ほろほろホホロ都
旅の一行は思いの外、大人数になった。
ショーのモデルも兼ねて、三つ子やテリィさんも一緒に行く。
宮廷魔力者の集まりに参加するソボロさんとココノさんもいる。
工房に来る業者さんの心配をしている留守番組に「商いの利はホホロ国のショーにある。これを見ないアホ商人に用は無いと言いな!」と、アリスさんは言い残し出発した。
「全員連れて行きたいくらいよ、むしろそっちのが宣伝になるかもね」と、まだブツフツと言ってるよ。
馬車が5台連なり、サバクポニーとワヒーラのシロと、荷物をたんまり乗せた荷車の商隊は目立ち、誘いの声がかけられる。
私たちは「ホホロ都で珍しいショーがあるよ」と、逆に告知してまわった。
馬車に乗れないシロが寂しそうで、たまに並んで歩いたり、シロの背中にミーナちゃんやジュウが乗ったり、気分転換しながら進む。
ホトちゃんは、ふわふわ浮いてみたり馬車で揺られたり、気ままなものだ。
ホホロ都までの道のりには、どこかしこにも、戦の爪痕が残っていた。
荒れ果てたまま手をつけられていない廃墟や、柱だけが残された建物が、風景の一部として通りすぎるどの村にも残されている。
でもそこで畑を耕し、商いをしている力強い人たちがいた。
途中、ふんわりテレパシーでサーチした、『怪しげな盗人』『悪いクマ』『汚れイノシシ』を、ホトちゃんとシロと、アリスさんに雇われたタイガとマスクの兄弟用心棒が制圧に向かう。
さっと片して停車している馬車に戻る。
極悪人に襲撃されることもなく、一番の難所である盗賊が出るという噂の山道を、魔力者オーラ放出で無事に超えて、麓の村に泊まることにした。
村の食堂でショーの話をしていると「死ぬまでに一度見てみたいものだね」と、孫娘たちとスープを啜っているお婆さんが呟いた。
ホトちゃんが気に入って貰ったピンクのシルク布をゴソゴソ取り出す。
床に引きずらせながら、ふわふわ飛び始めた。
お尻をふっているのは、もしや私の真似?
シロが期待に満ちた目で見つめてくるので、オレンジのシルク布を可愛らしく、モモ巻きにしてあげる。
大喜びのシロが、テーブルのまわりを歩きながら得意気にリボンを揺する。
もちろん、お尻もフリフリだ。
なんか間違ってるぞと思いながら、三つ子を手招きして、三人の腰にショールを巻いて、頭をツンツンにする。
ジュウの腰にも巻きつけ、ミーナちゃんはCA巻きだ。
私は肩から羽織り指でショールの先をつまみ上げ、魅せられてのポーズで、くるくる回転した。
布がキラキラと輝きながら、広がり流れていく。
「ウワー」
歓声があがった。
テーブルの間を、モンローウォークで練り歩く。
ミーナちゃんやジュウも、無理して腰ダンスをしているので、そういう歩き方だとインプットされているのね。
「ホホロ都で、ホホロ国初めてのショーが、開かれます。見たことの無い美しい布が舞い踊りますよ。来ていただいた方は布に触れます。天女の布、シルク布です。お婆さんは特別に今日触れます。さぁどうぞ!」
私は両手を広げてお婆さんの前に立つ。
お婆さんが、おずおずと手を伸ばし、触れる。
「おぉーこれは、本当に天女様の衣だ。ツルツルとして光輝いている」
お婆さんは興奮して泣きだしてしまった。
「俺にもさわらせろ!」
「わしにもじゃ」
店内がヒートアップして、騒がしくなってきた。
「シルク布はホホロ国の未来です。あなた方は大切な未来に簡単に触れて沢山の手でボロボロにしますか?」
ン?私、インチキ占い師っぽくない?
大丈夫か?
「と、とにかく。ショーに来てください。来られない方も、国のみんながこの美しい布を手に入れられよう、アリス・ミッシェラさんが、頑張ってくれています。素晴らしいデザイナーです。どうか見守ってください」
なぜか大演説になってしまって、アリスさんを紹介する。
どこからか拍手が沸き起こり、いつの間にか食堂の外からも拍手と歓声があがった。
「いいぞー!」
「がんばれー」
「ホホロ国万歳!」
アリスさんと私は顔を見合わせて笑い、ジュウもミーナちゃんも高揚した顔で拍手をしていた。
ホホロ国の塀門が見えてきたのは、オリバー村を出て5日後だった。
遠目にも高い強堅な石塀が、どこまでも長く続いている。
「良かった!塀が修復されている」
「この辺りは全て崩れ落ちていたからね」
それにしても、門の前が長蛇の列で先の方では怒声も飛び交い、何やら怪しげな雰囲気だった。
税門までは遥か遠い。
「税の値上げでもあったのかね」
一向に前に進まない列に、私たちは馬車から出て様子を伺う。
門の前まで見に行ってた、タイガとマスク兄弟が戻ってきた。
「何やら、宮廷で大事があったようだ。兵士が城に集まってるぞ。急きょ門を閉鎖して揉めているようだ」
「宮廷で?」
セダレさんの顔が険しくなる。
目を閉じて数秒後、私の顔を見た。
「モモさん、頼むよ」
セダレさんに連れられ、私とホトちゃんとシロは人を掻き分け、税門に向かった。
門に近づく程剣呑な雰囲気になっていた。
揉みくちゃにされ、罵声が飛ぶ中、税門にたどり着く。
「あんたたち、どういう事だい」
セダレさんは、年若そうな税収者に問いかける。
「婆さんは引っ込んでいてくれ。何度も言ってるだろ、門は閉めたんだよ」
疲れきっている若い税収者は、セダレさんを邪険に扱い、しっしと手の甲で追い払う。
カッと、セダレさんの目が見開かれる。
「お黙り!私は宮廷魔力者のセダレだよ!王子にお言い!税門を蔑ろにしてどうするつもりだ!」
セダレさんの迫力に税収者は息をのむ。
「これは、アンドリュー王子の指示なのかい?」
「い、いえ。宮殿で何か大事が起きたらしく、守りを固めるようにとの指示で、警備兵は宮殿に馳せ参じたわけで」
「お前たちはバカか。守りを固めるなら、門が一番重要じゃないか。今すぐ兵士を呼び戻しな。警備兵隊長にでも、本当に門を閉鎖するか確認するんだね。かなりの民が門前にいるからね。暴動が起きないように理由を告知する旨伝えるんだよ。わかったかい?」
税収者はポカンとしていたが、セダレさんの念押しに、ブンブンと首を縦振り、小扉を潜り門を離れようとして、振り返る。
そう、門前が空っぽになってしまう。
「大丈夫だよ。私たち四人が門前は守るよ。心配しないで早くお行き」
セダレさんの言葉に、不安そうに振り返りながらも、馬に跨がると街へ駆けて行った。
そのやり取りを見ていた人たちが、税収者が居なくなると、我先にと門をくぐろう押し寄せてくる。
ヤバイ。暴動が起きるぞ。
「さぁ。モモさん、ここからが出番だよ」
セダレさんが、ニヤリと笑った。




