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怪奇討伐部Ⅲ  作者: グラニュー糖*
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剣士な刑事

第十三話 人間の戦い



 ハレティとの旅から数年経った。あの人は今何をしているのだろう。やることがなくて寝てたりして。久しぶりに声聞きたいとか思ったり……。


「今日は何しようかな?また大木に行こうかしら」


 バスケットにはいつもの手帳と食べ物を入れよう。えっと、バスケットは……。


____ドンドン!


 誰かがドアをノックしている。私はバスケット探しを止め、ドアを開けることにした。


「あら、誰かしら?またリストかな?」


 しかし……なんだろう?この違和感は。

 レインならドアをぶち破ってくるし、ヘラは窓から入ってくるし、ハレティは壁をすり抜けてくるし、リストは……来ないし。

 では、誰が来たのだろうか?確認するしかない……!


「……どうぞ」


 私は思いっきりドアを開いた。


「……お嬢さんがスクーレさんですね?」

「……へ?」


 目の前に立っていたのは、長い黒髪の男の人だった。彼は私の予想と大きく違っていた。

 ……彼は人間だったのだ。

 ドアをぶち破ってきたり、窓から侵入したり、すり抜けたりしない。


「そ、そうですけど……」

「じゃ、一緒に悪魔を倒しましょう!」

「……は?」


 彼は笑顔で突拍子もないことを言った。

____この人、人間だよね?しかも笑顔で……って、なんで倒しちゃうの!?何も悪いことしてないのに!そりゃあ、個人差があるけど……言い方からして全員っぽいし……。

 というか、さっきから私、疑問しか考えてないような……。


「ね?スクーレさん」

「……なんで?」

「はい?」

「あの人たちは優しくて、面白くて、いい人なのに……なんで?」

「……まさか、悪魔の肩を持つんですか?」

「そういうことは言ってないけど……」


 この人の機嫌を損ねちゃダメだ。なぜか頭の中でグルグルと渦巻きながら浸透していく不安。どうしようか……。

 すると彼は私の不安を感じたのか、微笑みながら呟いた。


「……ふふ、朝からレディーの家に押し掛けてしまったから、頭が回らないのですね」

「へ?」

「実はここに来たのには理由があるんです。なんでも、この町に人間がいると聞きましたから」

「ま、待ってよ!ここは『海』よりちょっと離れてるのよ?!誰かに会ったっていうの?それでもどうしてここまで来れたの?!」

「あぁ……あの茶髪で優しそうなお兄さんのことですか?脅したら渋々ですが通してくれましたよ」

「茶髪って……」


 茶髪といえばカリビアさんとハレティだ。両方優しそうなお兄さんというのが当てはまるが……どちらだろうか。


「スカーフを首に巻いた人ですよ」

「!」


 さらにわからなくなった。いや、誰かわからないというわけではない。カリビアさんということは理解したが、あの人がそう簡単に通すのだろうか?この人の力量は知りもしないが、カリビアさんを脅したり退けたりできるなら、レイン以上の実力を持っているといえる。


「あはは、あの幽霊なわけないじゃないですか。あれはあの人に任せていますからね」

「あの人?」

「さすがにそこまでは言えませんよ。ま、あなたが僕たちの仲間になってくれるなら話は別ですけど。さぁ、どうします?」

「……私は……」


____私は……戦いたくない。

 これが私の答えだ。どうしてもこの答えは譲れない。


「嫌よ」

「……そうですか」


 彼は悲しそうな顔をした。まったく、とんだ朝だわ。これでやっと帰ってくれる……と思ったのはつかの間だった。


「では、死んでください」

「はぇっ?!……きゃっ!」


 彼はどこからか取り出した剣で私を斬りつけようとした。私は咄嗟に避け、その剣先は家のドアに深い傷をつけた。もし避けなかったらと思うとゾッとする。


 魔法無しの斬りつけ勝負なんて、ヘラとの戦いに似ている。むしろよく考えたら服装も似ているではないか。……それは考えすぎか。

 それはともかく、彼を怒らせたようだ。解決策を考えなければ……。

 解答的には、私がイエスと答えればいい話だが、絶対に嫌だ。こうなったら戦闘でこの人をぎゃふんと言わせてやる。


「負けないんだからっ!」

「そう来なくては!……でもここでは戦えないので、もっと広いところに行きましょうか」

「……わかったわ」


 この人、私の家のドアをぶっ壊しておいてよくそんなこと言えるな……。

 とりあえずここで戦わないのは助かる。ここには人間が多すぎるから。彼も同じ人間なのだから、傷をつけたくないだろうし。


「あの丘の上で待ってますよ」

「……っ!」


 彼は私が何かを言う前に立ち去ってしまった。

 あの丘の上って、アルメト様のところじゃないか……。って、なんであそこをチョイスしたんだろう。一応行くしかない!


「まっ、待ちなさいよー!」


 叫んだ私は玄関に置いている星のオブジェが無くなった斧を手に取り、走り出した。

 このオブジェは魔法を使うために必要不可欠なもので、魔力を引き出し、コントロールするものだ。

 これがあれば人間でも内側にある力を外に出して抵抗したりできる。

 しかし今はそれがない。つまり、すごく弱いということだ。

 もちろん今は勇者をやめており、ただ悪魔と仲が良い人間として生きている。

 だから私はこの生活を守らなければいけない。


「わ、とっと……す、すいません……」

「あら、スクーレちゃん、お出かけ?」

「ごめんなさいっ、時間が無いんですー!」


 走っていると、町の人にぶつかりまくった。近所のおばさん……この人、話が長いんだよね。できるだけ避けないとと思い、私は忙しさを口実に町を駆け抜けた。


 風は標高が高ければ高いほど強く吹くといわれている。アメルで一番高い丘には大木があり、アルメト様の生まれ変わりだという諸説がある。そんな丘の頂上で長い黒髪の彼は、その髪を靡かせ、剣を地面に突き刺し、あたかも伝説の剣士のように突っ立っていた。


「……やっと来たね」

「はぁ……はぁ……どういうつもりよ?」


 ここ最近よく来ていた場所なのに、なぜかとても疲れた。明日は絶対筋肉痛だ。そう感じるほどに。

 私は息を切らしながら彼に質問した。しかし帰ってきたのは想像と違う答えだった。


「ねぇ、この丘から見る景色は好きかい?」

「いきなり何を……」

「どうなんだ?僕はまぁ……好きだけど」

「……好きよ」


 私は横目で警戒しながら、促された彼の隣に立った。


____アルメト様……どうか、私を助けてください。


 ……と、後ろに立つ大木に願いながら。


「そうですか。では……」


 彼は頷くと、こちらに笑いかけた。


「スクーレさんは悪魔たちが好きですか?」

「……え?」

「ずっと浮かない顔をしているから……」

「わ、私は……」


 私は彼らのことを頭に思い浮かべた。

 強くて優しいヘラ。トラブルメーカーだけどいつも元気で太陽のようなレイン。弟思いのヘッジさん。実はすごいカリビアさん。


 みんな……みんな私の大切な……!


「みんな、大好きよ」

「……そう言うと思いました」


 彼は顔を伏せた。その直後、大木の葉を一枚千切り、口へと近づけた。何をしようとしているのかと顔を近づけると、彼はチラッとこっちを見たあと、強く息を吹き付けた。ピーッと細いながらも力強い音が響く。草笛というものだ。


「?」

「……っはぁ。昔、よくこうしてました。落ち着くんですよ」

「……すごい!」

「え?」

「わ、私、そんな神聖な葉っぱでそんなことしたことないんで……やり方、教えてくれませんか?」

「いいけど……」

「やったぁ!」


 私の中の好奇心が不信感に打ち勝ってしまい、私はこの男性に草笛をレクチャーしてもらうことになった。


「じゃあ……この葉っぱに口をつけてごらん」

「はい」


 私は言われるがまま、葉っぱに口をつけた。……その途端、私の体がいうことを聞かなくなった。まるで電撃が走ったかのよう。一体何なのだろう……。


「……っ!」

「ちゃんと警戒しなきゃ。ごめんね、麻痺する薬を塗らせてもらったよ。ここで戦おうと思ったけど、殺気を出そうとしたらなぜか体が重くなってね。……きっとこの木のせいだと思うけど」

「……ぅ、あ……」


 この人、大人気ない。というか頭が回らない……。


「こうやって動きを鈍らせて、刺す、と。……僕、警察なのに何やってんだろ……」


 ブツブツ呟きながら背中にある剣に手を伸ばす男の人。さっき彼が言っていた「殺気を出そうとしたら重くなる」というのは本当らしい。……これって紛れもなくピンチじゃ……?!


「では……覚悟!」

「ひっ……!」


 私は咄嗟に目を閉じた。大木の効果もあるが、動きが遅い。しかし叩きつけてくる殺気と剣が生み出す風で私の体はガチガチに動かなくなってしまった。


「……やめろぉおおおっ!」

「うわぁっちちっ?!」

「!!」

「よかった、間に合ったぜ」


 殺気が消えると同時に熱風が私に襲いかかった。何事かと目を開けると、そこには赤いコートを羽織った男……ヘラが立っていた。彼はにっこりと笑い、拳を握った。

どうも、グラニュー糖*です!


黒池編です!バトルが三話続きます!

pixivではバトルということだけ表示し、初めての人でも楽しめるようにと心がけたんで、「今さらそんな説明入れるの?!」って思ったところがあったと思います。

さーて、この二人、どっちが勝つんでしょうかね……!

このサイトと画像共有できる「みてみん」ってところの私のトプ画がヘラと黒池さんなんですよ。良かったら探してみてくださいね!


では、また!

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