レディス&ジェントルマン。
チクチク縫い縫いしているお姉さんから、糸と布を借りた。
裁縫は家庭科の授業でエプロンを作って以来だ。
ちょっと考えて、にこちゃんマークの刺繍をする。
刺繍とは呼べないか。
「それは何ですか?」
「うん。アリスさんのマークを作っておこうと思って、これなら簡単で刺繍するの大変じゃないよね」
「どうしたの?」
アリスさんが覗き込んできた。
「これから競合品も出てくると思います。アリスさんオリジナル印を作っておくと良いかと思って。にこちゃんは仮のマークで絵柄はアリスさんが考えて下さい」
「イヤ。この笑った丸いのがいいわ。陽気な感じでハッピーじゃない」
ブランドマークは一応決定?
パクリキャラクターだが、許してもらおう。
後は……。
「ショーで音楽が必要なんです。頼める人はいませんか?」
「音楽?歌姫と楽士が王宮に滞在することもあるけど、今はどうかしらね」
アリスさんは首を傾げる。
歌姫に楽士。素敵です。
でもそんなにハイソじゃなくて、良いんだけどなぁ。
あ、確か……。
「街で笛や太鼓を鳴らしている、チンドン屋さんっぽい人たちを見たのですが」
「あぁ。彼らは街の有志でお祭りの時に盛り上げてくれるのよ」
それだ。
その有志さんたちにお願いしよう。
テリィさんが、話をつけに行ってくれる事になった。
後は……。
イベントでメイクショーをした事を思い出す。
司会は私がしたとして、モデルさんと打合せをしなければ。
服の順番とモデルさんを決めていく。
今回は、シルク布でハッピーライフ!ラブ&ピースがテーマだ。
それにモンテカルロ王子生還も乗っける事にした。
間違いなくピースだもんね。
差し入れのおやきとスープを夕食代わりに食べて、また作業に入る。
今夜は泊まり込みだ。
チンドン屋さんもやって来た。
明るいマーチングとメロウな曲をリクエストする。
私が鼻唄で歌うと、それっぽいのを奏でてくれる。
商店街の若い衆だと言うが、中々優秀な音楽チームだ。
明日は早朝リハーサルを行う。
作業場で仮眠をとると、あっと言う間に夜は明けた。
リハーサルをしてみて、私は頭を抱えていた。
目立ちたがりのホトちゃんやシロと違って、オリバー村の人たちは普通に歩くということが出来ないのだ。
ポージングも考えていたが、難しいことは抜きにしないと。
スキップでもロボット歩きでも、何でもいい。
キャットウォークの端まで歩いて立ち止まり、Uターンして戻ってくる事だけを繰り返し練習した。
プロじゃないんだもんね。
出来ない事は割りきろう。
イメージしていたショーとは違うけど、楽しさを全面に押しだそう。
一端宿に帰って、メンテナンスと休養をとることにした。
焦っても仕方ない。
成せばなるさ。
二階建ての木造長屋の宿でお茶を飲み、お風呂に入って体を磨く。
明日はみんなにメイクをしちゃおう。
『コンビニーズ』で、口紅やシャドウやファンデーションのメイク品を用意しよう。
見た目で、あっと言わせるんだ。
準備を終えて、早い目にベットに入った。
1分で夢の中へと落ちた。
翌日は真っ青な空が広がる晴天で。
絶好の野外ショー日和になった。
モデルの人たちをスタイリングして、メイクを仕上げていく。
髪や体に宝飾品を飾ったり、頬に赤い花の汁をつけるくらいで、この世界ではメイクをすることは無いみたいだ。
美の基準が同じだと良いのだけど。
舞台映えするように、アイライナーをくっきりとひき、アイシャドウも紫やピンクの明るめの色を使う。
髪の毛もジェルで纏めたり、たたせたり、ツインテールにしたり凝ってみた。
全員のスタイリングが終わると、ショーの開催予定、昼過ぎが迫ろうとしていた。
ステージの後ろに作って貰った楽屋から舞台を覗く。
へ?ウソでしょ。
そこには、押し合いながら集まっている数え切れない人たちがいた。
ムンムンとした熱気で会場が爆発しそうだ。
人気バンドの野外ライブを待つお客さんのようだ。
「モモちゃん。ホホロ都中の人が集まってるわよ。入れない人が広場の周りを囲んでいるの」
興奮した面持ちのアリスさんが、駆け込んできた。
「どうしよう。でも大丈夫。こんな素晴らしい場所で私の服のショーが出来るのよー」
ハイテンションのアリスさんも交えて、みんなで集まり輪をつくる。
「アリスさん、一言お願いします」
「……みんな、オリバー村の底力を見せるわよ!」
「オーっ!」
よし、一致団結で乗りきるぞ!
そうして、ショーが始まった。




