シルク布でショー。
織り子さんたちが織った布は艶やかな光沢がでて、青や茶色や灰色の、地味な色みさえも、華やかな光を放ち、むしろ抑えた色合いが上品な華やかさで、美しかった。
ピンクとオレンジと薄紫色の布は宝石のようにきらびやかで、それを目にしたセダレさんの顔色も変わった。
「私も都に行くよ。これは、一大事だ。さぁ、急いで準備をしよう」
布は私が知っているシルクのような柔らかさはなかったが、弱さもない。
今着てるワンピースも何度洗濯してもヨレること無く、汗をかいてもへっちゃらなのは実証済みだ。
砂漠の砂塵にも打ち勝つ位の丈夫さだ。
これは、売れる!
私の電卓もはじかれる。
隣では、恐る恐る布に触れているジュウとミーナちゃんと、布を巻き付けあいキャーキャー騒いでいるシロとホトちゃんがいた。
巻き付ける……。
「アリスさん。この布は都で売るのですよね?」
「ええ。沢山注文が来ると思うわ。まずは女官用の衣装に使う為に、宮廷に献上するの」
「街でショールを取り扱っている店がありました。この布をショールサイズに加工出来ますか?」
バタバタと室内を行き交っていたアリスさんが足を止める。
「新しい布です。どうせなら、華々しいプレゼンをした方が価値が高まります。ショールなら、すぐ出来ませんか?」
「プレゼン?」
「はい。ファッションショーを開いて、この布の良さをアピールします」
私はピンクの布を巻きつけたホトちゃんを肩にとまらせる。
モンローウォークをしながら、部屋の端まで歩く。
くるっとターンをして、ポーズをとる。
肩にのせていたホトちゃんを脇に抱えて、手を振りながら折り返し、モンローウォークをする。
ホホロ国おしゃれコレクションだ。
わかってもらえたかな?
「オレサマ、カッコいい?カッコいい?」
えらくご機嫌なホトちゃんを宙に飛ばして、ミーナちゃんの手を取る。
青い光沢のある布を頭に巻いて胸のところでリボン結びにする。
モモ巻きを作る。
唖然としているミーナちゃんの手をとって、モンローウォークを繰り返す。
ターンして振り返ったところで、ボクもボクもというシロのビームにやれて、手招きをする。
全身にオレンジの布を巻き付けたシロが走って抱きついてくる。
よろけながら支え、右手はミーナちゃんと手を繋ぎ、左手はシロの頭を撫でながらモンローウォークでアリスさんのところまで戻る。
「……こんな感じで、布をモデルが纏ってアピールします。洋服があればいいのですが、今から仕立てるのは難しいですよね。ショールなら、今までの生地の洋服の上に使えるので違いも明白だし。業者さんを呼んでファッションショーをすれば、一度に注文がとれますよ」
ワンピースの裾を広げておじきをする。
フィナーレの挨拶だ。
「モモちゃん、カッコいいです」
シロがうっとりしたように、モモを見上げる。
「そのショーとやらに、オレサマもでてもいいよ」
「シロも。ボクもでる~」
う~ん。
それはショーのテーマによるよね。
アリスさん次第だし。
肝心のアリスさんは、完全に惚けていた。
アシスタントのおば様たちも、横で惚けている。
「モモちゃん……ちゃんと話を聞かせて頂戴」
かすれ声のアリスさんとお茶を飲みながら夜の語らいをすることにした。
私のショー案の意図を理解したアリスさんは、すぐさまショールと、既存デザインで何着か洋服も仕立てる事にする。
アリスさんの興奮度合いは、ピークを越えた。
「すごいわ!モモちゃんは神様が遣わしてくれた天使に違いないわ。革命よ!革命が起きるわ」
ミーナちゃんの頭に巻いたモモ巻きについても詳しく聞かれた。
「私が知っている巻き方は数種類です。簡単なのでアリスさんもすぐにマスターできますよ。ショール店のふくよかなおば様もすぐにマスターしました」
「モモちゃん、巻き方を教えたの?」
「へへ。アドバイス料貰いました」
私は嬉しくて自慢してしまった。
「……いくらもらったの?」
「3パターンのアドバイスで銀貨五枚ですよ!五枚!」
手をパッと開いて、五のアピールをする。
「モモちゃんすごいー」
「モモやるな」
モミジホシ団一行が盛り上がる一方で、アリスさんは渋い顔をしていた。
「あの強欲ババァ……。モモちゃん、私は今回のアイデアに金貨10枚を払うわ」
「金貨?10枚?」
「もちろん、シルク布に対するアドバイスは別よ。今後シルク布が売れる毎にマージンを払うわ」
「マ、マージン?」
魅力的な単語が連なってくる。
「そうよ。今後シルク布が売れる毎にモモちゃんは、ガッポリよ。どうする?20%位で契約する?」
嬉しさに目が回りそうになる。
これから、お金の心配をしなくて済むの?
串焼きも食べたい時に食べられる?
妄想がふくらむが……。
「マージンはいいです」
「え?何言ってるの!重要なことよ」
「でも、そうすれば布の値段が上がりますよね。私はこれで産業が盛り上がって、ホホロ国が復興してくれればいいです。金貨10枚あれば旅は続けられるし」
「モモちゃん……」
タタ村でお世話になった、アジ婆さんたちも、ジュウもミーナちゃんもホホロ国の人だ。
アジ婆さんは、ホホロ国の行く末を心配していた。
私に出来るのはこれくらいしかない。
「本当に天使だったのね……」
アリスさんは目元を拭うと、大声で宣言する。
「明後日には出発するわよ。各自準備して。ホホロ国の夢がつまった布よ。成功させるわよ!」
オー!
あらゆるところから、声が上がり、モミジホシ団のメンバーも大声で叫んでいた。
「オー!」




