二人の王子
「アンドリュー様」
セダレさんが、膝をつき平伏する。
私も従うべき?
横に並びかけた時、アンドリュー王子からお声がかかる。
「楽にするが良い。セダレ、元気そうで何よりだ。オリバー村はどんな様子だ?」
「はい。おかげさまで、布作りに邁進しております。この度は、新しい布を開発することができ、ホホロ国の発展の為にも献上させて頂きたいと都入り致しました」
セダレさんは平伏したまま答える。
私はどうしようかと思いながら、オヤジ天国たちを見渡すと、明らかに険しい顔で私を見ている。
ハイハイ。
平伏致しますよ。
腰を落とそうとした私の腕を、アンドリュー王子が掴む。
「そなたに、折り入って頼みがある」
え?私に?私にですか?
「王子!」
非難めいた声がオヤジ天国からあがる。
「そなたらも魔力者なら、この者から発せられる力を感じとれるであろう。この魔力があれば兄上も……」
「得たいの知れない女人に、話せる事では御座いません」
「そうです。セダレの魔力は使いましょう。この女人と妖獣たちは必要ない」
オヤジ天国が喚き始めたぞ。
麗しの王子様は私の腕を握ったままだ。
鼻筋も通って目元も涼やか。
あぁ~。
眼福。眼福。
「そなたたちの魔力を総動員しても無理だったではないか!私はこの女人から感じる膨大な魔力にかける!」
「モモです」
「え?」
「私の名前は、スズキモモです」
女人って何かヤな響きだよね。
「私は、アンドリュー・グランキューブ・ホホロ。この国の王子だ」
わかってますとも。
この部屋の中で一人、掃き溜めに鶴だもの。
貴方様が王子でなかったら、一体誰が王子様でしょうよ。
緊張するかと思った王子様とのご対面は、オヤジ天国やら訳ありトークやらで、すっかり落ち着いていた。
「話ならお伺いしますよ。その前に腕を離して頂けませんか?」
逃げませんよと、営業スマイルも付けてあげる。
お。何だか王子の頬が赤らんだ気がする。
「し、失礼した」
王子がパッと手を離し、親指を噛んだ。
オー!親指になりたい!
って、わたしは変態か。
「アンドリュー様。モモさんは果てない森を抜け、妖精の森まで旅しているお方。強い魔力持ちです。新しい布の製法をオリバー村に伝え、復興に役立てるように金品を受けとられませんでした。信頼できる優しい方。だからこそ、大切におもてなし下さいます様お願い申し上げます」
セダレさん……。
ありがとうございます。
100点満点のご紹介でございます。
これなら文句無いだろうよと、オヤジ天国たちをチロ見する。
ハイそこ。
訝しげな顔をしない!
素直に受け止める。
「モモ、君に頼むしかない。兄を、私の兄モンテカルロを助けて欲しい」
え?兄を救う?
人命救助?
そちら方面には疎いかも知れないぞ。
バチコーイ気分でいた私はシュルシュルと萎んでいく。
「あ、あの~実は、私の得意分野は力自慢とか体力自慢で、後は商売的な、それも特定ジャンルのみで、医学的素養は皆無でありまして。ハイ。」
言いながら、私使えね~と、情けなくなってきた。
でも、人命救助は無理ですよ。
岩を持ち上げてお兄様を助けるとかなら、いけそうだけど。
「兄は病ではないのだが……」
アンドリュー王子が、後方に控えていた従者らしき人から篭を受け取ると、かけられた布を捲る。
精巧な人形?
あ、瞬きした。小人だ。
アンドリュー王子は抱えた小人を私に近づける。
「私の兄上、モンテカルロ第一王子だ」
は?え?
小人は、緩やかに微笑んだ。
「はじめまして、モモ。モンテカルロだ」
「は、はじめまして……」
「モンテカルロ様!」
「セダレ、久しぶりだね」
「これは、一体どういうことで……」
戸惑う私と困惑しているセダレさんに、モンテカルロ王子が語ってくれたのは、戦火の中での出来事だった。




