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とある少女の独白

作者: ジー


「おかえり」と声をかけると、「ただいま」と返って来た。

リビングでホラー映画を見ていた私はお腹が減っていた。

もうすぐご飯が食べられると思った。

仕事から帰ってきた父が料理をしていた母に「いつもありがとう。愛してるよ」と言った。

母は握っていた包丁を首に押し当てて、引いた。

今見ているホラー映画の斬首のシーンよりは血が飛ばなかった。

事切れる寸前の母は笑いながら「うそつき」と父に言った。

母が倒れると同時に父は聞いたこともないような声で叫んでその場に崩れ落ちた。

私はただ呆然と父の背中を見ていた。

父は死刑になった。



父は若い女性の足が好きだそう。

見ているだけでは飽き足らず、舐めて、噛んで、最終的には齧って飲み込む。

今までに二十人ほどの女性を殺して、楽しんでから山中に埋めたらしい。

生前、嬉しそうに私に教えてくれた。

しかし母には内緒にしてほしいと言われた。


母はいつも情緒不安定で、編み物を始めたと思ったら突然叫びだしたりしていた。

ヒステリックというものを演じているらしい。

そうゆう精神的疾患がある弱い自分だと父に思ってほしかったそう。

生前、嬉しそうに私に教えてくれた。

もちろん、父には内緒にしてほしいと言われた。


私は堂々と家で食事中の父の写真を隠し撮りした。

「女性の太ももを舐めている」写真を手に入れた。



私は母に父が浮気をしていることを告げた。

証拠として写真を見せた。

ショックを隠せない母は「そう」と小さく返事をした後、静かに家事をこなしていた。

母はヒステリックに叫ぶのをやめた。

家事もこなすし、普通に会話もする。

でもどこか上の空だった。


私は父に趣味が母にばれていると告げた。

証拠として食事中の写真を何枚も見せた。

私は「箪笥の引き出しから出てきた」と言った。

全て私が隠し撮りしたものだった。

父は声を殺して泣きだした。

父は大好きな趣味をやめた。

仕事にも行くし、普通に会話もする。

でもどこか寂しそうだった。



父は母に愛されていることを知っていた。

母が警察に行かないことも分かっていた。


母は父に愛されていることを知っていた。

最後には自分のもとへ帰ってきてくれると分かっていた。



私は父に母が警察へ行くかもしれないと告げた。

私は母に父は離婚を考えているかもしれないと告げた。


二人は表面上は楽しそうにいつも通り話す。

表情で感情を隠しながら、私にしか吐露できないことをお互い隠しながら生活している。

私と二人っきりになると父も母も不安の声を私に向ける。

両親が私に全幅の信頼を寄せていることを私は知っていた。




「愛してるって言ってあげたら、お母さんは喜ぶと思うよ」


「お父さん、新しい女の人作ったみたいだよ」




私は助言したあと、母の名で手紙を警察に出した。

父が今までに犯した罪をすべて綴ったものだ。


母の葬儀中に父は警察に捕まった。

私は祖父母の家で暮らすことになった。


二人を殺す気はなかったと言えば嘘になるけれど、ここまで上手く行くとは思っていなかった。

途中で嘘だとばれても、どうとでも言い訳できた。



幸いにも祖父母の家は居心地がいい。

二人とも私に無関心で、あまり話しかけてこない。


世間的には「父の罪を知った母が自殺。その後父は逮捕」ということになっている。

母方の祖父母からしてみれば、いくら孫でも父の血が入った私を愛するのは難しいだろう。


いっそ憎しみをぶつけてきてくれないだろうか。

そしたら私は祖父母を殺せるのに。



「どうして笑ってるの?」

幼い従妹が私の顔を覗き込んでいた。


「話しかけるな。殺すぞ」

従妹は泣きそうな顔で逃げていった。




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