表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/26

ゆとりとサトリ。

「お下がり!」


 閉めた門を這い上がり登ろうとする輩に、セダレさんが水魔力を一発お見舞する。

 屈強そうな輩は滑り落ち、しこたま臀部を打ち付けている。

 石塀に手をかけた男たちが怯む。


「さぁ。モモさん」


 私はセダレさんに促されるが、セダレさんの水魔力で押さえた方がカッコいいのに……。

 

「この方々は、大陸きっての魔力者。旅の途中にホホロを訪ねられた。怒らせたり失礼な事をすれば、ホホロ国は吹っ飛ぶよ!」

 

 セダレさん、そういう口上はナシの方向でお願いしますよ。

 私は注がれる数多の視線を受けとめながら、頭をフル回転させていた。


「ムキムキ怪力娘ーっ」

 

 セリフのお笑いさ加減を薄める為に、スパイダーマンが糸を飛ばす時のシャーのポーズで、魔力を飛ばしてみる。

 一番近くに停めてある馬車を馬ごと持ち上げて、ハッとする。 

 持ち上げたまでは良いが、馬車を投げる事が出来ないじゃないか。

 そのまま地面にそっと下ろす。

 ヒンヒン暴れている馬さん、ごめんよ。

 でもこれじゃあ、ただの怪力自慢?

 行方を凝視していた人たちの、生暖かい視線を感じる。

 だから、イヤだったのに~。

 

 これ以上為す術がなく、ハッハッハーと、高笑いをしながらお茶を濁している時だった。

 私の頭に飛び乗ったホトちゃんが、空に向けて火を吐いた。

 ヒューっと炎は数多の民の頭上を通り過ぎ、炎の熱さを体感させた後、消えていく。

 シロが二本足で立ち上がり、二メートル近い体躯を見せつけ、雄叫びをあげる。

 その迫力に人々は震えあがり、暴動一歩手前の騒がしさだった門前は、静まり返る。


 そう!この展開だよ。

 あんた達、何てできる子なの。 

 ホトちゃんは、水だけじゃなく、炎まで扱えるのね。

 ワンダフル。

 びゅーてぃふる。

 ファンタスティック!


「ホホロ国の者なら。イヤ、ウエスリア大陸の者なら、戦の恐ろしさを知っているだろう。今宮廷内で問題解決をしている。それがクリアになるまで、この門は何人も通れないよ。引き返すか、門が開くまで大人しく待つかどちらかを選ぶんだね。この門はホホロ国の要。みんなも知っているはずだろう」


 セダレさんの問いかけに門前に詰め寄っていた人たちは、踵を返し石塀に掛けた手を離し、各々引いていく。


「いつ開くかはわからないんじゃのう?」

 

 ロバを率いた白髪の老人に、セダレさんが頷く。


「悪いけどそれは、私も知りたいところさ」


 引き返す者もいたが、殆どの人がその場に座り込んだり、長期戦に備えて荷物をほどいたりし始め、地面に寝転がる者もいた。

 旅をしてホホロ都までやっと着いた人たちだ。

 みんな、疲れている。

 このままだと、門が開くのは明日になるかもしれない。

 私はセダレさんに断って、門前を離れることにした。

 シロとホトちゃんは頼りになるガードマンとして、残しておく。

 後方で並んでいるジュウたちの所まで戻る。

 

「モモさん」


 オリバー村のみんなも疲弊していた。

 地面に布がひかれ、おば様方はみんなぐったりしている。

 既に馬車は固定され、テリィさんたちが馬に餌を与えていた。

 その中にポニーちゃんも混ざっている。

 

「お腹空かない?美味しいものが平和の道しるべだよ。ミーナちゃんと、ジュウ手伝ってくれる?」


 二人を連れブーツを脱いで足を伸ばしていた知らないおじさんに、空の荷台を借りて、人目につかない塀の陰まで歩く。


「コンビニーズ!」


 ハイ。皆さまにはお久しぶりのコンビニーズです。

 でも私は、たまーに使っていたの。

 エヘ。

 だって、トイレとか、タオルの補充とか必要に迫られて。

 だから、人目を忍んで夜に展開していたコンビニーズライフ。

 ビール飲みながら夜空を見上げたり……。

 あ。そんな責める目で見ないで。

 たまになのよ。信じてー。


 ミーナちゃんと、ジュウには本当に久しぶりのコンビニだ。


「モモ、体大丈夫か?」


「モモさん、無理しないで下さい」


「……大丈夫」


 あぁ。ピュアボーイ&ピュアガールの心配気な瞳に、良心が痛むよ。

 私はタオルで両手を保護して、おでんの什器ごと持ち上げる。

 待っている人たちは、200人ぐらいかな?

 ちんたら持って行けないよ。

 器も山盛り持って荷台に放り込んでいく。

 肉まん系と揚げ物系をミーナちゃんと、ジュウに手渡した袋に入れてもらう。

 おにぎりも入れておく。

 飲み物は、2リットルのペットボトルを10本程荷台に積み込む。 

 ついでに、タオルと苺飴やチョコ、コットンや日焼け止めも補給しておく。


 トイレも済ませ、身だしなみを整え、それぞれお気に入りを手にしたジュウとミーナちゃんと、いっぱいになった荷台を押す。

 あ。コンビニは消滅するんですよ。

 みなさん、覚えてますか~?


 荷台を引いていくと、だらんと寝転んでいる人たちが、次々と起き上がっていく。


「ご飯を用意しました~。ひとり一皿だけですよ。並んでください~」


 匂いにつられ、元気な人もぐったりしていた人もわらわらと集まって来る。

 今度は、荷台の周りが熱気と人の群れで包囲される。

 カンカンと、什器を叩く。


「はい。ちゃんと、並べた人だけご飯ですよ。順番守れない困ったちゃんは、ホトちゃんの火炙りの刑ですよ~」


 ご飯が食べたかったからか、火炙りが恐ろしかったからか、順番を守ってご飯を受け取って行く。

 セダレさんに水責めにされた輩も、ワイルド系オヤジも、きちんと並んで受け取った。

 おでんの容器に、肉まん系を1つと揚げ物1つとおでんを1つづつ入れる。

 何が当たるかはお楽しみだ。


「うめー」


「なんだこれはー」


「アツアツで美味しいわ」


 彼方此方がら、感嘆の声があがる。

 ほっと人心地つけたおかげで、みんなの表情は柔らかくなり、笑い声や話し声が聞こえるようになった。

 アリスさんたちにも行き渡り、頑張ったホトちゃんとシロには、アメリカンドックとシュークリームのご褒美も渡す。

 ガツガツと食べて、のんびりしていると、馬の蹄が聞こえてきた。

 しばらくすると、ギーという重い音と共に重厚な門が開かれた。


「開門!」 


 警備兵が門の左右に並び整列する。

 その後ろで、税収者が控えていた。


「おー、門が開いたぞ!」


「良かった、荷物が運べる」


 喜びあいながら、列に並んでホホロ都に入っていく。

 剣呑な雰囲気は消えていた。

 税門では、一人2ペニ課金される。

 全員馬車から降りて、門を通らなければならない。


「怪力じょーちゃん、旨かったぜ」


「ありがとよ。力持ち娘」


 強面兄さんたちにも礼を言われながら、私たちも税門に近づいて行く。

 いいんだけどね。

 怪力娘でいいんだけどね。

 私は、モモちゃんだけどね。


 税収者が声をあげる。


「この者たちが、魔力者一行です」


 警備兵たちが、一斉に取り囲み私たちは、剣を向けられていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ