スィートハニーVSモミジホシ団
スープを飲んで温まると、少しウトウトしてきた。
ここで仮眠をとっておいた方がいいよね。
砂漠にこんな商店は、もうないだろう。
ジュウも、赤湖もさそり館も知らなかったって言ってたし。
広い砂漠の中、辿り着けてラッキーだったよ。
「少し眠りたいんだけど」
「ハイ、お部屋空いてますよ~。相部屋でよろしいでっか?」
金額にもよるが、頷いておく。
「ご休憩。お一人様10ペニになりまーす」
「ポニーちゃんの分は無しでね。五人で50ペニーを、30ペニで!」
ブラックさそり男さんが、肩をすくめて、オーノー!のポーズをとる。
「それはムチャでんなぁ。ボクら干上がってしまうがな~」
「えー。私たちは、流浪の旅人なのよ。負けてえなぁ~」
私も怪しい方言で応酬する。
「ルロウって何ですか?」
ミーナちゃんが首を傾げる。
「流浪の旅人ってのは、さ迷う旅人ってコトよ」
さすがホトちゃん。
ダテに三百年生きてないねぇ。
「ク~。大まけにまけての40ペニ!」
「よし!のった!」
私は銀貨1枚をブラックさそり男さんに渡す。
ちゃんとお釣も頂く。
案内されたのは奥のバラック小屋で、地面に直接絨毯を敷いただけの、味気ない部屋だ。
「値切られたからやないからね。これが一般の部屋やからね」
ブラックさんが、言い訳めいた事を口にする。
「わかってるって。信用第一の商売人はそんなケチなことしないよね」
「ネーさんには敵わんなぁ」
首を振りながら、ブラックさんは行ってしまった。
さぁ、仮眠をとろう。
「私、少し眠るからね。おやすみ~」
私は座って壁に寄りかかったまま目を閉じた。
香ばしい匂いに誘われて目が覚める。
これは、ペギ肉のスープだね。
あっ。ヨダレが……。
口元を拭きながら起き上がると、ミーナちゃんとジュウが、さそりの幼児たちと一緒にスープを飲んでいる。
「おはようございます。モモさん。さそり男さんが、スープを差し入れてくれたんですよ。飲みますか?」
気が利くねぇ。
流石ブラックの男だねぇ。
ひと味違うよ。
「飲む飲む」
勇んでスープを受けとる。
さそりの幼児たちが、シロの体でジャングルジムごっこをしている。
フワフワ浮遊しているホトちゃんに触ろうと、飛び上がっている。
それにしても……。
「子沢山だねぇ」
10帖くらいのこのスペースにチビたちは、1ダースくらいいるぞ。
「さそり族の出産は8つ子でも珍しくない」
物知りホトちゃんの解説が始まる。
お母さんは大変だね。
「それだけ生存が厳しい種と言うことだな」
そうか。
まだ半透明のおチビたち、ちゃんと育って欲しいよ。
「子供たちがお邪魔をしてスミマセンなぁ」
軽いノリで、ブラックさんが入ってきた。
「こちらこそ、スープありがとうございます。とても美味しかったです」
「気に入ってもろて、ヨカヨカ」
「ところでブラックさん。私、スズキモモと言います。飛んでる白竜がホトちゃんで、でかいワヒーラがシロ。この子たちがミーナちゃんとジュウ、サバクポニーはポニーちゃんです。今更なんですが、お名前お伺いしても良いですか?」
ブラックさんが、飛び上がって恐縮する。
「あ~これは、失礼なことしてしもた。商人失格や!ボクはレイザと申します。さそり館の主任っちゅう肩書きや。よろしゅうお願いします」
ペコペコと頭を下げ合う。
「それにしても……白竜さんにワヒーラさんに、お目にかかれるやなんて。光栄ですわ。有名なパーティなんでしょうなぁ」
「ウーン。私たちはまだ、旅を始めたばかりだからね」
「ホホロ国を目指されてんやろか?パーティ名も聞かせてもろてええやろか?」
パーティ名??
そんなの決めてないよ~。
「チームの名前?」
みんなワクワク顔をしている。
パーティ名?パーティ名?パーティ名?
「スィートハニー?」
「スィートハニー!」
みんなが一斉に復唱する。
キャー。ヤメテー。
ウソでーす。ウソウソ。
ハニーと呼ばれたい乙女願望を、アラサーの理性が踏みとどめる。
「それはボツ!ちゃんと考えるからチョッと待って!」
頭を抱えてウーンウーン唸っている私に、
「モミジホシ団は?」
ジュウが提案する。
モミジホシ団?
「モモのモ。ミーナのミ。ジュウのジ。ホトちゃんのホ。シロのシ。五人の頭文字合わせて、モミジホシ団!」
おぉー!
単純かつ複雑かつ明快?
「よし!それでいこう!」
「オレサマたちは、モミジホシ団だ!」
「イェーイ!」
ホトちゃんの号令に合わせて、拳を突き上げる。
「記念のカンパイ、サボジュース入りまぁ~す」
いつ来たのかダラスさんの声が、さそり館に響いた。




