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カイーコ村

 カイーコ村は、子供の背丈位の小ぶりな木が沢山繁っている、緑多い村だった。

 サーチをしてみたが、怪しい情報は入ってこない。

 私たちはポニーちゃんの手綱を引きながら、カイーコ村に入って行く。

 石造りと木のお家が半々くらいだね。

 


 突然ドアが開いて、バケツを持った女の人が飛び出てきた。

 挨拶をしようとすると、後ろから走ってきた髭面の男にぶつかる。


「そんなとこ、突っ立ってんな」


 慌ただし気に走り去る。

 手には桶を持っている。

 彼方此方から村人が飛び出して、スカートをたくしあげ走っていく。


 コレは、何かあるみたいだね。


「モモ、煙があがってる」

 

 高いところまで浮遊していたホトちゃんが降りてきて、指差す。

 広大な果樹園のような一角から、火の手があがっていた。

 火事だ!


「行くよ!ジュウ、ミーナちゃんとポニーをお願い!」

 

 ポニーちゃんの手綱を外して、私は駆ける。

 シロとホトちゃんもすぐ後に続く。

 水の魔力は無いが、怪力が役にたつかも。


「ムキムキ怪力娘ー」

 

 大声で唱える。

 結構な勢いで火がまわっている。

 一面が樹木だから燃えやすいんだ。

 

 村人たちが、井戸からリレー方式でバケツで汲んだ水を運び、消化しようとしている。

 でも、火の手は激しい。

 コレは、焼け石に水かも。

 この木はなぎ倒してもいいのだろうか。


 躊躇してる間に、ホトちゃんが火に近づいていた。

 ぐるぐると燃えている樹木の周りを飛んでいる。


 突然ミストが吹き出した。

 水だ!霧状の水が拡散する。

 勢い付き、噴水のように水が出る。

 燃え盛る火の辺りだけ、水が舞い、燃え盛る炎に踊りかかっている。

 

 火の勢いは衰え、燻り、やがて鎮火して、焦げ臭い匂いと煙だけが残った。

 水を運んでいた村人たちは、あっという間に鎮火出来たその様に、唖然としている。

 

「へへへ。治まったよ~」


 ホトちゃんが翼をパタパタさせながら、降りてくる。


「スゴいね、ホトちゃん。どうやったの?」


「水の精に頼んだんだ。オレサマは白竜だから、当たり前のことだ」

 

 自慢気なホトちゃんが、頭を差し出してくる。

 ワシワシと、思いっきり撫でてあげる。


「すごいね~さすがだよ」


「ホトちゃんはスゴです」

 

 シロも嬉しそうに体を擦りつけてくる。

 

「白竜サマだ~」


「白竜様が、村を救ってくださった~」


 バケツや桶を放り投げて次々と平伏す。

 またもや、このパターン?


「ありがとうございます。おかげで助かりました」


 村人たちの中から、ずんぐりとしたおじさんが出てくる。

 

「トーヤおじさん!」

 

 追い付いたジュウが叫ぶ。


「ジュウじゃないか。ミーナも。お前たち無事だったんだね。よかった」

 

 トーヤおじさんは、ミーナちゃんとジュウの姿に嬉しそうだ。


「オレたちアジ婆さんたちがいるタタ村から、モモと一緒に旅に出たんだ!」


 トーヤおじさんが、私に会釈する。


「助けて頂いた上にジュウたちまで……。本当にありがとうこざいます。私は村長のトーヤともうします」


 私は慌てて頭を下げ返す。


「いえ、こちらこそ。私はスズキモモと申します。白竜のホトちゃんと、ワヒーラのシロです」


「おじさん、モモはカイーコに興味があるんだって。見せてくれる?」


「そうか、カイーコに。もちろんだとも」


 トーヤさんは少し嬉しそうに私たちをカイーコ育成小屋に案内してくれた。




 木造長屋の建物が五軒連なっている。

 柵のような入り口から中へ入ると、下には藁がひかれ、沢山の木箱が天井からぶら下がっていた。

 鍬のようなもので、数人のおじさんたちが、藁をかき混ぜている。

 ちょっと臭い。


「この藁に家畜の糞を混ぜて熱を出しているんです。カイーコの幼虫は寒さにも暑さにも弱い、デリケートなんです。木箱にカイーコの幼虫が入っています。一箱に100匹ほど。幼虫の時は、自分達の菌や排泄物を食べあって成長します。一日に一度、箱に水をかけます。水分補給と、菌を繁殖させるためです。10日程で成虫に変化するので別の小屋に移します」

 

 菌?排泄物?

 なんかディープだなぁ。

 藁にも菌がウジャウジャいそうだし、この小屋でカイーコの菌を繁殖させてるってことかな。

 デリケート幼虫ちゃんも、菌には強いってこと?

 吸収しちゃうんだもんね。


「成虫って、繭になること?」


「繭?」


 私の問いに、トーヤさんが首を傾げる。


「繭とはどの状態のことだろうか?こちらの小屋へどうぞ」


 次の長屋に入る。

 この小屋は臭くない。

 藁もしいてないぞ。

 大きさの異なる篭が幾つも置いてある。


「成虫まで育てば、一安心です。これが成虫のカイーコです。手前から若い順です。この子はまだ移して5日程の大きさですね。この子たちは余り構わずに、一日に二度クーワの葉を与えます。二日毎に別の篭に移します」


「どうして移すんですか?」


「カイーコの糞の掃除と大きさを見るためです。ストレスを与えるとまん丸になりません。大きな篭に移し代えていくんです」

 

 篭の蓋を開け、中から注目のカイーコを取り出す。


 デ、デカイ!

 デカイぞ!

 10cmはあるぞ。

 そして丸いぞ。


「20日前後かけて、30cmの成虫になります。丸々太ってるのが良いカイーコです」

 

 私の常識がガラカラと、崩れていく。


「このカイーコが、どうやって糸を作るんですか?」


「糸は口から吐き出しますよ」 


 トーヤさんはニッコリ笑い、ジュウとミーナちゃんはウンウン頷いている。

 

 サイデスカ。

 繭になるんじゃなくて、吐き出すのね。

 

「では、糸を作る小屋へ移動しましょう」


 私たちは、三番目の長屋へ入った。




 





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