in内陸砂漠
サボテン擬きが点在して、赤茶げた土が目立つようになってきた。
「あの砂山を越えたら、内陸砂漠は近いと思う」
ジュウが小高い丘を差す。
真っ青な空に、白い雲が浮かんでいる。
暑くなったなぁ。
ジュウから言われて、頭から顔全体を覆うように、布を巻き付けている。
硬い砂山を登ると、そこから見える景色に圧倒される。
見渡せば180度、一面黄土色の砂だ。
何もない、ただ風が波打って形を変える黄土砂が広がっているだけ。
その先には青空と地平線が、くっきり二色に分かれている。
さぁ、行きますか。
「スーパー体力バカー」を叫ぶ。
文字通り体力がみなぎって元気になる。
与えられた面白魔力その2だ。
ちなみに、面白魔力は4つある。
この砂、踏みしめてみると、思ったより硬い。
足が丸ごと砂に取られる感じはないが、ひたすら熱い。
「シロ。熱くない?」
シロは背にミーナちゃんと、ジュウを乗せている。
踏みしめる足の裏も熱いだろう。
「このくらい、へっちゃら~ぴ~」
頼もしいなぁ。
サンダルを脱いで、靴下を履いておく。
ミーナちゃんとジュウにも、はかせる。
「先を急ごう」
ポニーの手綱を取って、駆け足で行く。
乾いた風に、砂が舞い上がる。
布をしっかり、口元まで覆う。
「ポニーちゃん、頑張ってね」
サバクポニーを励ましながら、駆ける。
白竜のホトちゃんは、プクプク浮遊していたのがウソのような力強さで、空を飛んで行く。
私たちの影が、黒く伸びる。
風紋も、今は眺める余裕がない。
絵で見れば美しい砂漠の風景。
現実は埃と砂まみれで苦しい。
熱さが刺すように痛い。
どのくらいの距離続くのだろう。
ジュウやミーナちゃんの体力のある間に砂漠を渡り切りたい。
半日も駆けると、ポニーちゃんの足並みが鈍くなってきた。
シロの息も上がっているような気がする。
「そろそろ休憩しようか?」
サボテン擬きや岩影を探したが、それらしきモノは全く視界に入らない。
砂漠の真ん中で休憩するのだ。
「コンビニーズ」
「モモだめだ!」
私の脅しを丸ごと信じている可愛いホトちゃんが、止めに入る。
イイ子だねぇ。ホトちゃん。
脅かし過ぎてごめんね。
ここは、コンビニで休憩しようよ。
私も少し、バテてきた。
「大丈夫だから。さぁ、入ろう」
現れた店内はクーラーは入っていないが、灼熱の暑さからすれば天国だ。
まず、ミネラルウォーターをとる。
コンビニ店内には入れない、弾かれてしまうポニーちゃんに、お水を用意する。
鞍を外して、荷物を降ろす。
「ちょっと休んでてね」
背中を撫でて、店内へ戻る。
ぐったりしたミーナちゃんとジュウが寝転んでいる。
シロとホトちゃんも随分と大人しい。
体力強化している私が、太陽の熱にやられてこのザマだもの。
そりゃあ、みんなバテバテだよね。
「夜に移動した方が良いのかも……」
昔、夜の砂漠を進むキャラバンのお話を、読んだ気がする。
「私、小さくてホホロ国からの旅はあまり覚えて無いんですが、馬車の荷台で星空を見ました。凄くキレイだった」
「オレも布でぎゅうぎゅうに巻かれて、とーちゃんの前に座らされて、サバクポニーで夜も走った」
ミーナちゃんとジュウの記憶に間違いないだろう。
私は所詮素人旅人。
先人に学ぼう。
「じゃあ。今日は結構進めたし、ここで休んで夜に移動しよう」
各々が好きなものを選んで、腹ごしらえをする。
タオルをひいて横になる。
私もアイスを食べながら座り込む。
眠るワケにはいかない。
私の意識はコンビニと繋がっている。
意識が無くなると、コンビニは消えてしまう。
灼熱砂漠に、ポンと放り出されてしまうワケだ。
大丈夫。
まだ、いける。
休んで必殺「体力バカー」で再強化すれば、砂漠を抜けるくらいの力は出るはず。
布を巻き付けて、サンドイッチを手に握ったまま眠っているジュウとミーナちゃんの布を取る。
外に出て、砂ぼこりをはらう。
スースーと寝息をたてる、ミーナちゃんのおでこが赤い。
日焼けしたんだね。
アロエーネぬっておこう。
顔を拭こうとタオルを濡らしに行った洗面所で、鏡に映った私の鼻の頭も、赤くなっていた。
ミーナちゃんとジュウの顔を優しく拭く。
新しいタオルに代えて、シュークリームにかぶりついている、ホトちゃんの顔も拭く。
「サッパリする~」
体をクネらせる。
そうでしょうとも。
シロ用にはバスタオルを濡らしてくる。
耳も目元も丁寧に拭く。
「オオオォォー」
ん?それは感嘆の唸り声?
「モモちゃーん。もっとして欲しいです」
うん。そうだね。
前はシロの体も洗ってあげてたよね。
今だと、一苦労だろうな。
でも砂漠を抜けてお風呂を見つけたら、洗ってあげるからね。
タタ村みたいな銭湯があるといいね。
「少し眠りなよ」
シロの広いお腹を撫でる。
ホトちゃんがフワフワ飛んで、私の隣にちんまりと丸まる。
「夜まで、おやすみなさい」
ピピピピピ
さそり男、横断中
データーが入ってくる。
ん?さそり男?
不吉な名称に身構える。
「ふんわりテレパシー」
アンジェリーナさんから頂いた面白魔力その3だ。
サーチする力を唱える。
この魔力は、ふんわりだからか、色々とルールがあるようで、まだ私も完全に使いこなせていない。
それ以上、データーは入ってこない。
近くを通り過ぎたのかな?
フーッと、重い息を吐く。
砂漠の長い一日は、まだまだ続きそうだ。




