!」


 俺は不思議そうにしているスクーレと皇希をおいてヤーマイロと工房に向かった。スクーレが皇希の剣の柄を持ってヘッジさんと話している。ここに放っておいても問題無さそうだ。


「……えぇっ?!……むぐっ」

「しーっ!大声上げないの!」


 俺はヤーマイロの話にひどく驚いた。何てったって、またムジナが囚われたのだから。俺は声を上げてしまったため、ヤーマイロに口を押さえられた。


「ごめん……」

「いいわ。そんなことより、助けに行かなくていいの?」

「……元はといえばお前の相方のせいだろ。何とかしろよ」

「無理よ。籠城しちゃってるもん」

「だから炎を使う俺に頼んだのか」

「えぇ、そうよ。それにあの魔法の弱点知ってるそうじゃない」

「……結界のことか」

「そう。何とかならない?」


 俺は少し考え込んだ。あの魔法は確かに結界に弱い。もしかすると今回もそれで抑え込めるだろう。しかし、あの戦いで結界はだいぶ弱ったはずでは……。


「今は結界自体が弱ってる。不可能だ」

「そんな……」


 ヤーマイロはとても悲しそうな顔をした。よく見ると体のところどころに凍傷が見られる。きっとサメラにやられたのだろう。大人しい奴ほど酷いと聞いたが、まさかここまでやるとは思わなかった。


「とりあえず温めよう。そんな体じゃどこにも行けないだろ?」

「……うん。ありがと」


 俺はその小さな体を抱き締めた。吸血鬼だからなのか、冷たい体がさらに冷たく感じた。



__________



 レインを待ち続けてどのくらい経っただろうか。もう太陽はとっくに暮れている。ずっと立っていた店の開店時間はとうの昔に過ぎた。オレは特に何も買わずにその店をあとにし……そして空には星が瞬きだした。


「……全然来ないじゃないか……」


 オレは空を見上げて呟いた。


____レインの弟にここに来るって言われたのに、何時間経っても来ないじゃないか!……でも待つしかないよなぁ。


「……はぁ……」


 オレはさらにため息をついた。と、その時だった。どこからか鉄が擦れる音がした。音の感じからしてオレが整備したのと似ている……。というかこれはレインの剣じゃないか!


「レイン!」

「うへ!?なんでここにいるんだよ!翼無いくせに!……あぎゃ?!いたたた……」


 ひどく驚いたレインの体の節々がダメージを受けているようだ。


「大丈夫か?……帰るぞ」

「ダメだ!ハレティが助けを求めてる!」

「そんな姿で戦えるわけないだろ!少しは自分の立場を考えろ!」

「ひっ……」


 オレは思わず感情に身を任せて叫んでしまった。レインは目を見開き、涙目になってしまった。……しまった、つい副隊長やってたときのクセが出てしまった……。


「……すまない。オレの管理が悪かった」

「ごめんなさい……」

「いいんだ。さぁ、帰ろう」


 オレは歩き疲れてボロボロになったレインの手をとった。包帯がほどけかけている。家に戻ったら巻き直さないと。


「……オレ、なんか疲れちゃった」

「じゃあどこかに泊まっていこうか。ここは大都市だし、ホテルとかあるだろう。生憎オレは人前に出られない。お金渡すから受け付けに行ってくれるかい?」

「あぁ!」


 返事をするレインの顔には、先程の怯えた表情はなかった。



 ホテルについたオレたち。レインを受け付けに行かせ、オレは人目につかないような場所で待機していた。もしオレを知るような人がいるならば混乱を起こすかもしれないからだ。


「チェックインしてきたよ!」

「ごめんな。こんな怪我している人に行かせて」

「いいんだ。カリビアが見つかるよりマシだから」

「……!本当に……ありがとう」


 レインの顔に笑顔が戻った。言ったことはないが……やはり子供には笑顔が一番だ。


「部屋……行ったら包帯巻き直してやるよ」


 オレは体力的にも肉体的にも限界なレインをおんぶし、部屋に向かった。


「……勝手に出てってごめんなさい」

「いいよ。無事だったんだし」

「……これからも手紙受け取ってくれる?」

「その事なんだが……」


 オレがあの手紙に書いてあったことについて話そうとレインの顔を見ると、彼の目には涙が浮かんでいた。


「……受け取ってくれないの?」

「違う!……今起こっている問題が解決されるかがお前の手紙の内容にかかってるんだ!」

「え?」

「お前が受けた氷の魔法……あれが今ヘッジの側近とムジナを脅かしている。どうか……助けてやってくれ」

「じゃあ……これからも受け取ってくれるのか?!」


 疲れきっていたレインの目に光が戻る。


「もちろん。これからもよろしくな」

「あぁ!」

「……で、話だが……」

「うん。……あの魔法は炎じゃどうにもならない。どうにかできるのは結界だけだ」

「でもその結界が使えなかったら?」

「それをオレは調べた。操られてるとき、内側でこっそり魔法の逆探知を行ってた。そして見つけたんだ!あの魔法の奥底を!」


 レインは包帯を取り替えていない方の拳を握った。ちなみにオレは他の場所の包帯を取り替えながら話を聞いている。


「あの魔法は、単なる氷の魔法じゃない。悪魔の力ではどうにもならない不思議な力で補助されていたんだ!」

「不思議な力?」

「そう。それがとても厄介なもので……。つまり聖なる力。信じられないが、あれは紛れもなく神の力だ」

「神……そんなものいるものか」


 オレは下を向いた。ずっと包帯を変えずに放置していたオレの両腕の火傷がまたズキズキと脈打つように感じた気がした。

 ……神なんているものか。いや、いてたまるか。神なんかのせいでオレの部下たちは……!オレはあの日から何も信じなくなったんだから。


「……まぁ、あくまで推測だけどさ。現にオレは呪術師なのにあの魔法を解除できなかった」


 レインは肩を震わせながら下を向いて唇を噛んだ。

 ……あの手紙にも書いていた。


____オレがしっかりしてなかったからスクーレとヘラに迷惑をかけてしまった。しかもオレは二人に攻撃をしたなんて……最低だ。……と。


 レインは少しムカつく奴だが、なぜか憎めない奴だ。それに見た目にそぐわず、よく反省する奴だ。


「でもとても興味のある話だ。それに役に立つときが来た。それでいいじゃないか。だから元気出せ」

「カリビア……」


 オレは包帯を片付けながらレインに笑いかけた。オレだっていつもプラスに考えてきた。そうじゃないとやっていけない時世だったから……。いや、もしかするとオレの周りだけだったかもしれない。


「ほら、今日はゆっくり眠れ。オレはヘッジに魔法のことについて電話かけておくから」

「……うん、ありがと……くぁぁ」


 今日はたくさん歩いて疲れたのか、大きなあくびをして今すぐにでも寝ますというようにうとうとし始めた。オレはレインの体に負担がかからないように、そっとベッドに横たわらせ、布団をかけた。そしてそのまま寝息をたてて眠り始めた。


 オレはそんなレインを見て少しだけ嬉しくなった。昔のオレはこんな光景を見ることがないだろうと思っていたからだ。軍なんかそんなこととは無縁だったから。今の生活は昔と比べて天と地ほどの差があると言っても過言ではない。……オレは単に嬉しいんだ。


「……さて、ヘッジに連絡入れておかないとな」


 ヘッジは半吸血鬼になったあと、ほぼ寝ていないらしい。……もし寝ていたらヤーマイロが起こすかもしれないが。オレは二人に無理をさせたくない。オレが一番よく生きているから。苦労するのはオレだけで十分だ。彼らはまだまだ若い。それに比べ、オレは長く生きている。数々の死地を生き延びてきたオレの悪運がまだ続いてくれるのなら……彼らとこれからもずっと一緒にいたい。


「……もしもし、ヤーマイロか。……あぁ。別に大丈夫だ。それより魔法の弱点が……え?人間が入ってきたって?剣を直してほしい?……ヘラが剣を壊しちゃったって……えー……。わかった。何とかするよ。……で魔法のことなんだけどさ……」


 ……そして軽く一時間ほどヤーマイロと話した。他の皆は眠ってしまっているらしい。ヘッジに至っては晩ご飯すら食べていないようだ。


「でもよかった。レインに会えて」

「魔法の弱点が見つかったから?」

「いいや。それもあるけど……大切なことを思い出させてくれたんだから」

「へぇ……」


 オレはなんだかんだ言ってレインと暮らすのを楽しんでいる。突然押しかけてきたときはびっくりしたが、あいつ自身が強くなりたいと願っていたからオレは許可した。


「……家に戻ったら、レインをあの病院に連れて行く。レインには早く治ってもらわないといけないからな。それに……あの二人は信用できる」

「病院なんかあったの?」

「あぁ。森の奥にな。エルフ族が経営してるんだ。未だに病院はあそこだけだが、オレ的にはもっと増えてもいいと思うんだ……ふぁぁ」

「……寝たら?」

「ふふ、そうだね」


 オレのあくびを聞き、ヤーマイロは呆れたように睡眠を誘った。今日はいろんなことがあった。明日も早い。今日はもう休息を取ることにしよう。……いつまでも大人ぶっていてはオレの体はもたないだろうし。

 そう考えていると、電話の向こうから泣きそうな声が聞こえてきた。


「……サメラは、悪くないよね?サメラの魔法、解いてくれるよね?」

「あぁ。ヤーマイロ、お前がサメラを想う気持ちがあればきっとサメラはお前の元に戻ってきてくれるだろう。ものは試しだ。だから……悪魔のお前に言うのもアレだが……ずっと祈っておいてやれ」


 オレは眠すぎて何言ってるのかわからなくなってきた。なので冷静になって考えた。なんだよ、祈るって。誰に祈るんだよ……。


「面白い人ね。……ほら、しっかり睡眠をとりなさいよ。大丈夫、私がみんなを守ってるから」

「……ありがとう」


 オレはヤーマイロに礼を言い、風呂に入る準備を始めた。

どうも、グラニュー糖*です!


カリビア好きにはたまらない話でしたね!(誰得)

カリビアのデザイン、設定の時は、ルーズリーフに「鍛冶屋」って書いて、パパパッとデザインして、脳内を洪水のように駆け巡るネタや設定を載せまくりました。いつものことなんですけどね!!


では、また!

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