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男の正体

 今にも泣いてしまいそうな表情で、男は訊いた。


「本当に…本当に覚えていらっしゃらないのですか…!?」


 男は微かな希望に縋るように王女に迫る。その表情はあまりに必死で、どれだけ辛かったのかその悲痛さがひしひしと伝わってくるほどだった。しかし王女にはいまいちピンとくるものがなく、彼の表情につられ悲しそうに眉を下げるだけ。そして小さく、「ごめんなさい…」と謝った。それに男はハッと我に返り、立ち上がりながら王女の肩に手を置いた。


「…申し訳ありません、取り乱しました…戸惑わせてしまいましたね」

「いえ…私の方こそ…何も、知らなくて…」


 彼女の言葉に、男は首を振る。


「貴女のせいではないですよ。…貴女の、せいでは………」

「……?」


 自分にも言い聞かせるように、男はそう呟くとうなだれる。その際、彼の銀髪がさらりと流れ落ち、隠れていた耳が見えた。それを見た王女は、目を見開き、若干後ずさる様子を見せる。


「貴方…耳が、尖って…?」

「え?…あ…」


 彼女の問いに、男は耳に触れる。彼は特に慌てた様子もなく、先ほどに比べ平然としている。逆に王女の方が、今度は戸惑いを隠せずにいた。


「貴方は…本当に一体何者なんですか…? 耳が尖っている種族というのは…」

「……『冥界』に住む者、と。その認識で正解ですよ、姫君」

「…!!」


 王女の言葉に続けて答えた男のその時の表情は、先ほどまでの柔らかく優しそうな彼からは想像し難いほど、妖しく不気味な雰囲気を携えていた。その空気にたじろぎ、身を固める王女。しかし次の瞬間、ふわりとその空気はかき消された。


「怖がらせてしまい申し訳ありません。ですがご安心を。冥界とはいえ、悪魔や使者の世界というわけではありませんから。ただの異世界である、と認識していただければ」

「そ、う…なんです、か?」

「はい…あぁ、そういえば私としたことが、何も名乗っていませんでしたね」


 再び柔らかく微笑んだ彼は、丁寧に会釈をしながら名乗った。


「私はジル・テノーラ。どうぞジルとお呼びくださいませ」

「あ、私は…」

「あぁダメです」


 彼──…ジルに続き自分も名乗ろうとしたところ、彼の手により止められてしまった王女。


「異世界から来た貴女が、"ここ"で正当な名前を出しては…本当に、戻れなくなりますよ」

「えっ…」

「何か、愛称はございますか? お呼びするにも、呼びやすい方が良いでしょう」

「そう、ですか…そしたら…」


 しばらく思案した後、王女もドレスを持ち上げる仕草とともに、名を告げた。


「私のことは、『ルナ』とお呼びください。ジル様」

「かしこまりました、ルナ姫君」

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