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"夜空の嵐"

 返答するとともに、深々と丁寧に会釈をするジル。顔を上げるなり、滑らかな所作でルナの手を取り直し歩き出す。それからは、二人で他愛のない話をしながら進んでいった。王女として城から出られなかったこと、外の世界を幾度となく本を読んだり使用人から話を聞いて想像したことなど…ジルのことを特に警戒することなく、ルナはまるで無邪気な子供のように、嬉しそうに話した。その様子をジルは、あの柔らかい笑みで相づちを打ちながら聞いていた。

 今まで心の内に秘めていた、城から出たいという思いを、連れ出してくれた彼には包み隠すことなく話せる。それがルナにとって今一番の喜びとなっていた。


「…それで、今どちらに向かわれているのです?」

「もちろん、私の自宅ですよ」

「えっ…」


 ジルの返答に、今度はルナが我に返る。年端もいかない娘が、見ず知らずの男の家に連れて行かれるなど、それこそただ事では済まされないと咄嗟に判断した彼女は、引かれていた手を振り払うようにして離した。彼女のその行動に、ジルはどこか寂しそうに驚きの表情を見せる。


「ルナ、様…?」

「やっ…やっぱりダメです…! 私を、城へ帰して…!!」

「…それはできません」

「どうして…!!」

「貴女に危害は絶対に加えません! 私は…私は貴女をお守りしたい……ただ、それだけです」

「……っ」


 ジルの必死の説得に、ルナは思わず口をつぐむ。少しの沈黙が流れ、ルナが口を開こうとした、その時──…


「ジル様ーーーーーっ!!」

「ん?」

「えっ?」


 二人のもとへ、騒々しく叫びながら向かってくる人影があった。その姿を捉えるなり、ジルは若干眉をひそめた。


「…相変わらず騒々しいぞ。少しは落ち着いて行動しろと毎度言っているだろう、ナツカ」

「あっ! はい! 失礼いたしました!!」


 二人の前に現れたのは、夜を思わせる深い黒髪の青年。まだ少年らしいあどけなさの残る彼は、息を切らしながらジルの忠告に潔く敬礼をした。そして、ルナの姿を捉えるなり、少しわざとらしく見えるほど大げさな反応を示した。


「あぁっ!? 貴女様が、ジル様がお話しされていた姫君ですね! お噂は常々伺っておりましたとも!」

「…ナツカ」

「…失礼いたしました…お目にかかれて光栄です、月香の姫君。(わたくし)、ジル様の側近、秘書を務めております、ナツカ・バスダートと申します。今後、女中たちと共に貴女様の側近としても務めて参りますので、以後お見知りおきを」

「丁寧なご挨拶ありがとうございます、ナツカさん。私のことは、ルナとお呼びください」

「ルナ様…素敵なお名前です。…あ、こんなところで立ち話も失礼でしたね。ジル様、皆がお待ちですので、そろそろ…」

「あぁ、もうそんな時間だったか。ナツカ、先に戻って準備を進めておいてくれ」

「かしこまりました!」

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