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準備をしよう。

 作業場は浮かれた祭りのまの字も無いくらい、みんな真剣で慌ただしく作業をしている。

 アリスさんを見つけて声をかける。


「アリスさーん。シルク布どうなりましたか?」


「モモちゃん。王子からお墨付きをもらったの。花祭りの最終日にショーを開くから、今準備が大変なのよ」


「最終日って、いつですか?」


「明後日なの」


 えーっ。

 全く余裕が無いじゃないか。


「アリスさん、私もお手伝いします」


「モモちゃん、ありがとう。母とミーナちゃんたちにも手伝って貰ってるの。モモちゃんには頼みたいことがあるの」


 何でございましょう。

 作業場の中央にある大きなテーブルへと連れて行かれる。

 シルク布や洋服が並べられている。

 

「モモちゃんに言われて、モデルに着せる服や組み合わせを考えたんだけど、どうやって布の良さを伝えれば良いかと思って。ショーの内容を考えて欲しいの」


 フム。

 艶や光沢の素晴らしさもたけど、触って貰いたいよね。


「会場は何処ですか?」


「王子の計らいで、ホホロ都一等地の花の都通りの広場を貸してもらえるの」


「観客は何人くらい入れますか?屋外ですよね?」


「どうかしら、1000人はいけると思うんだけど。勿論屋外よ」


「それなら、造成の魔力者さんをお借りして先ずステージを作らないといけません。少し高い場所で歩くスペース、キャットウォークも設置して。後は……ステージに近い場所に業者用の座席を作って、布に触れるようにしましょうか?業者さんへの告知は大丈夫ですか?」

「まだ伝えきれてないわ」


「日時と場所を告知して下さい。私はセダレさんに造成の魔力者さんを紹介してもらって会場作りをします」


「わかった。お願いするわ」


 それからは私も、てんてこ舞だ。

 セダレさんを探し造成の魔力者さんを呼んでもらい、花の都通り広場で落ち合う事にした。

 花の都広場は人通りの多い場所で、屋台も数件出ている。

 ここにいる人にお願いして、作業スペースを確保しないといけない。


「ホトちゃんシロ、頼むよ」


 私のゼロに近いカリスマ性では、とても人は動かせないだろう。


「みなさーん。花祭りの最終日にモンテカルロ王子様生還記念のショーが開かれます。この場所が会場になるので、作業中広場は半分が通行止めになります」


 誰も聞いちゃぁいないよ。

 大声を張り上げるが、足を止める人はいない。

 ……だよねー。


「ホトちゃん、ぶちかまして!怪我させないようにね」


 ホトちゃんがフワフワと広場を一周する。

 突如霧のようなものが吹き出し、行き交う人たちが足を止め驚いている。


「冷たいー」


「何これ?」


 ホトちゃんは広場の中央まで行くと、今度は空に向けて火を吹いた。

 小さい体に反する大きな炎が空に浮かび、赤オレンジの熱を与えて消えていく。

 みんな呆気にとられて静まり返る。

 チャンスだ。


「みなさーん。モンテカルロ王子生還記念のショーが、花祭り最終日に行われます。その作業で、広場は半分が作業スペースになりますー。通行出来ません。速やかに立ち退きをお願いします。王子命令ですよー」


 勝手に王子命令にしちゃったよ。

 テヘ。

「王子の祝い?」「ショーって何だよ」と言いながらも、王子命令が効いたのか人の流れが変わり始めた。

 広場にスペースが出来ていく。

 おやき擬きやスープの屋台を出している人たちには、最終日にガッポリいく事を約束して、隅っこに移動してもらう。

 今日と明日はセダレ村の皆の食事は屋台だね。

 良いタイミングでセダレさんが、造成の魔力者さんを連れて来てくれた。

 オヤジ天国A、Bさんではないか。

 造成の魔力者さんだったんだね。


「王子たちから、協力するようにのご命令です」

 

 麗しの王子たちよ、ありがとう。

 私はオヤジ天国A、Bさん に会場のイメージを説明する。

 キャットウォークを長くとって、その左右に業者の人や王子たちが座って見られる席を作る。

 その席まで歩いて行けるように、ステージから階段も作る。 

 座席の後ろは立ち見で一般の観客に見てもらう。

 概ね了解してもらえたが、商人と王子を同席は出来ないので、王子や宮廷魔力者たち用に、特別スペースを作ることにした。

 造成の魔力ってスゴいなぁ。

 どんどんステージが出来ていく。

 イメージと違う部分を伝えると、修正を入れてくれる。

 日が暮れる頃には、立派な野外ステージが出来ていた。


「素晴らしいです。さすがホホロ都の街や宮殿を復活させた魔力者さんです」


 私は感心して心からの賛辞を贈ったのだが、オヤジ天国A、B さんの反応が少し暗い。


「……宮殿を造られた優秀な魔力者たちは力尽きて亡くなられた」


「宮殿と門塀を造るのにどれだけの魔力者が力尽き殉職されたか……」


 そうか……。

 私も魔力が枯渇したら、倒れたものね。

 命と引き換えにあの宮殿が造られたのか。

 なんだか切なくなって、しんみりしてしまった。


「だからこそ残された者たちで、ホホロ国を発展させなければ!」


 オヤジ天国Aの言葉に私も大きく頷く。

 そうだよ。

 ファッションショー、成功させるぞ!

 私は拳を握った。

 万端に準備を整える為、王子たちと約束の晩餐会をショー後の打ち上げに変更してもらう事にした。

 王子の誘いをお断りするのは……と、オヤジ天国たちは渋っていたが、ショーを成功させる為だからと、無理に伝言をお願いした。

 宮殿まで出向く時間は無いからね。

 オヤジ天国たちと別れ、作業場に戻る。

 差し入れに屋台のおやきとスープを大人買いした。

 全部で金貨一枚吹っ飛んだよ。

 作業場のドアを開けると、そこは熱気に溢れた戦場だった。






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