就職活動 Ⅰ
思い出して鬱になる。
いや、そろそろ気持ちを切り替えないといけないのだが。
昨日のシチューは美味しかった。
なぜだか知らないが、リリィの皿だけ緑が大半を占めていたが。
また、リリィはそれを半ベソになりながらチラチラと俺の方を見ながら
『助けてほしいんですけど』と言わんばかりの表情で食べていて
助け船を出そうとマリーさんに目線を送ると、ハッとした表情から
『何か文句がおありですか?』と言っているような、威圧感のハンパない怖い笑顔で返され
『これは無理だと』という意味でリリィにウインクをかますと
リリィはまた泣きそうになりながら、一口だけ口に運び
『・・・助けてほしいんですけど・・・』と言わんばかりの表情で、また俺を見る。
そんなことが、リリィがその皿のものを完食するまで続き、彼女に睨まれてしまった後
俺が大学をクビになったことを話した。
マリーさんは終始慰めてくれて、リリィも剥れてはいたが、真剣に話を聞いてくれた。
話し合った結果、当面の問題は「職」敷いては「お金」の問題だという事になった。
別にお金がないという訳ではない。
父さんが残した財産もあり、数年は普通に生活できるだけの金額はある。
ただ、暮らしていければいいという問題でもない。
リリィは元々は孤児である。
彼女は10年前に父さんに拾われ、家族としてではなく、女中として家で暮らしている。
父さんは彼女を家族として、養子には取らなかったが、俺は違う。
長らく一緒に暮らしていれば、家族同然である。
いや、始めから俺の中では家族なのだ。
彼女には将来の選択肢を増やしてやりたいと思う。
彼女は可能性がある。
それがなにかについては、わからない。
たが、それを見つけ出すためにも選択肢が多い方が良いだろう。
そんなことを話すと
「この家で暮らせるだけで、私は幸せです。」
なんて言うのだ。
だからと言って、はいそうですかなんて言えるわけがない。
マリーさんの方はというと
家に働きに来ているようなもので、休日の2日間はマリーさん自身の家へと帰る。
彼女には一人息子がいて、不治の病にかかっている。
かと言ってすぐに死んでしまうということはなく、薬さえ血液に注入できれば、飛んだり跳ねたりと普通に生活ができる。
しかし、その薬は継続的に摂取しなければ効果はなく、また、薬代がちょっとやそっとじゃ手が出せない値段となっている。
クロエ家に勤め続けているのは、その薬代をクロエ家が全額支払う代わりに、この家のお世話をしてもらうことで成り立っている。
当面は不自由なく、薬代も払いながら生活できる。
だか、早い段階で今までと同じくらいの収入が必要になる。
そのための職と金である。
昨日の簡単な会議は職を探すという結論でおわった。
我ながらバカな事をしたと思う。
父親とは言え、息子や家族に興味がなかった人の研究を追いかけて、挙げ句の果てにクビになった。
父自体はどっかのおじさんとしか見ていなかったが、研究自体は興味を惹かれた。
彼の意思を継ぎたいとも思った。
だか、もっとよく考えてから行動すべきだったのだ。
まさか職を失うとは思っても見なかった。
いや、それを見越して行動するのが大人なのかもしれない。
「とりあえず町に出ないと」
コーヒーを飲み終え、親父の愛用していた膝まである丈のベージュ色のコートを羽織い準備をする。
一階に降りた時には誰も居なかった。
とりあえずは今までと代わらない生活がある。
そのための買い出しやらなにやらの為だろう。
結論を出して玄関に向かい、扉に手をかける。
そこで、扉の向こう側に人の気配があった。
少し嫌な感じがして、裏口に回ることにする。
なぜだか知らないが俺をはめた金髪が目に浮かんだからだ。
今彼女と会えば八つ当たりをしてしまう自信がある。
そう思って炊事場の裏扉から出たところ、やはりというか。
てか、なんでいるの?
「きちゃった」
後ろにテヘっという言葉がついた金髪が立っていた。
女の人を殴りたいと思ったのは初めてだった。