出発、そして遭遇
第十二話 余裕
「おーい、レイン!いるなら返事しろー!」
オレはまずバノンの隣にあるアメルへと向かった。ここならスクーレがいるだろうし、もしレインがいなくてもスクーレに話を聞けるかもしれないからだ。オレの身柄は魔界全土で捜索されているが、そんなの知るか。オレは何としてもレインを見つけ出す。
「……そんなに連れて帰りたいの?」
「誰だ!?」
オレは聞き慣れない声に足を止めた。木影から出てきた少年を見てオレは直感した。こいつはヤバイ奴だと。
「僕はサニー。お兄ちゃんを世話してくれてるんだよね?僕から礼を言うよ。ありがとう」
「お兄ちゃん?……ってことはお前が自称レインの弟か」
「自称だなんてひどい。ほんとなのに。……ところで、お兄ちゃんはここにはいないよ」
「どうしてそんなことを言えるんだよ」
「お兄ちゃんからお兄さんの魔力を感じるから……。同じ魔力を探知するのなんて簡単だよ」
サニーは青い髪を揺らして笑った。名前の通り太陽ほどではないが、無邪気な笑顔だった。……子供のような無邪気さとハレティのような胡散臭さを足して半分に割ったような感じだったが。
「……レインはどこにいる?」
「んー……お兄ちゃんを守ってくれるなら教えてあげてもいいかな」
「守るさ。そのためにオレの家に呼んだんだからな」
「本当だね?じゃ、教える。お兄ちゃんは霊界への塔に向かってるよ」
サニーは塔がある方向に指差した。
「何だと!?」
「このまま止めなければお兄ちゃんはハレティに殺されちゃうよ」
「……感謝する」
オレはサニーに礼を言って塔へ向かおうとしたが、サニーに呼び止められた。一体、何だというのだろうか。
「魔力が全然無いお兄さんの足じゃ到底間に合わない。僕がワープさせてあげる」
「魔力無くて悪かったな。……でもいいのか?」
「僕にはお兄ちゃんが必要だからね」
「……ありがとう」
サニーは少し笑い、オレに近づいて手を出した。紫色の淡い光が彼の手から漏れる。直後、オレはその光に包まれた。
目を開けると、目の前には高くそびえ立つ建物……霊界への塔があった。観音開きの扉が開いている。サニーの話からして、とっくに入っているのだろうか。しかし、その考えはサニーによって打ち砕かれた。
「お兄ちゃんはまだ来てないと思うよ。待ってれば会えると思うから、あとはよろしく」
「お前は来ないのか?」
「まだやることがあるからね」
サニーは再び左手に光を灯しながら答えた。やることとは一体何だろうか。そう考えているうちに光はどんどん膨らんでいく。そしてとうとう目を開けられなくなるほどになったところでサニーの別れの言葉が聞こえてきた。
「じゃあね、バイバイ」
「あっ、待て!……行っちまったか。こうなったら、とっととレインを連れて帰ろう」
せっかくここまで連れてきてもらったんだ、レインを連れて帰ろう。そう考えたオレは塔の近くの店に入った。
この街は魔界で一番大きな街だ。こんなに人通りが多い場所に危険な塔があるのは不思議だが、その方が逆に誰も入りたがらないだろう。……そんな塔の近くに店をかまえるなんてとも思うが。どうやら雑貨屋のようだ。
「……店も昔と変わっちまったなぁ……」
「あ、あのぅ……」
オレが人前に姿を現すのは何年ぶりだろうか。最近は更に都市開発が進んでいるようなので、どんどん取り残されている気がする。
とりあえず新しいスカーフを探そうと布の売り場を見ていると、隣にいた人に話しかけられた。背が高く、長い黒髪で青いコートを着た男性……。彼はどう見ても人間だ。こんなところに人がいるなんてと思ったが、まず人間がここにいることが驚きだ。困っているらしいからまずは話を聞いてやろう。
「どうしたんですか?」
「えっと……ここって魔界ですよね?」
「え。……そ、そうですけど」
「やっぱり!よかった、ちゃんと着いてた!」
男は嬉しそうに手を合わせた。話の内容的に、死んだあと、間違えて霊界を抜けて魔界に来てしまったのだろうか。でもどう見ても生きてる。ピンピンしてる。ヘッジが見たら即刻人間界に押し返そうだ。
「……それだけか?」
「はい!いやぁ、あっちとあんまり景色が変わらないので、人間界に戻ったのかと思いましたよ」
……どう考えても故意でここに来たのだろう。わざとなら、ろくなことにならない。何をしに来たのかを徹底的に調べ上げないといけない気がする。あと、嫌な予感も……。オレは無意識に彼の肩に手を置いて質問をした。
「……なぁ」
「はい?」
「どうしてここに来た?」
彼は一瞬驚いた表情をし、すぐに不敵な笑みを浮かべた。オレは背中に冷たいものが通り抜けたような気がした。
警鐘。こいつはただ者じゃない。そう頭が告げている。
恐怖。肩に置いている手が震える。嫌な予感が的中したのかもしれない。
「どうしてって……魔界侵略ですよ」
彼は笑顔でそう告げた。嫌な予感が的中した瞬間だった。
__________
『明日は来なくていいから』
一昨日電話でレインから聞いた言葉が頭をよぎった。あいつ、何であんなこと言ったんだろう?ま、そのおかげで読書できたんだけど……。
「レイン……」
嫌な予感がする。いつもと違うことを言ったあとは大抵変なことが起こるからだ。前だって、ムジナが幽霊だの妖怪だのって言うからあんなことに……。でもそのおかげでハレティやスクーレやレインなど、たくさんの人と知り合えた。代償は大きいが、問題はどんどん解決していったらいい。
ため息をついていると、まだ寝癖がついている姉ちゃんに話しかけられた。
「ヘラ、もう読まないの?」
「姉ちゃん……読むよ」
「そう?今日はカリビアのところに行かないの?」
「悩んでるとこ」
「昨日行かなかったんだから、ちゃんと行きなさいね。レインの世話してあげてね」
「わかってるよ」
俺は持っていた本を本棚に仕舞い、隣に立て掛けていた剣を手に取った。俺と姉ちゃんの寝室は二階にある。そこには当然本棚があるが、一階にはさらに大きな、何倍ものの大きさの本棚がある。もちろん本が詰まっている。ペラッペラな本から、めちゃくちゃ厚い本までさまざまだ。全て内容は把握している。その他にもムジナの家にたくさんの本を置かせてもらっている。
「行ってきます」
「気を付けてね」
姉ちゃんは笑顔で手を振った。俺がフッと笑い、ドアに手をかけると、背中に重いものを感じた。姉ちゃんに後ろから抱きつかれたのだ。
「ヘラ……人に頼られる男になりなさい。わかった?」
「頼られる男?」
「そう。みんなを守るのよ。あなたは強いんだから」
「……うん」
「ふふ、ヘラらしいわね」
「え?」
「何でもないわ。ほら、行きなさい」
「わ、わっ!」
俺は姉ちゃんに押され、ドアに正面衝突した。顔が痛い。どうして、と言おうとして姉ちゃんの方を向くと、姉ちゃんは微笑み、大きくなったわね、と呟いた。
__________
「味噌汁、白ごはん、たくあん……あとは納豆味だな!」
ボクはたくさんの引き出しがある棚を漁っている。何をするためかというと、晩ごはんを食べる……というか舐めるためだ。ボクは食べ物を飴という形に凝縮することに成功したのだ。もちろん栄養満点だ。お腹も満足するようになっている。棒付きの形にすることで、転がって無くすということの確率を減らしたのだ。そして今、和食といわれているものの味の飴を探しているところだ。どうだ、素晴らしいだろう。どうしてみんなこれの素晴らしさを理解しないのだろうか。
____プルルルルッ!
携帯が電波を受信した音が聞こえた。同時にガタガタガタッ!と細かい振動も発生させている。今晩ごはんの準備をしているのに……。仕方ない、出ることにしよう。……大体誰だか予想はついてるけど。
「はーい、もしもし」
「……マリフ、不機嫌なのか?」
「え!?」
「そんな声だからな。で、本題に入るが……」
「……キミから電話してきたってことは、作戦が成功か失敗したってことだよね?」
「あぁ。……どっちだと思う?」
「んー、そうだな……成功したんだな?」
「どうしてそう思うんだ?」
「そんな声してるからさ。はははっ」
「……」
「ん?聞いてるか?おーい!」
「聞いてるぞ」
「おぉ、それはよかった……むぐ」
ボクは電話しながら飴を見つけ、ソファーにどかっと座り、飴を頬張った。まずはお気に入りの『たくあん』の味だ。このボクに順番なんて求めようなんて百万年早い。
「食べながらしゃべるんじゃない」
「んー、すまんすまん。晩ごはんの時間だからさ。ボクは時間厳守だからね」
そしてボクは白ごはん飴の袋を破った。これ、なんか微妙な味なんだよなぁ。味噌汁味か納豆味も合うらしい。一気に三つも食べらんないから挑戦しないけど。
「そうか。……あとはあの悪魔がお前の武器を認めるだけだ」
「カリビアは自分の道を信じるタイプだからね。周りが上手くやってくれることを祈るよ」
そう言ってボクはたくあん飴を奥歯で砕いた。薄暗い部屋にガリッ!という音が響き渡る。続けてゴリゴリと咀嚼した。
「またたくあん味か?」
「うん。あれ、大好きなんだ」
「では今度、しば漬けと福神漬けのデータを送ってやる」
「お?よくわからんが、頼むぞ」
そしてボクは電話を切った。部屋の音が飴の音に加え、電話の切断音が増えた。
「……あーあ、カリビアも早く認めたら良いのに。機械の素晴らしさを。そしたら楽になれるはずなのにね」
ボクは一人呟き、デザートとして苺味の飴を頬張った。
どうも、グラニュー糖*です!
昨日40分でカリビア描いてました。
四期ネタなんでまだここには載せられません。
20分ごとで描いてました。線画タイムと色塗りタイムです。
では、また!




