ようこそ、さそり館へ!
砂漠の気温は一変するとは聞いていたが、これ程とは思っていなかった。
夜はとにかく、寒いのだ。
私たちは荷物の中から、Tシャツや作務衣風上下を取り出して、重ね着をする。
最後に木綿糸の布を巻き付ける。
「寝袋の代わりにもなる。砂漠の必需品だよ。沢山持って行きな」
何枚も布を用意してくれたアジ婆さんには、本当に感謝だ。
星が降ってきそうなくらい、輝いている。
美しいねぇ。
闇夜の私たちを照らしてくれている。
竜の勘か、星読みの力があるのか、迷いなく飛んでいるホトちゃんに先導されて、私たちは進む。
布をずらして息を吸い込むと、クリアな冷気が体中に染み渡る。
く~。目が覚めるね~。
さぁ、頑張って前に進もう。
先ずは、ホホロ国を目指すのだ。
「赤い?オアシスがあるよー」
どれくらい進んだろうか、ホトちゃんが止まって振り返った。
「オアシス?」
「ヤッター!」
私たちのテンションはアゲアゲになる。
ジュウがシロから飛び降りて、湖の方へ走っていく。
「……ホントだ。赤い。真っ赤だ!」
ジュウが動揺して叫ぶ。
オアシス?
干えあがった湖の表面が、赤くひび割れている。
これは何?
オアシスには見えない。
ちょっと不気味だよ。
「鳥が……ワシが石になってる」
ジュウが指差す方向には、湖の上で翼を広げたまま石化している鳥がいた。
「魔王か?魔王にやられたのか?」
ジュウがぶつぶつ言っている。
「怖くないよ~シロがいるよ~」
背中で硬直しているミーナちゃんを、シロが励ます。
干からびた湖には、イタチか?ペリカンか?
他にも石化した動物がそこに居る。
ジュウが脇差しの剣を抜いて構える。
「近くに魔王が居るかもしれない!」
魔王?そんな強力な悪役の気配は感じないけど……。
「ふんわりテレパシー」
サーチしてみる。
うん。気配ゼロだね。
「魔王なんかいないよ~」
ホトちゃんも湖の周囲を飛びながら叫ぶ。
ピピピピピ
さそり男、さそり男、さそり男、さそり女、さそり女、さそり子供、多数
データーが流れてくる。
またもや、さそり男?
さそりって、毒持ちでしょ?
「さそり男が近くにいるよ!」
私は警戒しながら皆に伝える。
「ムキムキ怪力娘ーっ」
面白魔力の4つめ、怪力が爆発する、女子好みでは無い力を唱える。
「ウォーー!」
シロが吠えて、私たちを庇って前に出る。
シロ、立派になったねぇ。
おねーさん、泣いちゃうよ。
カスタードクリームまみれになっていた、あのシロが……。
「そんな警戒せんでも、何もしやせんでー」
インチキ商人みたいな口調で現れたのは、ハサミの下に6本の手を持ち、上部に長く曲がった尾に二本足で歩く、ブラックさそり男さんだった。
「あんさんら、砂漠は初めてでっかー?ボクら、ここで商売してまんねん。まぁ、どうぞどうぞ……こちらへ。騙されたと思って、さぁさぁ」
さそり男さんは、6本の手で揉み手をしながら、私たちを招き入れる。
ブラックさそり男さんに案内された砂山の向こうには、立て掛けたテントと、バラック風の小屋が並んでいた。
さそり男さんやさそり女さんが、忙しそうに行き交っている。
みんな手に桶や柄杓を持っている。
「ヘイ、らっしゃい!」
威勢の良い掛け声が飛ぶ。
湯気がモクモクとあがっている。
チビさそりたちも、元気に走り回っている。
静かな夜の砂漠に、突如現れた活気づいた世界。
躊躇しつつも見入ってしまった。
ブラックさそり男さんが、ニンマリ笑う。
「ようこそ、赤湖のさそり館へ!」




