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夏のホラー2017の為に書きました。宜しければ夏の夜にいかがですか?
俺達は……何で此処に来てしまったんだろう…
蒸し暑い夏の夜、その暗闇の中を全力で駆け抜ける若者達の姿があった。
「早く!いけよ、後ろからまだアイツが追ってきてんだよ!」
男の声に煽られるように数人の若者が遊園地の中を走り抜けていく。
真っ暗な遊園地の広場が急に輝き出した。
陽気な音楽と共に闇を照らすようにメリーゴーランドがゆっくりと動き出していた。
ある程度の速度まで回り終わるとメリーゴーランドは次第に回転をゆっくりにしていく。
陽気な音楽もスローになり、やがて不快な物へと姿をかえた。
闇を照らす、その古びた装飾を感じさせない鮮やかな光のコントラストは走って逃げていた彼等の心を鷲掴みにしたのだった。
「はは……噂は本当だったんだ。俺達は終わりだよ……はは、クソォォォォ!」
一人の眼鏡をかけた男は大声を上げて取り乱し、隣にいた女性二人はその場に膝をつき泣きじゃくっていた。
「私達、出られないの‼ねえ!出られないの?」
この場にいた誰もが冷静さを失い各々が勝手に行動しようとしていたのだ。
何でこうなったんだ……
俺の名は高橋 大地。
今更だが生きて帰れたら俺は、二度と裏野ドリームランドには関わらないだろう……
俺達は大学のサークル「超常現象・オカルト研究会」のメンバーだ。
サークルメンバーは全部で8人。
村谷 かずき。20歳
吉田 (よしだ) 太一。20歳
高橋 大地。21歳
大野 純平。22歳
桜井 美雪。20歳
朝木 未久。20歳
鈴村 茜。22歳
安堂 なぎさ。20歳
俺達は珍しい噂や怪奇現象などの噂を調べたりして毎日を楽しく過ごしていた。
活動は真面目であり、有名オカルト雑誌に行動が掲載された事もある。
そんな俺たち宛に差出人不明の手紙が届いたのは、一週間ほど前の話だ。
『隣町にある遊園地を調べてほしい。』と言う内容の手紙だった。
最初は悪戯だと思っていた。
雑誌に載ってから度々こういった手紙が届くようになったが、どれも調べるだけ無駄なモノばかりだった。
隣町にある“裏野ドリームランド”は数年前に遊園地のアトラクションで事故があり大々的にニュースにもなった有名なオカルトポイントだ。
隣町には行き付けの居酒屋があり、オカルト研究会の飲み会などでよく行くが、“裏野ドリームランド”にはまだ足を踏み入れたことは無かった。
理由としては今でも地元の学生達が肝試しや度胸試し等に使っているくらい有名な場所で廃墟マニア達の間でも有名だった。
俺達オカルト研究会が調べる必要は無いと考えていたからだ。
しかし、部長の大野先輩は真面目一筋な性格で“裏野ドリームランド”の噂を調べる事になったのだ。
調べてみてわかった事は少なくともここ数年で複数の失踪事件が隣町で起きている事、そして全て未解決だと言う事だった。
今から四年前、水野マリさん19歳が行方不明になる。
警察やメディアが騒ぎ立て至る所を捜索した。
しかし、水野マリの足取りは掴め無いまま、今にいたっている。
最後に目撃された、コンビニの防犯カメラに映っていた水野マリの映像はニュースにも取り上げられ全国に情報提供を呼び掛けていたのを鮮明に覚えている。
建物の名前は非公開扱いにされていた。
ニュースや新聞の記事には地元の廃墟に肝試しに行くと知人に言っていたらしいと言う記述が幾つかあったが、どれも似たり寄ったりなモノであり、具体的な場所は書いていなかった。
そして、一部の記事にやっと裏野ドリームランドの名前を見つけたが、其れは警察が廃墟数ヵ所を調べた結果、裏野ドリームランドの他複数の施設の調査を終えたという記事であった。
そして、その廃墟などが事件現場になった可能性は低いと判断されたと言う内容のモノも幾つか見つかった。
最後に水野 マリが目撃されたコンビニから裏野ドリームランド迄は、徒歩で30分程の場所ではあったが警察官が調べに行った際、入り口の鍵は錆びた錠前と共に確りと閉められており開けられた形跡はなかったらしい。
ドリームランドの周囲に侵入された形跡が無かった、そして、警察は別の廃墟ホテルで水野マリの持ち物が発見した。
その結果、水野マリが事件に巻き込まれたモノと推測した。
ならば何故、俺と大野が水野マリの事を調べているかと言うと水野マリの知人が間違いなく、裏野ドリームに水野マリが向かうと言っていたと言う噂があったからだ。
俺と大野先輩は、目的の住所に着くと大野先輩は携帯で電話を掛け始めた。
そして、知人とされる、山本 恵の家を訪れた。
俺達が山本恵を訪ねた際に彼女の母親が応対してくれた。
普通なら不審者扱いされるのだろうが、事前に連絡を入れていたので母親は俺達を直ぐに中に入れてくれた。
彼女は事件以来、精神を病んでしまっていた。
彼女が只の知人、友人でない事もわかっていた。
何故なら知人とされる山本 恵は、水野マリの幼馴染みだったからだ。
大野が二日掛けて調べあげた結果わかった事実だった。
彼女は何度も裏野ドリームランドを調べてほしいと警察に訴えたが相手にしてもらえず、時が経つにつれて精神が蝕まれていったようだ。
山本恵は、今も水野マリの事を考えては悪夢に魘されていた。
そして、俺達は山本恵の口から確かに聞いたのだ。
「マリは、ドリームランドに行くって行ったの……本当は私も行く筈だったの、あの日、私だけ約束の時間に起きられなかったの」
山本恵は、「私だけ」と言ったのだ。
話を聞いていくうちに驚きの真実が俺達に告げられた。
水野マリは一人では、なかったのだ。
水野マリは手紙を使い他の地域の人達と連絡を取っていたらしい。
そんなアナログな方法を取っていたのはある掲示板が関わっていた。
それは手紙のやりとりをする相手を決められる掲示板だったらしい。データは消えてしまうから手紙の方が好きだと水野マリは山本恵に言っていたようだ。
水野マリは全てを紙に書き出していたようだ。
山本恵に渡されていた、私物の中にも掲示板の内容とURL等が書き込まれた物が幾つか混じっていた。
直ぐに調べてみたが、水野マリが使っていた掲示板は既に閉鎖しており、手掛かりは無くなったように思えたが、山本恵が俺達に預けてくれた水野マリの手紙の中に不可解なモノが混じっていた。
それは俺達に宛てられた手紙と同じ封筒と便箋が使われた手紙であった。
そして手紙の内容は簡単な挨拶とオカルトの情報だった。しかし、俺達はある一文を見つけた。
「裏野ドリームランドを調べてみましょう」
この手紙と同じものは他に無かったが少なくとも、俺達に宛てられたモノと筆跡が似ていることから、同一のモノだろうと大野先輩は判断した。
その帰りに俺と大野先輩は皆を隣町にある居酒屋に集めた。
そして、水野マリの話と山本恵から預かった手紙を皆に見せたのだ。
「大野先輩?マジにヤバくないですか」
吉田は俺達宛の手紙と山本恵から預かった手紙を見ながらそう口走った。
「怖いのかよ。吉田なぁ、お前はオカ研をなんだと思ってるんだよ?」
そう口にしたのは、村谷だった。村谷は怖いもの知らずで、オカルト研究会にも怖いもの見たさで入ってきたような男だ。
女性人はノリノリで話を進めていく。
「なら、いつ調べに行きます?先輩」
「あ、私も行く。本当にお化けとか死体とか見つけたら、私もオカルト世界のスターの仲間入りだもん。あはは、楽しいのが一番だよね」
楽しそうに話すのは、朝木と桜井だ。
朝木は将来オカルトの雑誌に自分の実体験を載せて儲けようと考えている。
ポジティブの塊みたいな女の子で、それを止めるのが桜井だ。
「どちらにしても、1度足を運ぶ価値はあるわね。大野君」
「そうだな。茜の言う通りだな!裏野ドリームランドを本気で調べてみるか!」
大野先輩と茜先輩がそう言うと村谷が立ち上がった。
「なら。俺が先に観てきてやるよ!会計此処に置いときますよ。先輩」
「あ、待ってよ、かずくん、すみません失礼します。待ってよ!」
村谷と彼女の安堂 なぎさが店をそのまま出ていったのだ。
「マジに行く気かな?」
俺がそう言うと皆、頷いた。
「仕方ないな、コンビニで懐中電灯を買って追いかけよう」
大野先輩はそう言うと会計を済ませ直ぐに懐中電灯を買いに行った。
俺も別のコンビニに向かい懐中電灯を購入した。その際に煙草が切れていたので煙草と女子の為に虫除けスプレーも購入した。
そして、俺が合流した時、皆は何故か入り口の前で静まりかえっていた。
「どうしたんですか?先輩」
俺をただ待っていたと言う様子でも無かったので、そう訪ねると、地面に入り口の扉を開かないように付けられていた太い鎖と其れに鍵をかける為の大きめの南京錠が落ちていた。
「村谷の奴、壊したんですか?」
「いや、多分、村谷じゃないな、壊した跡がないんだ。それに村谷から中に入るとLINEと写メがきてな」
写真には確かに門に手をかける村谷の姿が映っていた。
全身が収まってる事から安堂も一緒だろう。
次の写メは裏野ドリームランドの中で撮られた物だった。
「さっきから電話してるんだか、繋がらなくてな、嫌な予感がする。早く二人を捜そう」
そして、俺達は足を踏み入れてしまったのだ。
裏野ドリームランドの中に入ると、先程まで鳴いていた蝉の声がピタリと止み、暗闇と嫌な雰囲気だけの空間が広がっていた。
まるで背筋を撫でるように、冷たい風がふいた。
懐中電灯の灯りを頼りに俺達は二人を捜した。
「おーい!村谷、安堂さん、何処だ」
どんなに大声で呼んでも返事はかえってこない。
もっと先に行ったのだろうか。
次の瞬間、暗闇の中に人影が見えた!
懐中電灯を照らすと、確かに安堂だった。
だが、安堂はそのまま逆方向に走り出したのだ。
「先輩いってきます!おーい!安堂まて」
俺は一目散に走り出した。
早く此処を出たい、今まで幾度と無く心霊スポットや廃墟等には足を運んできたが、裏野ドリームランドは別格だ。
そう俺の本能が叫んでいた。
そして、俺はその時、冷静な判断が既に出来なくなっていたのだろう。
何故なら安堂は運動音痴で足はサークルメンバーの誰よりも遅い、それに対して俺は自慢ではないが足には自信があった。
そんな俺が追い付けない時点で気づくべきだったのだ。
安堂がアトラクションの建物の中に入っていくのが見えた。
「はぁはぁ、アイツ今度、絶対説教してやる。なんだ此処?」
俺は安堂が入っていった建物を見上げた。
『ミラーハウス』
それは小さな建物だった。
よくある鏡の迷路だろうか、俺は嫌々ながら皆が着く前に安堂を捕まえようと考えたのだ。
建物は出入り口が1個しかなく入り口から中に入ると別れ道等はなかった。
中の説明書きには、奥にある鏡をみて戻ってくる簡単な宝探しですと書かれていた。
どうやら、まだ運営していた頃は奥の鏡の前に景品等を置いていたのだろう?説明書きと一緒に手鏡のようなモノが写っていた。
俺はそのまま先に進んでいく、中は至る所に割られたのであろう、鏡の破片が散乱していた。その先に、しゃがみこんだ安堂を見つけたのだ。
「おい!安堂、やっと見つけた」
俺の声に安堂の反応はなかった。
「おい?安堂、どうしたんだ」
そして安堂が此方を振り向いた、眼は血走っており、ブツブツと何かを言っていた。
「うわぁぁ、ど、とうしたんだよ、あ、安堂?」
俺は耳を凝らした。
「イナクナル……イナクナル……イナクナル……イナクナル……」
安堂の眼は大きく開き、此方をしきりに見てくる、何より、その動き方が普通じゃなかった。両手を廊下に付きペタペタと感触を確かめているように見えた。
あまりに普段の姿と掛けはなれた、安堂の姿に俺はその場から逃げたくて堪らなかった。
(あれは、安堂じゃない。)
俺はそう考えた途端に走り出した。
その途端に安堂が凄まじい勢いで後ろから走ってきたのだ!
俺は無我夢中で出口に向かう、そして外に飛び出そうとした。
次の瞬間、俺は廊下に倒れた、物凄い力で俺の足に安堂が掴み掛かったのだ!
「イカナイ……イカナイ……イナクナル……ミンナ……カエラナイ……」
「放せ!放せよ!」
既に安堂に言葉は通じていない。
俺は必死に安堂を振り払い外に飛び出しミラーハウスの扉を閉めたのだ。
少しのあいだ、扉を叩く音がしていたが時期におさまった。
「はぁはぁ!なんなんだよ」
俺は急ぎその場を離れて先輩達と合流することにした。
俺はまだ、中で見た安堂の姿が信じられないでいた。
「いったい何が起きてるんだよ」
足についた握られたあとが残っていた。どれだけ強く握ればこれ程のあとが残るだろうか……
俺は少し離れた場所に隠れると煙草に火をつけて一服した、自分を落ち着かせたかったからだ。
隠れて五分が過ぎたが安堂は外に出てくる様子はなかった。
俺はホッとしながら煙草の煙を吐き出したのだ。
1つ1つを書いていければいいなと考えております。よろしくお願いいたします。