無職とこれから Ⅰ
確かに言った。
「クビになってもかまわない、だがそれよりも大事なものがある。それは、自分の意思を貫き通すことです!」と。
だが、予防線は張った。
存分に張った。
二度も張った。
あくまで個人の考え方であって、全世界に対して批判しているわけではないと。
文体から見ればわかってくれるだろうと。
甘かった。
最初は懇意にしていた教授達も、「若いっていいね~」「まぁがんばんなさい」とかいってたじゃん!
何ヒソヒソしてんだろうかなぁ~
あぁ~、そうか!意外と論文が誉められたのかな
とか思って上機嫌な時期が僕にもありましたとさ。めでたしめでたし。
全くめでたくねえよ!バカ!
二階の窓へと飛び込んでくる喧騒によってむりやり頭が覚醒させられる。
自身の体重を支えていたお気に入りのワインレッドのソファーから、重い体をゆっくりおこし、毛布をどけ、騒がしい音の入り口を全開にして朝の新鮮な空気を室内に充満させる。
春先だというのにまだ寒い。あざ笑うかのように雲一つない太陽はこちらを直視しているのに。
「ふん」
鼻で笑って睨みつけておいた。
ソファーにかけた毛布を体に巻きつけ、立ったまま、机の上にある昨夜の飲みかけのコーヒーを一口飲み込み乾いていた喉を潤す。
無意識に机の引き出しからパイプの入った箱を取り出し、自身が禁煙中だったことに、吸ってしまえば口うるさい家政婦にどやされるのを思い出し、箱に手を掛け、止める。
うるさい、今日ぐらい勘弁してくれ。
誘惑に負け、ソファーに座り直し、マッチに火を灯し、一服つける。
「根性が足りないのかな。いや、根性がありすぎたからこうなったのか。」
と、呟きながら昨日までのことを思い出す。
王国立ルノアール大学
太陽神の血を引くと呼ばれる子孫が統治する、ルミネ王国の庇護下にある、国内でも1、2を争う学力の高い学校である。
代々王となる子供たちがその学校を卒業していくため、国からは莫大な援助金が支払われ、見た目は言わずもがな、講師も超一流のエリートたちが集められる。
敷地は膨大で、山一つをわざわざ平地にし、5階以上の煉瓦造りの建物が何件もずらりとならび、ちょっとした学園都市と化しいている。
そんな建物群の一つ。
教員塔の最上階の6階。
一番奥の部屋に呼ばれ、木でできた、自分の身長の倍はあろうかというドアの前に行着き、うきうきしながらそのドアを3回ノックする。
黒ベースに赤と白で構成された模様の絨毯に足を延ばし、ジオメトリックとか言ったかな、後で聞いてみよう、とか考えながら、両脇を本棚に囲まれた三十畳以上の部屋へと歩を進める。
書斎といってはあまりにも広すぎる部屋の一番奥に、実際にはでかいのだが、こじんまりとしてしまっている机と、その先にガラス張りの壁。窓と言ってもいいが、一面がすべてがガラスであるので壁であろう。
その二つの間にいる女。
齢25。
金髪ロング。
蒼目。
色白。
背は俺より5センチ程小さい。
推定Dカップ。
最近肌が荒れて困っていると呟いていた白いパンツタイプのスーツを着こなしている超絶美人。
この学園都市のボスである、アデライード・アレクセル学長である。
この年にしてコネもあるだろうが学長まで登り詰めた、スーパーエリート様である。
そんな彼女が椅子に座りながら、右手で頬杖をつきながら言葉を出す。
画家が見たら絵になるなとかいって描きだしそうなシーン。
やっぱり美人てのはそれだけで得だよなー
「何をニヤついているんだ?」
「おっと、顔にでていたか」
「声にもでているぞ」
おっとっと、気を付けないと。
そんなやり取りがあった後、彼女はため息をつきながら言葉を発した。
「君には期待していたんだ。
あー、その、私なりに気を使って書いてやった。
まぁー、その、なんだ、ぱっと見てぱっと受け入れてくれ。」
といい彼女は机の上にある真っ白な封筒を顎で指す。
なんだそのよくわからんニュアンスは?
スーパーエリートで頭の良いここのボスが言うセリフではないのではなかろうか。
「はぁ」
と、生返事し、指された封筒を拾い上げ、見つめる。
学長様がもう一度ため息をつきながら顎で催促したため、封を開ける。
中には三つ折りの紙が一枚入っていたので、ぱっと広げて見てみる、
『解雇!!しちゃうぞ♡』
ぱっとは受け入れられなかった。
前言撤回。
この女、バカなんじゃなかろうか。