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解けた心、付きまとう闇

 元気良く返事をするなり、颯爽と元来た道を駆け戻っていくナツカ。まさに嵐が去っていく様である。彼が見えなくなったところで、ジルは軽く溜息を吐く。活発なナツカの行動に、些か呆れているようだった。


「…さて、少々慌ただしくなってしまいましたが…私たちも行きましょうか」

「え、あっはい…っ」


 初めよりも驚くほど素直に返事をするルナ。先ほどまでの警戒心がほぐれたのか、緊張した面持ちはほとんど見えない。彼女の変化に、ジルも安堵した。そして再び他愛のない話を始めれば、また彼女の無邪気さが垣間見える。それも、周囲の景色への関心やジルの周りにどんな人物がいるのか、等さらに深く話すことができるようになっていた。

 話も盛り上がってきたところで、ジルは一度立ち止まり、前方を示した。


「…ルナ様、向こうに見える屋敷があるでしょう? あれが私の自宅です。だいぶ歩いてきましたし、お疲れでしょう。着いたら、まずはゆっくりお休みください」

「…とても立派なお屋敷…ですね…」


 ルナが驚くのも無理がなかった。"自宅"と呼ぶにはあまりにも広く大きな屋敷、否、城と呼んでもおかしくないほどの宮殿だったのだ。もしかすると、ルナが過ごしてきた城よりも広大なのではないかと思うほど。そんな呆然としている彼女の手を取り直し、再びジルはエスコートしていく。見ると、彼の表情が先ほどよりも晴れやかな印象がある。


「私、こうしてあなたをお迎えできたことが、何よりも本当に嬉しいのです。皆も昨日から大喜びで、今日は総出で宴だなんだと大騒ぎしていますよ、今頃」

「そう、なんですか…? でも私…」

「覚えていらっしゃらなくても、貴女が楽しんでいただけたら、それだけで皆も十分喜びますよ」

「…ありがとうございます。それを聞いて安心しました…そのせいで、皆様へご迷惑をおかけしてしまうのでは、と考えておりましたから…」

「皆、ちゃんと理解できる者たちですから。ご心配には及びませんよ。さあ、早く行きましょう。今か今かと待ち焦がれているはずです」

「はい…っ」


 ルナが柔らかく微笑む。その笑顔にジルもつられるように微笑み、彼女に手を差し伸べる。すっかり警戒心の解けた彼女は、王女らしく優雅な振る舞いで差し伸べられた手に応えた。そして二人は、青空に映える白い宮殿へ向かうのだった。


 その遥か後方…木の陰から二人を見つめる者が佇んでいる。その視線は、ひどく暗く冷たいもので、まるで彼らに恨みを持ち蔑んでいるよう。


「見つけた…見つけたよ姫様…必ず……必ず捕まえる」


 小さく呟いたと思うと、その者は闇を纏って瞬時に姿を消した。

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