表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

俺達は出口を目前に不快な“ギシギシ”と何かがきしむような耳障りな音に気が付いた。


「おい、なんか変な音が聞こえないか?」

「変な事だらけの場所で!音なんかしるかよ!」

普段、冷静な吉田はこの状況のせいだろう、俺にまで暴言を言うようになっていた。

無理もなかった、サークルのメンバーが次から次にいなくなっていき、今は四人になっていた。

頼りの大野先輩と鈴村先輩まで姿を消した、どうしたらいいのか、分からないのは俺も同じだった。


そんな事を考えている時だった。

朝木が空を指差したのだ。


凄く怖れた表情で指差した先には、“ジェットコースター”のレールが俺達の頭上まで続いていた。


「え、何であるんだよ……」


大野先輩と下調べしていた情報と違っていた。

実際に今いる場所には、確かにレールがあったはずだ……だが、今あるのはおかしいのだ。

此処に来る廃墟マニアの殆んどがジェットコースター乗り場を目的に来ている。

其れは単純にレールが写真に撮れないからだ。

“裏野ドリームランド”の目玉であった、このドリームコースターは“裏野ドリームランド”をぐるりと一周するように造られている1度は日本一の長さを誇る“夢のジェットコースター”として入場者を楽しませた。

だが、年中無休で閉園ギリギリまで稼働させ続けた結果、レールにも本体にも直ぐに問題が発見されたそうだ。

それでも“裏野ドリームランド”の創設者である。浦野うらの 洋壹よういちは、そのまま営業を続けたのだ。

その結果、浦野の夢は音を出して崩れ去った。

メンテナンスの為に深夜に走らせた“ドリームコースター”のレールが一部破損していたのだ。

そして、下で作業していた職員の頭上目掛けて落下した。

下にいた作業員は即死だったらしい。

浦野は全てを隠蔽いんぺいしようとしたが。内部告発をされ、警察がその情報をもとに調査に入り浦野 洋壹は逮捕された、しかし、罪は殺人ではなく、常務上過失致死で有罪となった。


それが“裏野ドリームランド”で起きたアトラクション事件だ。

その当時、“ドリームコースター”は日本一をフレーズに入れていた事もあり、メディアに放送規制がかけられたのだ。その為、アトラクションの事故と言う言葉が広まり、“ドリームコースター”の事件は噂だけが独り歩きしたのだ。


これは水野マリが調べた資料によって判明したものだ。

もし彼女が山本恵にこれを託していなかったなら、事実は明るみに出ることはなかっただろう。

本当に凄い人だったんだなと思う。


その後レールに問題があるとして、メンテナンスの為に全てが解体された。

ドリームコースターがないと分かると、客足は遠退き、浦野が捕まった時点で資金援助も無くなっていた。

結果、再度レールは組まれる事は無く、ドリームコースターは二度とレールを走ることは無かったのだ。


「何で……レールが」

俺はその場で歩みを止めた。

「来たときは……あんなの無かった」

朝木は震えながらそう言うと俺は、再度レールが在ることを確認した。

そしてその途中からレールが無いことも確認したのだ。


そのレールが音を立てている事実、その音は出口の方から此方に向かって次第に音が大きくなっていた。


「吉田ーー!早く此方だ!」

「え、なんて?」

「いいから走れーー!」


訳もわからず取り合えず吉田は俺達の方に走ってきた。

そして音は大きくなる!


「説明は後だ!走るぞ」

俺達が走るのを見て吉田も取り合えずついてきた。


「いったいなんなんだよ!先輩出口はあっちなんだぞ」

「いいから走れ!俺の考えが正しければ、時速137,3キロのジェットコースターが突っ込んで来る」

「はぁ?意味わかんないんですけど!」


次の瞬間、凄まじい地響きと共に何かが落下したような音が裏野ドリームランドに鳴り響いた。

俺達は気付けば分岐点まで戻ってきてしまっていた。


「また此処からかよ」

苛立ちを隠せない吉田

そして、泣きながら互いを支える桜井と朝木、取り合えず冷静になろうと煙草に火をつけた。


「え……」

俺は食えた煙草を足元に落とした。

暗闇の先に二つのライトが見えたのだ。


「さっきの騒ぎで助けが来たんだ。やったぜ!オーイ此方だ!」

吉田がライトに向かって手を振るとライトが次第に近付いてくる……


速い……速すぎる……


「吉田やめろ!直ぐに逃げるぞ」

「もう、先輩の指図はうけません!行きたいなら勝手に行ってください!」

「バカ野郎、わかった。桜井と朝木はどうする」

「私は高橋先輩についてく」

「なら私も」

俺達は吉田を置いて直ぐに物影に隠れたのだ。


そして、吉田の元にライトが近づいていく、そのスピードを落とす様子はなく、そのまま突っ込んで来たのだ。


「うわぁぁぁぁぁ!」

凄まじい激突音がした。


桜井と朝木が震えながら下を向いていた。

「私達……死んじゃうの、嫌だよ……死にたくないよ……帰りたいよ」


しかし再度“ドリームコースター”の駆動音が流れ始めたのだ。

そして、俺達とは反対側にその音は走っていったのだ。


吉田は生きていたのだ。

間一髪でドリームコースターから逃れた吉田は無我夢中で走り出したのだ。


吉田のミスは高橋達の方に逃げなかった事だ。

ドリームコースターは吉田を見つけると直ぐにその速度をあげた!


慌てる吉田は急ぎ建物中に入り身を隠したのだ。


『ミラーハウス』


だが、ドリームコースターはそのままミラーハウスの中に突っ込んで来たのだ。


吉田が次に目を開けた瞬間、自分の下半身がドリームコースターの下敷きになっているのがわかった。


ドリームコースターはひっくり返り、車輪が動き続けていた。


「ふざけんなよ……痛くないなんてありえないだろ……俺は死ぬ気はないんだ……」

何とか抜け出そうとしたが下半身が完全に下敷きになり感覚すらない。

そんな吉田の前に安堂が姿を現したのだ。

「カエレナイ……カエレナイ……イケナイ……」

安堂の言葉に吉田は笑った。


「お前もかよ……くそが……あっちに行け」

吉田は手当たり次第に安堂に向けて瓦礫を投げつけたが当たる気配はいっこうに無かった。

「お前、普段どんなに鈍い玉にも当たるって行ってたじゃねえか……嘘かよ」


「オマエ……カエレナイ……カエレナイ……」

その言葉に吉田は全身の力を込めて全力で大きめの石を投げたのだ。

案の定、安堂は交わしたがその石は一番奥に飾ってあった鏡を直撃したのだ。

その瞬間、安堂の顔面にヒビが入り音を立てて砕けたのだ。

「最後に嫌なもん見せやがって……ざまあみや……」


吉田は目を開けたまま絶命した。

ミラーハウスにはドリームコースターの駆動音だけが鳴り響いていた。


俺達はドリームコースターが帰って来る前に出口を目指そうと壁沿いの道をひたすらに走っていた。


「よし観覧車を右に曲がれば後は一直線だ」


その時、止まっていた観覧車がいきなり音をたてて動き出したのだ。


そして、観覧車の扉が開くと中から声がした。

「早く逃げて!出口はドリームキャッスルの地下通路早く逃げて!」


扉が閉まると声は聞こえなくなった

そして、俺達が出口に向かい走り出そうとすると、次の扉が開いたのだ。


「イヤァァァァ」

開いた扉の中から黒い腕が伸びてくると桜井を中へと引きずり込んだのだ!

「カエサナイ……イカセナイ……」

扉が閉まり観覧車が動き出した瞬間、桜井が吸い込まれた扉が真っ赤な血渋きで染まった。


固まる俺達に再度扉が開い。

「早く逃げて!ドリームキャッスルの地下通路急いでじゃないと」

扉がしまった。


次の扉が開く前に俺達は走り出した。


そして出口を見て更なる絶望に襲われた。

出口には落下してきたレールが重なり道を完全に塞いでいたのだ。


高橋の頭に絶望の二文字が過った。


「終わりだ……逃げらんねぇ」

俺は煙草に火をつけた大分オイルが無くなっているのか、火のつきが悪かった。


「先輩……ドリームキャッスルに行きましょう……此処にいても意味ないよ」


俺はどうするべきか悩んだ、此処にいたら何時かは“ドリームコースター”に見つかるだろう事は明白だ。


「あの言葉を信じるのか……」

「信じるしかないよ、先輩が行かないなら私一人でも行く……本気ですよ」

「俺も行くよ、今は少しの可能性でも信じたいからな」


そうは言ったが他の選択肢など無かった。

あれだけの地響きが鳴ったのにも関わらず外には車は愚か、人っ子一人いなかったのだから。


俺達は急ぎ“ドリームキャッスル”を目指した。


ドリームキャッスルは敷地の一番奥に位置していた。


俺と朝木はドリームキャッスルの外側にあるであろう非常口を探した。


非常口は直ぐに見つける事が出来た。

しかし扉には鍵が確りとかけられていた。

俺達の希望が潰えたように見えた。

だが、朝木がドリームキャッスルの壁沿いに人一人が入れるような小窓を発見したのだ。


「先輩、肩車してください、私が中に入ります。それに私だと先輩を肩車とは無理ですから」

そう言うと朝木は俺の肩に跨がった。

「先輩、下向いてて下さいね!」

そう言われ俺は下をむいた。

まったく女のそう言うところが俺は苦手だ。

そう思った時に頭に何かを被せられた。

その直後“バリン”とガラスが割れる音がした。

頭に被されたのは朝木のパーカーだった。

朝木はそのままパーカーを使い窓枠のガラス片を綺麗に除去するとそのパーカーを外に放り投げた。


そして中に入っていったのだ。

「先輩!非常口の方に向かいます。待ってて下さいね」


そう言うと、朝木は移動していったようだった。

そして数分後、非常口の扉が中から開けられた。

「お待たせしました。それより見てください、さっきの部屋、実は職員用の部屋だったんですよ」

朝木が手に持っていたのは、鍵の束だった。

「これで出口までいけますよ」

「凄いじゃないか。確かに此れがあれば此処から逃げられるぞ」


俺はやっと出口が近づいたとそう確信した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ