ゆとりとサトリ。
「お下がり!」
閉めた門を這い上がり登ろうとする輩に、セダレさんが水魔力を一発お見舞する。
屈強そうな輩は滑り落ち、しこたま臀部を打ち付けている。
石塀に手をかけた男たちが怯む。
「さぁ。モモさん」
私はセダレさんに促されるが、セダレさんの水魔力で押さえた方がカッコいいのに……。
「この方々は、大陸きっての魔力者。旅の途中にホホロを訪ねられた。怒らせたり失礼な事をすれば、ホホロ国は吹っ飛ぶよ!」
セダレさん、そういう口上はナシの方向でお願いしますよ。
私は注がれる数多の視線を受けとめながら、頭をフル回転させていた。
「ムキムキ怪力娘ーっ」
セリフのお笑いさ加減を薄める為に、スパイダーマンが糸を飛ばす時のシャーのポーズで、魔力を飛ばしてみる。
一番近くに停めてある馬車を馬ごと持ち上げて、ハッとする。
持ち上げたまでは良いが、馬車を投げる事が出来ないじゃないか。
そのまま地面にそっと下ろす。
ヒンヒン暴れている馬さん、ごめんよ。
でもこれじゃあ、ただの怪力自慢?
行方を凝視していた人たちの、生暖かい視線を感じる。
だから、イヤだったのに~。
これ以上為す術がなく、ハッハッハーと、高笑いをしながらお茶を濁している時だった。
私の頭に飛び乗ったホトちゃんが、空に向けて火を吐いた。
ヒューっと炎は数多の民の頭上を通り過ぎ、炎の熱さを体感させた後、消えていく。
シロが二本足で立ち上がり、二メートル近い体躯を見せつけ、雄叫びをあげる。
その迫力に人々は震えあがり、暴動一歩手前の騒がしさだった門前は、静まり返る。
そう!この展開だよ。
あんた達、何てできる子なの。
ホトちゃんは、水だけじゃなく、炎まで扱えるのね。
ワンダフル。
びゅーてぃふる。
ファンタスティック!
「ホホロ国の者なら。イヤ、ウエスリア大陸の者なら、戦の恐ろしさを知っているだろう。今宮廷内で問題解決をしている。それがクリアになるまで、この門は何人も通れないよ。引き返すか、門が開くまで大人しく待つかどちらかを選ぶんだね。この門はホホロ国の要。みんなも知っているはずだろう」
セダレさんの問いかけに門前に詰め寄っていた人たちは、踵を返し石塀に掛けた手を離し、各々引いていく。
「いつ開くかはわからないんじゃのう?」
ロバを率いた白髪の老人に、セダレさんが頷く。
「悪いけどそれは、私も知りたいところさ」
引き返す者もいたが、殆どの人がその場に座り込んだり、長期戦に備えて荷物をほどいたりし始め、地面に寝転がる者もいた。
旅をしてホホロ都までやっと着いた人たちだ。
みんな、疲れている。
このままだと、門が開くのは明日になるかもしれない。
私はセダレさんに断って、門前を離れることにした。
シロとホトちゃんは頼りになるガードマンとして、残しておく。
後方で並んでいるジュウたちの所まで戻る。
「モモさん」
オリバー村のみんなも疲弊していた。
地面に布がひかれ、おば様方はみんなぐったりしている。
既に馬車は固定され、テリィさんたちが馬に餌を与えていた。
その中にポニーちゃんも混ざっている。
「お腹空かない?美味しいものが平和の道しるべだよ。ミーナちゃんと、ジュウ手伝ってくれる?」
二人を連れブーツを脱いで足を伸ばしていた知らないおじさんに、空の荷台を借りて、人目につかない塀の陰まで歩く。
「コンビニーズ!」
ハイ。皆さまにはお久しぶりのコンビニーズです。
でも私は、たまーに使っていたの。
エヘ。
だって、トイレとか、タオルの補充とか必要に迫られて。
だから、人目を忍んで夜に展開していたコンビニーズライフ。
ビール飲みながら夜空を見上げたり……。
あ。そんな責める目で見ないで。
たまになのよ。信じてー。
ミーナちゃんと、ジュウには本当に久しぶりのコンビニだ。
「モモ、体大丈夫か?」
「モモさん、無理しないで下さい」
「……大丈夫」
あぁ。ピュアボーイ&ピュアガールの心配気な瞳に、良心が痛むよ。
私はタオルで両手を保護して、おでんの什器ごと持ち上げる。
待っている人たちは、200人ぐらいかな?
ちんたら持って行けないよ。
器も山盛り持って荷台に放り込んでいく。
肉まん系と揚げ物系をミーナちゃんと、ジュウに手渡した袋に入れてもらう。
おにぎりも入れておく。
飲み物は、2リットルのペットボトルを10本程荷台に積み込む。
ついでに、タオルと苺飴やチョコ、コットンや日焼け止めも補給しておく。
トイレも済ませ、身だしなみを整え、それぞれお気に入りを手にしたジュウとミーナちゃんと、いっぱいになった荷台を押す。
あ。コンビニは消滅するんですよ。
みなさん、覚えてますか~?
荷台を引いていくと、だらんと寝転んでいる人たちが、次々と起き上がっていく。
「ご飯を用意しました~。ひとり一皿だけですよ。並んでください~」
匂いにつられ、元気な人もぐったりしていた人もわらわらと集まって来る。
今度は、荷台の周りが熱気と人の群れで包囲される。
カンカンと、什器を叩く。
「はい。ちゃんと、並べた人だけご飯ですよ。順番守れない困ったちゃんは、ホトちゃんの火炙りの刑ですよ~」
ご飯が食べたかったからか、火炙りが恐ろしかったからか、順番を守ってご飯を受け取って行く。
セダレさんに水責めにされた輩も、ワイルド系オヤジも、きちんと並んで受け取った。
おでんの容器に、肉まん系を1つと揚げ物1つとおでんを1つづつ入れる。
何が当たるかはお楽しみだ。
「うめー」
「なんだこれはー」
「アツアツで美味しいわ」
彼方此方がら、感嘆の声があがる。
ほっと人心地つけたおかげで、みんなの表情は柔らかくなり、笑い声や話し声が聞こえるようになった。
アリスさんたちにも行き渡り、頑張ったホトちゃんとシロには、アメリカンドックとシュークリームのご褒美も渡す。
ガツガツと食べて、のんびりしていると、馬の蹄が聞こえてきた。
しばらくすると、ギーという重い音と共に重厚な門が開かれた。
「開門!」
警備兵が門の左右に並び整列する。
その後ろで、税収者が控えていた。
「おー、門が開いたぞ!」
「良かった、荷物が運べる」
喜びあいながら、列に並んでホホロ都に入っていく。
剣呑な雰囲気は消えていた。
税門では、一人2ペニ課金される。
全員馬車から降りて、門を通らなければならない。
「怪力じょーちゃん、旨かったぜ」
「ありがとよ。力持ち娘」
強面兄さんたちにも礼を言われながら、私たちも税門に近づいて行く。
いいんだけどね。
怪力娘でいいんだけどね。
私は、モモちゃんだけどね。
税収者が声をあげる。
「この者たちが、魔力者一行です」
警備兵たちが、一斉に取り囲み私たちは、剣を向けられていた。




