のどかな昼下がり。
二晩かけ足で、内陸砂漠を抜けた。
黄土色の砂が、だんだんと茶色い土に変わり、毛足の短い草が姿を現せば、もうホホロ国にも近い気がしてきた。
「ジュウ、ホホロまでどの位かな?」
「オレも国境はわからないけど、砂漠を抜けた領土はホホロじゃないかな?税門は首都までないよ。農村やカイーコ村のもっともっと先だからな」
ん?農村はわかるけど、カイーコ村?
「カイーコ村って?」
「ホホロ国は織物大国なんだ。カイーコから糸を紡いで布に仕立てるんだ。それをかーちゃんたちが洋服にしてたんだ」
ヨウウさん、デザイナーだったの?スゴい!
だからか……タタ村の人たちはみんな、コザッパリした格好をしていた。
糸から紡いでるのかぁ。
是非とも見てみたい。
「カイーコ村に寄りたいなぁ」
「いいぜ。かーちゃんと村には行ったことあるから。ミーナもあるよな」
「はい。私のお母さんも洋服を作っていました。村が無事だといいんですが……」
ミーナちゃんの言葉に、一瞬静まる。
「モモさん。都についたら、お母さんのお墓に行きたいです……」
小さな声でミーナちゃんが呟く。
ミーナちゃんの頭をワシワシと撫でる。
ポニーテールが尻尾のように揺れる。
「私も一緒に行ってもいいかな?」
「はい。もちろんです」
「シロのママもいないのよ。でも今はモモちゃんがママよ」
え?お姉さんからママに格上げ?
大きな子供のシロの頭も、ワシワシと撫でた。
田園風景が続く。
木や藁のかわいいお家が、ポツポツと点在している。
雑草を食べる牛?擬きが放牧されてるよ。
あ。ハイジのおじぃさんが牛のお尻を追っている。
畑は芋を作っているのかな。
どんな野菜を植えてるんだろう。
異世界の農村に興味しんしんだ。
「モモ、この村も覗いて行くか?」
私の気持ちに気付いたのか、ジュウが声をかけてくれる。
「うん……いいよ。先を行こう」
寄り道ばかりもしていられない。
「戦が終わって5年経つの?爪痕は感じないね」
ホント、長閑な風景なのだ。
農作業をしてる人は見当たらないが、洗濯物が干してある。
パタパタと揺らめいている。
ふんわりテレパシーを使うと、村人×150人とデーターが入ってきた。
煙突から煙が上がっているから、昼食中なのかな?
「少しほっとしました」
ミーナちゃんが小さく呟いた。
砂漠を抜けてミーナちゃんとジュウも、自分の足で歩いている。
「疲れない?」
「大丈夫です」
「バテてきたら、早めに言ってね」
ミーナちゃんとジュウが頷く。
「りょーかい」
「モモちゃん。りょうかいでーす」
イヤ、あんたたちは大丈夫だろう。
砂漠を過ぎて足取りも軽やかな、ホトちゃんとシロだ。
銀杏風の大木の下でランチタイムをとる。
乾燥トマトとセロリ擬きに干し肉を入れたスープをミーナちゃんが作っている。
ジュウはポニーちゃんの世話をして、まだ元気なホトちゃんとシロは走り回っている。
私は荷物の整理をしていた。
だいぶ食料も減ってきた。
カイーコ村で補充をしよう。
「お昼できましたよー」
ミーナちゃんの声に一目散にみんなが集まる。
シロは舌を出して、待てのポーズで待機中。
ミーナちゃんが木の器に入れたスープと干し芋を配る。
今日のミーナちゃんランチも安定の美味しさだ。
「干し肉は残り二食分くらいです」
「レイザさんの所で、ペギ肉買っておけば良かったかな?」
「ペギ肉ぅ~。身は少ないけど骨をしゃぶるとうまい~。お肉が切れたらヤダーヤダー!」
お肉博士のホトちゃんが、干し肉のストック状況を聞いて、癇癪をおこす。
ペギ肉、そんなに気に入っていたのか。
シロには赤湖の塩より肉が良かったね。
「カイーコ村にも旨い肉はあったぞ」
「え?何の肉?」
ジュウの言葉に、ホトちゃんがスグに反応する。
「メーメの肉。お乳もうまいんだ」
メーメ?羊っぽいな。
「お乳?ミルクのこと?」
ミルク博士のシロも食い付く。
「うん。カイーコの身を炒って食べるとコウバシクテ……」
「モモちゃん!すぐにカイーコ村に向かいましょう!」
器を抱き抱えたシロが、力強く宣言した。
リョーカイ。リョーカイ。
お昼を食べたらカイーコ村へGOだ。
お肉とミルクとカイーコを求めて、私たちはカイーコ村を目指す。




