無職とこれから Ⅲ
この世にはフィルターと言うものが存在するらしい。
浮かれきっている状況ではどんなことでもプラスに頭が働いてしまう。
それ故に見せる幻覚のような症状。
その幻覚は、付き合っている相手がおならをしたとかで、簡単に現実へと引き戻される、言わば病気のようなものでもある。
まさか自分がそれにかかってしまうとは。
さっきまで羨望の眼差しを向けていた外野連中が、今では憐れむような含み笑いを浮かべている。
こっち見んな。
だが、浮かれてしまう理由だってあったさ。
学内ではちょっとした有名人のクロエさんが、新しい論文を発表するという事は、
それなりの評価を受ける =
誉められる =
名声が上がる =
出世できる =
金が入る +
金髪美人を目の保養にできる。
オーケー、方程式は完璧だ。
ここまでは予習できていたんだ。
ただ、肝心の問題用紙には予習内容が含まれてはいなかった、ヤマが外れてしまった。
もっとちゃんと復習までするべきだったね。いっけね。
というか、もう一度頭で整理すると、半分俺のせいじゃなくね?
また、もう一回だけ頭で整理すると、半分学校のせいじゃね?
ラストにもう一回、もう一回整理すると、80%近くはあの金髪のせいじゃね?
俺がこれからやるべきは、復習ではなく復讐なのかもしれない。
これで野垂れ死んだら化けて出てやる。
よし。それでいこう。
そんなバカげた事を真剣に考えていたら、あっという間に正門へ着いた。
行きも速かったが帰りも速い。
ここから教員塔までけっこうあるのに。
行きはうきうきしていて、どんなに遅く歩いても、迅速に過ぎ去ってしまう楽しい時間。
帰りは人に会わないようにと、早足での怒りの時間。
物事は始まる前が一番楽しいと誰かが言っていた。
誰だよまったく。
後一歩で、大学の敷地外へと出てしまう所で立ち止まり、振り返る。
煉瓦造りの建物が無造作に置かれた景色の中、教員塔内にある、自身の研究室の方を眺める。
すぐに片付けろとのお達しがあったので、室内の物は隅にまとめておいた。
数日中に自宅へと送られる手はずになっている。
一週間もすれば新たなエリートの砦となるのだ。
あぁ、わが愛しの砦。
5年近くもいれば、そこに愛着も沸くものだ。
生徒の相手をしたくない日は、一日中コーヒーを飲みながら雑誌を読んだり、
口うるさい家政婦がヤニを吸うなとしつこい時は、逃げるように研究室へと向かったり。
あれ?大したことしてないけど。
とにかく、寂しいものは寂しい。
退職金があればそんなこともなかったろうに。
やっぱり制裁を下すべきか?
まぁ、いいか。
もうここに来る気はないし、見納めだな。
正門から、街に続く道へと方向を変える。
その先の川のさらに向こう。
我が家へと向かうために、歩を進める。
「これからはフリーダムだぜ!ふぅうう!」
と、叫びながら。
周りからの、驚いた表情や、怪しまれている仕草、ついでに不審者のような扱いを受けていることに全く気づかずにいた。
ショックにより頭のネジが一本外れていることに気づいて、後悔により死にたくなるまで、そう時間はかからなかった。
今回短いです。すみません。
内容的にまだ前置き程度ですが、次回かその次ぐらいには本編いきたいです。
ベンジー・クロエ
歳 25
職業 晴れて無職