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怪奇討伐部Ⅲ  作者: グラニュー糖*
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騎士の心

第十五話 決着、闇と光



__________



「あの時ね、私知ってたのよ。ヘラと戦ってたとき、あなた……私をずっと見てたでしょ」

「……何のことですか」


 スクーレさんが一生懸命ヘラを起こしているとき、僕はリメルアと話していた。話の内容はもちろんあの日の話だ。

 リメルアは吸血鬼だから、ホコリのようなにおいがする。そういえばあそこも同じにおいがしたなぁ……。


「ヘラが勝ったとき、嫌そうな顔してたでしょ?戻りたくないって」


 どうして悪魔なんかに僕の心が読めたんだろう。あの時、僕は本当にどうかしてた……。


「……僕は戻りたくなかったよ。毎日不思議なことが起こってくれたらって思ってた。そして叶ったんだ。まさか誰も吸血鬼に非常食として捕まるなんて思いもしないでしょ?なのに……あの人は……」


 僕はあの人の顔を思い出した。一緒に捕まった男の子……今のデスのことを。


「ずっと『帰りたい』って言ってたんでしょ?」

「!」

「聞こえてたわよ。でもね、こっちにも生活ってのがあるの」

「……そしてある日、ヘラが襲ってきた……」


 僕は倒れているヘラを見た。僕から不思議なことを奪った彼。……でもどうしてこんなに綺麗に見えるのだろうか。


「僕は人間界に戻ったあと、不思議を探し続けたよ。……それで何年か後に事件が起こったんだ」

「事件?」

「僕が親を撃ち殺したんだ」

「やんちゃね」

「うん……。子供だったからお咎め無しだったよ。……その時行った警察署に気になるものがあったんだ」


____気になるもの……それは僕に大きな衝撃を与えた。これが僕が探していたものだ、と。


「それがあなたがいる警察署なのね」

「うん。だって、警察に監視される側の人たちが勤めてるんだよ?心理学とかではなくて自分の超能力といわれるもので心を読んだり!僕は驚いたさ!だから言ったんだ。いつかここに勤めてやるって!」


 僕は先輩の顔を思い出しながら言った。正気か?というような表情を。


「……ねぇ、どうやってまた魔界に来たの?」

「それは秘密ですよ。あと、シフくんには嘘をつきました。悪魔は知らないなんて嘘をね。逆によく知ってるぐらいです」

「シフってハレティが言ってた人間ね」

「あなたもよく知ってるんですね」

「私を何だと思っている」

「僕にはハレティを殺した人としか見えません」

「あ、そう」


 僕は笑顔で僕の体を押さえつけるリメルアを怒らせることをわざと言った。これで僕に危害を加えるために力が緩んだときに抜け出そうとしたが……そう上手くはいかなかった。


「……逃げようとしても無駄よ?」

「ぐっ……」

「あの頃から随分と大きくなっちゃって」

「……男の成長はすごいっていいますからね」


 僕は精神的に少し参ってきてしまってるが、それを勘付かれないように返事した。


「……はぁ。ヘラってばお寝坊さんね。本当に血を吸ってやろうかしら」

「悪魔の血なんか美味しくないですってば。多分」

「あら、人間なら美味しいって言いたいの?……そっか、あなたの血吸わせてくれるのね?何年越しかしらね」

「そ、そんなこと言ってない!」


 僕はやけくそに叫んだ。そしてチラッとスクーレさんの方を見る。ずっとヘラ!と叫んでいる。……少し不憫に思えてきた。

 ヘラは依然として目を覚まさない。悪魔も人間と同じようなところがあるんだと思った。それにしても……諦めないところがすごい。


 僕は動かないヘラを見てあの日のことを思い出した。

 まだあどけなさが残る、子供だった僕らと同じような年齢に見える彼がリメルアに立ち向かっていったところ。そして正気ではなかったが、リメルアに勝ったこと。あと……人間界に帰そうとしたこと。

 その全てが僕にとっては障害だった。不思議を追い求める僕にとって最も不要なものだった。ヘラの存在こそが不思議だったが、その時の僕には不思議でも何でもない、ただ要らないものだったんだ。


____ヘラが目を覚まさない。こんなチャンスが他にあるだろうか。


「……」

「ちょっと、どこ行こうとしてるのよ」

「離してください」

「ダメよ」

「僕にはやることがある!」


 僕は必死に体を動かしたが、リメルアの人間離れした力には勝てなかった。


「どうして?!あなたもヘラに倒されて、ヘラのことを憎んでるんじゃないんですか?!」

「……憎んでるわよ。今でもね」

「じゃあなぜ……!」

「あなたがこの世界に相応しくないからよ」

「?!」


 僕は驚いた。……別に言葉に驚いたわけじゃない。リメルアの言い方に驚いたのだ。どこか悔しそうな、悲しそうな……僕を強く握るその手にさらに力を込めながら言ったのだ。


「考えてみなさいよ。人間たちは好きでやってるわけだろうけど、私たちにとってはいい迷惑なの。突然非日常になったら誰だって困るわ。ムジナやヘラやスクーレだって最初は平和に暮らしてたのに、どこかがおかしくなるとその平和は簡単に壊れるのよ」

「うるさいっ!僕から日常を奪ったのはみんな悪魔のせいだ!」

「……深く悪魔に近づきすぎたのね。かわいそうに」


 リメルアはまるで同情してますとばかりに呟く。そして彼女の手の力が緩み、僕は解放された。なぜなのかはすぐに予想がついた。ヘラが目覚めたからだ。


「ヘラ!」

「……すまんな。俺、血が少なくて倒れたみたいだな……」


 ヘラはスクーレさんに申し訳なさそうに言った。その答えとしてスクーレさんは何も言わずに彼の体を強く抱きしめた。


「あーあ、ヘラの血を吸えなくて残念だわー」


 それを見てリメルアは明らかな棒読みでおどけた。この人、嫌いな人のために時間稼ぎを……。


「リメルア……」

「……やーね、人徳って大切よねぇ。でもちゃんと時間は稼いだわよ」

「……感謝する」

「なに赤くなってるのよ。そういう顔は好きな人の前でやるものなのよ。インキュバスなのに知らないっておかしいわね」


 リメルアがスクーレさんの方を見てウインクした。……なるほど、悪魔も人間も同じと言いたいわけか。


「……この子の目的も聞き出せたことだし、私は怒られる前に戻るわ」

「目的……?」

「それは本人から聞き出しなさい。じゃあね」

「ま、待てっ!」


 リメルアはヘラの制止を聞かずに飛び去ってしまった。丘周辺にいたと思われる人間たちの叫び声が聞こえたが、僕にとって知ったこっちゃない。


「……ねぇ、目的って何なの?」

「そんなに簡単に教えるわけないじゃないですか」

「やっぱり力ずくじゃないとダメってわけか」

「でも、さっきのは大ヒントでしたけどね」

「ふん、貧血で頭が回らねぇな!」


 ヘラがコートを脱ぎ、腰に巻いた。動きやすくするためなのか、単に血を止めるためなのか……。そんなことはどうでもいい。弱っている今がヘラを倒すチャンスだ。


「……人間相手に使いたくなかったが……ここは本気じゃねぇとな」


 ヘラは何かを呟き、深呼吸をした。すると、みるみるうちに彼の髪が黒くなっていき、彼の手も変化していった。何というか……ドラゴンのような。そして先程とは全く違う殺気を放ちだした。


「ヘラ!あの人を殺す気なの!?」

「……大丈夫。殺しはしない。ちょっと本気を出すだけだ」

「それを殺すっていうのー!!」


 僕は集中するために二人の会話を聞かないことにした。僕は僕のために戦う。絶対に負けたりはしない!


「いくぞ!!」

「……来い!」


 ヘラは叫ぶと同時に駆け出した。ヘラは獣のような咆哮をあげた。彼の剣はそれに答えるように風を切る音を響かせる。次の瞬間、彼は剣を振り下ろした。僕は咄嗟に剣を横に構え、防御の姿勢をとった。重い一撃が僕と僕の剣に襲いかかる。


「ぐっ……」

「はぁあああっ!!」


 ヘラは大きくなった翼にも力を込め、僕への衝撃を強化しだした。

 剣を構える腕が震える。僕はヘラの顔を見た。するとどうだろう。彼の目には涙が浮かんでいるではないか。


 僕が動こうとした時だった。ビシリと嫌な音が聞こえた。それは絶え間なく続き、ついには僕の剣が粉々に砕けてしまった……。

 僕は信じられなかった。誰だってそうだろう。ずっと手に持って、ずっと自分を守ってきたものが呆気なく壊れてしまったのだから。

 それでもなおヘラは僕の顔を見つめ続ける。その紅く大きな瞳で。

 いつの間にかヘラの髪は綺麗な紅に戻っていた。その後、ヘラは剣を呼び出した異界に突っ込み、その様子を僕はただじっと見つめることしかできなかった。


 力が入らない。腕は衝撃で未だに震えている。混乱で頭が回らない。足元には砕けた剣の欠片が散らばっている。その欠片一つ一つが背後の大木の葉を映していた。


「……勝負あったな、皇希」

「……」


 僕はずっと密かにヘラを倒すための特訓を行っていたというのに。シフくんが提供してくれたデータを元に鍛えてきたのに……。あの力は見たことがない。潜在能力なんて聞いたこともない。


「さぁ、お前の目的を聞かせてもらおうか」

「……わかりました。僕の目的……それはある人を逮捕することです」

「逮捕?」

「彼女の名はマリフ。人目につかぬところで人間界と不正にコンタクトを取っているという噂を聞き、ここに来ました」

「人間界とコンタクト……?」

「最近変わったことありませんか?」


 僕の問いに二人は「うーん」と考えだした。そして顔を先にあげたのはスクーレさんだ。


「あ、機械ってやつ最近みんな使ってるよね」

「確かに。この前カリビアさんに聞いたんだけど……それを発明したのがマリフって人だって……」

「そうですか」

「あと……カリビアさんの師匠だって」

「えぇっ?!」

「でもこの前カリビアさんは機械は絶対に使わないって言ってたぞ」

「そのカリビアさんはどこにいらっしゃるのですか?」

「バノンだけど……」

「じゃあ行きましょう!」


 僕はヘラとスクーレさんの手を取り、出発を促した。ヘラの手は炎使いだけあって温かかった。


「ならその剣も持っていけ。カリビアさんが直してくれるだろう」

「え、カリビアさんは鍛冶屋さんなのですか?」

「そうだ。ま、直したところで俺に敵わないだろうけどな!」

「もう、ヘラってば!」


 ヘラはさっきと違い、フレンドリーに笑った。僕は今までが馬鹿馬鹿しく思えてきた。ヘラがこんなに楽しそうに笑っているのに、僕はいつまでも過去を見てそこから抜け出せないなんて。一番年上がこんなのだったら示しがつかない。これからはもっとポジティブに捉えるべきだろう。


 だから僕は……警察としての仕事を全うする!

どうも、グラニュー糖*です!


ここ三話が三期きっての面白さという……。


では、また!

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