さそり族の生きる道
レイザさんの勧めもあって、出発は夜まで待つことにした。
ひと眠りして時間もあるので、さそり館周辺を散策する。
レイザさんのガイド付きだ。
「赤湖の塩は濃度が濃いんでっせ。ほやから水脈を探して井戸を掘りまんねん」
さそり男さんやさそり女さんが、井戸から汲み上げた水を桶に移して、柄杓で布の上に撒いている。
「赤湖からの水脈で掘った井戸の水は、丁度いい塩梅の塩が採れるんですわ。主に食用でっせ。赤湖の塩は魔術師さんらが、薬の処方に使われたりしとるみたいやね」
「井戸を掘るのって大変でしょ?」
「ボクらは、さそり族やからね。砂の中はお手のものや」
成る程。
よく出来た商売だ。
「お客さんは何処から来るの?」
「国をあげての商隊から個人商店まで色々や。ボクらは金さえ貰えたら、誰とでも商売しまっせ!」
レイザさんの鼻息が荒い。
「レイザさんが、ここのトップなの?」
主任という肩書きだった。
「まさかまさか。ボクらのトップにはさそり族のカリスマ。テンダ様がおられますわ」
レイザさんが慌てて訂正してくる。
テンダ様か。
「その方に挨拶しなくていいのかな?」
「テンダ様は、表には出られへんお人や。ほやからボクが代行してるんや」
成る程。
レイザさんはナンバー2なワケね。
実質取り仕切ってると。
すごいじゃない。
「レイザさん、やり手だねぇ」
心からの賛辞なのに、
「ネーさんに言われたら、なんか複雑やわ」
妙な顔をされてしまった。
何でや!
さそり幼児たちがシロたちと戯れている。
すっかり仲良しだねぇ。
「さそり族の人は皆さん砂漠で暮らしてるんですか?」
レイザさんが足を止めて口ごもる。
他にも砂漠があるのかな?
さそり同士で対立してる部族とかいたりして。
口ごもったレイザさんに、私の想像力が膨らむ。
「さそり族の噂を聞いたことないでっか?」
噂?
私は首を横に振る。
さそり男にさそり女さんがいるってのも、砂漠に来てハジメテ知ったよ。
もう大概のコトじゃあ驚かないね。
「……ホロロ国の勇者様を暗殺したのが、さそり族の者やと、聞いたことないでっか?」
え?え?
思わずレイザさんの顔を覗き込んでしまった。
「本当に知らんようやね。さそり族は本来暗殺業を生業にしとったって……」
え?えーー!
暗殺って……。
硬直している私に、レイザさんは自嘲気味に笑う。
「さそりの毒は百発百中や。ほやけど至近距離でしか使えへん、大体が相討ちになる。ボクらさそり族はそんな捨てゴマにされて生きてたんや。闇に紛れて生きてたんや」
レイザさん……。
そんな寂しそうに笑わんといて。
「私にそんな話してもいいの?」
「ネーさんは、ホンマに何も知らんみたいやからな。商売で色んな人と会うて笑顔で話しても、瞳の奧は蔑みの色や、怯えの色が見えるんや。ネーさんたちは、なーんも無いもんな。値切ってきた女もハジメテやわ!」
フフっとレイザさんは、優しく笑った。
「塩の商売してるんでしょ?暗殺はここで働いてる人には関係なくない?」
「そう思えて貰えたらええな。思えてもらえる様に頑張らなあかんな」
そうだよー!
慰めも偽善的な言葉も言えない。
砂漠で塩を製造している、レイザさんたちが作る道だ。
「ガンバ!」
ちょっと硬い甲殻の肩を叩いた。
夜になって、私たち一行はさそり館を旅立った。
夜更かしした幼児さそりたちや、さそり男さんたちが大勢、見送ってくれた。
お土産にと、赤湖の塩をもらった。
「タタ村に帰る時、又寄りますね~」
「次もペギ肉のスープ飲ませろよー」
振り返っては、何度も手を振る。
「またお待ちしてやーす」
まだ、見送ってくれてるよ。
さそり館を出る時に、レイザさんに忠告された。
暗殺業を続けているさそり族の者がいる。
暗殺者は、まだ存在すると。
きいつけや。
今の世界はまだ混沌としとるで。
出逢うことは無いよね?
これからの旅路、そうあるコトを祈るよ。
私たちは、さそり館を後にした。




