サボとペギ肉のスープ。
「あんさんら、その格好からして旅人やろ?商隊には見えへんわー。さっき赤湖で固まってたもんなぁ。まぁ、ひと息入れなはれ」
ブラックさそり男さんが、テント内のサボテン擬きの皮で作られたイスに、座るよう勧める。
「飲みものでも、どうでっか?ここは商人が買い付けに来はるから、宿屋も飯屋も兼ねてるんやで。ちょっとダラス、サボのジュース持ってきてや~」
私たちの返事も聞かずに、ブラックさそり男さんはまくし立てる。
「サボジュース入りまぁ~す」
ここは、居酒屋か?
「ハイ、サボのジュースおまたせぇ」
ブラックさんより一回り小柄なブラウンさそり男さんが、実を半分に割って器にした中に、並々と注いだジュースをビアガーデンのウェイター並みに運んでくる。
透明なサボのジュースを見ると、喉の渇きが一気にきて、みんな慌てて飲み干した。
「ウメー」
「さっぱりして美味しいです」
「ポニーちゃんにもあげて」
さそり男さんにお願いする。
「ヘイ、まいど!」
商人のように言われて、お金のことに思いあたる。
タタ村を出る時に、硬貨を用立ててもらった。
白竜の鱗のお礼だからと渡されたが、物価がまだ把握出来ていない。
このサボジュース、幾らなんだろう。
「あのー、私あまりお金持ってないんだけど、砂漠の飲み物って高いのかな?」
「オレ、かーちゃんから金もらってるぞ」
「私もお父さんから」
ジュウとミーナちゃんのバカバカ。
バカ正直!
しっしー!
人差し指を口元に当てるポーズを取っても、二人ともキョトンとしてる。
あぁ、商人生活が長かった私は毒されてるねぇ。
ブラックさそり男さんが、ニヤニヤしてるよ。
「ウチは良心的でっせ。内地の3割増しよ。一杯10ペニ」
「たけー」
ジュウが叫ぶ。
「何言うてまんねん。今は戦後復興中でインフレでっせ。何なら物々交換でもよろしいでっせ」
アジ婆さんから貰った袋には、金貨1枚と銀貨5枚と50ペニー硬貨が入っていた。
100ペニで銀貨1枚。
1000ペニで金貨1枚。
10000ペニで大金貨1枚。
って、言ってたなぁ。
銀貨1枚を渡す。
「まいどありー!」
「残金で食べるものを出して。サービスしてね」
軽くウインクしてみる。
カラカラと、ブラックさそり男さんが豪快に笑う。
「ネーさんしっかりしてまんな。気に入ったで。大サービスや。ダラス、サボとペギ肉のスープ持ってきてや」
ブラウンさそり男さんが、「ペギ肉スープ入りまぁす」またまた、居酒屋ごっこしてるよ。
居酒屋さんが、ダラスさんね。
「ペギ肉って?」
「砂漠にいるモグラみたいな生き物や。身は少ないけどイイ出汁がでるんや」
ふーん。
よく解らないけど、郷に入れば……だ。
チャレンジ。チャレンジ。
「砂漠に魔王が来たのか?」
まだ警戒気味のジュウが聞く。
「魔王様の噂は、トンと聞きませんなぁ。子供を集めてるらしいけどなぁ。何されてるんやろ?魔王城で豪華絢爛に暮らされてるのちゃいますか」
「子供を集めてるどうするんだ!奴隷にしてるのか?」
さぁ?ブラックさそり男さんが首を傾げる。
「魔王様の姿は見てへんからね。色んな国で子供拾てるちゅうのきいたぐらいで」
「石になった鳥がいただろ?」
「あぁ。あれは塩湖のせいやからね。ボクらの商売道具の塩が獲れる、ええ湖なんやけど、塩素がキツくてなぁ。死んでしもたらあんなになるんや。昔はもっと広い湖やったんやけどなぁ」
私はエジプトのミイラを思い出していた。
確かトロン何とかって成分が塩湖から獲れて、それをミイラ作りに利用するってドキュメンタリーを見た気がする。
ミイラ……きゃー!
「砂漠は過酷な土地かも知れんけどね、ボクらにとっては恵みの地やからな。さそり族はここで商売してるんや」
ブラックさそり男さんが、胸を張る。
「スープお待たせしやしたー」
えらい巻き舌でダラスさんが、これ又お見事な技で6杯のスープを持ってくる。
うん。まぁ手は6本あるから、丁度だけどね。
サボとペギ肉のスープは、言われた通り出汁が濃厚でクセになる味だ。
アクセントの塩もきいて、具沢山。
過酷な砂漠で食べるには抜群のスープだろう。
最後の一滴まで平らげた。
ミーナちゃんとジュウとホトちゃんとシロとポニーちゃんも、舐め取った様にキレイな器をダラスさんに返却した。
まいど!
『モミジホシ団が行く』を『GOGO !ファイブスター』に題名変更しました。




