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青空の下(もと)で

 しばらくすると、浮遊感が無くなり男が立ち止まった。王女は恐る恐る目を開き、それと同時に静かに地に下ろされた。その所作が非常に丁寧で、彼女は更に戸惑った。


「急なことで申し訳ありません…気分はいかがですか?」

「あ…え、と…大丈夫、です」

「それなら良かった…こちらです」


 男はほっとした表情を見せると、王女の手を引いてゆっくりと歩き出した。彼女の歩幅に合わせるように、時々後方を気にかけながら。既に"怖い"という感情も忘れ、手を引かれるがままに男について行く王女。抵抗することもなく、前を歩く彼の背中を、ただただ不思議そうに見ていた。


「…私のこと、何者なのか訊かないんですね」

「えっ?」

「一国の王女である貴女を、堂々と誘拐した張本人ですよ、私は。得体の知れない男に、このままついて来ていいのですか…?」


 自ら罪を背負っておきながら彼女の心配をする男の表情は、悪人とは思えないほど、ひどく優しいものだった。王女の中では、『この人は本当に悪い人間なのか?』という疑問が生まれていた。そして、ようやくはっきりと言葉を紡いだ。


「…確かに、私を城から連れ出すことは、他国に比べ非常に重い罪に問われます…父である王が、そう定めましたので……でも、貴方がこうしたことには、何か理由があるのでは…?」

「……ふふっ…驚きました。まさか私の行動を、そんな冷静に観察されていたとは…」


 王女の言葉に一瞬驚きを見せ、笑う男。その笑顔も、至極自然であたたかい笑みだった。


「じゃあ、やっぱり…」

「仮にそうだとしても、今は話すつもりはありません。城から連れ出した以上、貴女にはしばらくここに居ていただかないといけませんし…ね」

「?」


 どこか含みのある言葉に、王女の中で更に謎が深まっていく一方で、男は再びゆっくりと歩き出した。王女も追って歩き出す。

 周囲を見渡すと、見たことのない不可思議な光景が広がっていた。先ほどまでは満月の美しい夜空だったが、そこまで長い時間移動したと思えないのに、今いる場所は昼時と同じ澄んだ青空だった。進む道の両脇には、回らない風車のような花が、ほかの野草に比べて一際目を惹くように点々と咲いている。静かで美しく、それでいて素朴な雰囲気のこの場所に、王女は微かな既視感を覚えた。


「…忘れて、しまった…?」

「っ?」

「あ…いえ……素敵な場所、ですね。どこか、懐かしい感じ…」


 王女のその言葉に、男は思わず彼女の目の前で跪き手を取った。あまりに急な行動に、王女は驚き固まる。

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