出発してからの私たち。
眩しさに目覚めると、目の前にホトちゃんの舌があった。
またまた~。おマヌケ顔過ぎるゾ。
白竜様の威厳はイズコに……。
寝返りをうつと、2m 近いワヒーラに変化した元仔犬のシロが、ミーナちゃんとジュウに抱きつかれて、ムニャムニャ言っている。
私たちがタタ村を出て、既に2日が経っていた。
ジュウの記憶とホトちゃんの勘を頼りに東へ向かっている。
周りに広がるのは大草原で、まだ砂漠の気配も感じない。
そう、私たちは妖精の森を目指して旅に出た。
詳しくは、『ウエスリア大陸へようこそ』を読んで頂ければ瞭然だが、そんなヒマねーよ!という貴方の為にも、簡単に説明をしておこう。
勿論、『ウエスリア大陸へようこそ』読みましたよ、という稀有で素晴らしい貴方には復習して頂くという事で……。
私、鈴木桃。
元美容部員のアラサー女子が、気がつけば16才?の姿でピレーネ山脈の巓に異世界トリップ。
山あり谷ありの数々の難事件を、女神様から託されたスーパー魔力で解決し、森の賢者獅子王様に求愛されるも、危機を迎えている大陸を救うのは私しかいない!という使命の元、追いすがる獅子王様を振り切り、仔犬のシロと白竜のホトちゃんとタタ村で知り合ったジュウ少年とミーナちゃんと共に旅立つ。
大スペクタルストーリーである。
ふーっ。
スミマセン!
ワタクシ、ウソをついてしまいました……。
それでも旅立ったコトは事実なのだが、私たち一行は、まだタタ村から殆ど歩みを進めていない。
その主な原因であるホトちゃんが、目を覚ましたようだ。
「モモ~。ノド乾いたーっ。ジュワジュワが飲みたいーっ」
「ミーナちゃんたちが起きたら朝食だよ。もう少し待って」
「のみたい~。のみたい~」
ホトちゃんが小さな足で地団駄を踏む。
ワヒーラのシロより何倍も大きくなると豪語するホトちゃんも、変異したばかりの幼竜の姿は可愛らしく、ついつい甘やかしてしまった。
「コンビニーズ」
唱えると、ドロリンパ。
イイ気分のあのお店が現れる、私の面白魔力。
妖精の森に居るという、アンジェリーナさんから授かった力の1つだ。
ジュウとミーナちゃんは、以前は店内に入る事が出来なかったが、パーティ仲間だと認識されたのだろう、簡単に入店出来るようになった。
「あ。入れます」
「弾かれないぞ!」
二人は大喜びして、フワフワ浮遊しているホトちゃんもシロも、勿論すんなり入れた。
そしてホトちゃんは、店内にある数々の商品に、魅了されてしまったのだ。
「この湯だっているモノたちは何だ?」
「それは、おでんです。手を突っ込まない!火傷するよ」
「モモ!コレは冷たいぞ」
「そこにはアイスとか冷たいお菓子が入ってるの」
「このキラキラしたモノは何だ?」
「あんみつパフェだよ。甘くて美味しいよ」
とにかく……きりがない。
夢中になる気持ちは解るが、タタ村を出て丸1日、コンビニの中で過ごす羽目になってしまった。
その後も、ひっきりなしに、コンビニを出せとリクエストが入る。
これはマズイ。
「ジュース!ジュース!ジュワジュワのジュース!」
ホトちゃんからジュースコールが沸き上がる。
「コンビニはねぇ。出したいんだけど、出せないんだよね」
ちょっと悲し気な表情を作ってみる。
「出し惜しみするなー。モモはケチ女か!ケツの穴の小さいコトをするなー」
ホント、口悪いよね~。
「ホトちゃん。あれだけの美味しいモノが詰まってるお店をポンと出すんだよ。どれだけの魔力を使うと思うの?」
神妙な私の口調に、ホトちゃんがハッとする。
「特別な魔力なんだよ。そんなにポンポン出してたら、ワタシ死んじゃうよ~」
ジェスチャー付きで大袈裟に言ってみる。
ため息をついて、ブルーな顔もつくってみる。
「モモ!ウソだろ!」
「モモさーん」
いつの間にか起きていたジュウとミーナちゃんに抱きつかれる。
「モモちゃーん。死んじゃヤダーー」
更にワヒーラのシロが体当たりでぶつかって来る。
出会った時は仔犬だったシロは、私を狼から守る為に覚醒して、ワヒーラに変化した。
ムリだからね、シロ。
ムキムキ怪力娘の私でも、受け止める自信ないからね。
「ヤダー!ヤダー!モモちゃ~ん。ごめんなさぃー」
巨体になったシロが大きな口を開けて、ビービー泣き出してしまった。
プクプク浮いていたホトちゃんが青ざめている。
「モモ!オマエにコンビニーズは禁止する!オレサマならともかく、オマエごときにあんな魔力が使いこなせる筈がない!今後一切のコンビニーズを禁止する」
いいね~。
いつもの上から目線。
ウンウンと、ミーナちゃんとジュウとシロも、並んで必死に頷いている。
えへっ。チョッと効きすぎたかな?
「まぁ、コンビニーズは特別な時に出すよ。食料はまだ沢山あるしね。朝御飯は干し芋と、柿の茶にしよ。ポニーちゃんもお水と干し肉食べとく?」
村を出る時に餞別で頂いたサバクポニーは、10日に一度水と肉を食べるだけで良い、機能的な砂漠用馬だ。
小型だが力持ちで、私たちの荷物の大半は、ポニーちゃんの背に乗っかっている。
「ポニーちゃんは、働き者ですねぇ」
ミーナちゃんとジュウが朝御飯の用意をしている間に、ポニーちゃんの世話をする。
広がった鼻も何だか愛らしい。
いやみ鳥の干し肉を食べさせながら、灰色の鬣を撫でる。
「ポニーだけ干し肉なのー?」
食いしん坊で肉好きのホトちゃんが、プンとムクれる。
「干し肉とククの実のスープを、作ってますよ」
さすがミーナちゃんだ。
気が利くねぇ。
暫くすると、香ばしいイイ匂いが漂ってきた。
スープと干し芋を食べながら、今日の予定をたてる。
「先を急ごうね。体力のある内に、砂漠を渡りきりたいよ。私は、体力バカーで強化するから。シロ、ミーナちゃんとジュウを乗っけて走れる?」
「ダイジョーブ。シロは速いよ!」
「ホトちゃんも、今日はスピードアップするよ」
「りょーかーい」
こうして私たちは、内陸砂漠を目指した。
その先には、ジュウとミーナちゃんの故郷、ホホロ国が待っている。




