入学式
講堂の前では兄が仁王立ちで待っていた。
あ、これ怒られるパターンだ。私知ってる。
笑顔のお兄ちゃんは大変恐ろしく、王太子の本気を垣間見た思いでいっぱいです。
ゴメンね、入学式の最終確認するから早めに来いって言われてたの忘れてた。ミッションあったし。何回か練習したから今日はもう良いかな、って勝手に思ってたよ。ミッションあったし。連帯責任でジェイン君も一緒に怒られちゃってゴメンね。いや、マジごめんなさい。ミッションが、あったからさ。はい、反省してます。
結論、全部神の所為。
ガッツリ叱られた後は急いで席に向かう。ヤバイ、私達が最後っぽい!
ポーカーフェイスで頑張って、王族だから遅いのは当然でしょ?感を出し席につく。それを待っていたかのように――実際待ってたんですよね、学園長が壇上に上がる。ダンディズム溢れるロマンスグレーなおじ様。彼はジェイン君のお父さんである。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとう御座います。」
どこの世界でも入学式の挨拶というのは代わり映えがないらしい。たまにはオリジナリティを出して「この学校に入ったことを後悔させてやるぜ!」とかロックな挨拶でもかまして欲しいものだ。
つらつらとアホなことを考えていたら学園長が壇上から消えていた。次は兄こと生徒会長のお祝いの言葉だ。
王太子の登場に黄色い悲鳴があがる。完璧他所行き用の笑顔を貼り付けた兄の言葉を右から左に聞き流す。だって練習で聞かされたし。なんなら推敲も手伝ったし。
皇女様の喪に服してるとはいえ、兄は只今絶賛フリーである。棚ボタだと考えたのはどこも同じらしく、今期の生徒会役員は見事に女ばかり。兄はハーレム主になっていた。山向こうの王国の王女を始め、東隣の帝国の王妹、西隣の共和国の議長の姪など、お腹痛くなるような豪華メンバー勢揃い。生徒会執行部には当然の如く上位貴族の令嬢方が。兄には悪いが、私は絶対生徒会周辺には近付かない。
幸いヴェルネラビリティーの法律では王妃以外が産んだ子供に継承権はないので、どっかの誰かに決まればこのバトルフィールドは解除される、はずだ。彼女たちが新入生でも編入生でもない理由は怖いから考えない。
今の国際状況的には帝国のお姫様の可能性が高いんじゃないかなぁ。クロンバック一強だから国内から娶る意味はないし。共和国は民主制だから議長だって変わるし。山向こうの国はむしろ、クレアトゥーラ大公になる私にモーションかけなきゃ駄目だろ。地理的距離近いんだから。
生徒会長、副会長、担任の先生達と入れ替わり立ち替わりお祝いの言葉が続き、いよいよ最後に私の出番。新入生代表として挨拶をしなければならない。
壇上に立ってぐるりと辺りを見回す。ぱっと見、ヒロインらしき目を引く人物はいない。やっぱ上級生かな。面倒い。
兄監修の挨拶を終え、拍手に送られながら講堂を出る。日本の学校みたいにクラス全体で移動はしない。身分の高い順に帰るのだが、今日は新入生が主役なので私が一番。上級生と先生は最後まで見送る義務がある。
寮への道を歩いているとジェイン君が走って来た。連帯責任になってしまったことを謝る。柔らかく笑って「二人で叱られたほうがまだマシじゃないですか?」って言ってくれるジェイン君プライスレス!
「部活動はどれになさいますか?」
「まだ決めていない。
一週間余裕があるから、じっくり見てから決める。」
「王太子殿下は是非生徒会にと」
「絶対イヤだ!」
授業形式も日本とは違っている。10時〜12時までの午前の部、昼休憩を挟んで13時〜14時までの午後の部。そして15時〜17時は部活動。必須である。掛け持ちは不可。
平民のためのマナー講座や、文官コースだけど体動かしたい人用の剣術クラブ、士官コースの中でもよりエリートを目指す騎馬クラブ、花嫁修業の一環としては刺繍部など、生徒数の割に部活の数が異様に多い。中にはエンシェントドラゴン応援団なんてのもあるらしい。大逆罪じゃねぇのそれ。近衛が来い。個人的には魔法研究会に入りたいんだけどな。園芸部にも行ってアルラウネたん分けてもらえるか聞かなきゃだし。
一週間後までに入部届を出してその後一ヶ月間は仮入部。この間は辞めたり入ったりできるけど、最悪6月中に決まらなければ退学となる恐ろしい法律がある。校則ではなく、法律がある。
学年違う、部活も違うとか接点無さすぎて詰むわ。
ちゃっちゃとヒロイン見つけないと、王族初の退学者になるかも知れん。こーゆー時にこそミッションだろ!早よ!




