モモ巻き。
アリスさんの工房を離れ、村の商店街らしき一角を散策する。
旨そうなお肉が焼ける匂いも漂ってくる。
ダメダメ無駄遣いしちゃ。
ぐっとこらえて、串焼きの屋台を素通りする。
タタ村のバーベキュー美味しかったなぁ。
オリバー村の串焼きは、お肉が鳥系ではないね。
素通りしながらも、しっかりと横目でチェックは入れておく。
懐があたたかくなったら、みんなで食べに来よう。
スカーフやショールのような布をディスプレイしたお店に入ってみる。
「いらっしゃいまし」
上品なおば様が迎えてくれた。
おば様は、布を肩にふんわりと巻いている。
やっぱり、ショールのような使い方だ。
この世界に来て初めて見たよ。
「上から羽織るとオシャレですね」
おば様はとても嬉しそうに笑って、ちょっと小首を傾げた。
「貴族様には評判が良いのだけど、村ではなかなかね。風で飛んだり、実用的じゃないと言われてねぇ。テーブルクロスに使われたりするんだよ。一時は勇者様の影響で頭に巻くのも流行ったんだけどねぇ」
あら。それはもったいない。
私は、おば様のショールを崩して、リボン巻きにした。
「これなら、動いても邪魔にならないし、首元にアクセントが出来て素敵ですよ」
おば様は固まっている。
気に入らなかったのかな?
それなら、美容部員時代にしていた、スチュワーデス巻きはどうだ?
するするとリボンをほどいて、扇形に折っていく。
一般のスカーフよりも大判なので、扇は少し広げるぐらいにして、後はそのまま首元に巻きつける。
「こちらも華やかさが出て素敵ですよ」
おば様はそれでも動かない。
くそー手強いなぁ。
それなら……。
ショールを半分に折って、腰に斜めに巻く。
おば様は少しふくよかなので、腹部にゆとりを持たせて縛る。
「素敵ですよ。お洋服の印象が全く変わって見えますね。斜めのラインが入って、ボディもキレイに見えますね」
「……あ、あなた。何者なのーっ」
おば様に大声で叫ばれて、仰け反ってしまったよ。
どうしたの?
「都から来たデザイナーさん?新鋭の方?お洋服のデザイン画はお持ちじゃないの?」
いや。全くです。
デザイナーじゃないですから。
「どこの方なのーっ!」
「どこでもないのですが、一応アリスさんの家で……」
ふっくらした体で詰め寄られて、アリスさんの名前を出してしまった。
「アリス・ミッシエラ!あの個性的なデザイナーのところにいらっしゃるのね」
おば様はやっと納得したように頷いた。
「先程のコーディネイト買い取らせていただくわ」
おば様の鼻息は完全に荒くなっている。
こわいよー。
気に入って貰えたのは嬉しいけど、買い取りって?
お金が入るってことだよね。
鈍った商売人としての勘を呼び戻す。
う~ん。
「このアレンジ方法は他にも伝授する方がいらっしゃるので、独占は出来ません。ですが、ショールを売る時のアドバイスとしてお客様に伝えていただくのは自由です。おば様にアレンジの仕方を教えるという契約でいかがでしょうか?」
「もちろんそれで結構よ。さぁ。三つとも教えてちょうだい」
それから、リボン巻きとCA巻きとジプシー巻きを何回かトライして、おば様は完全にマスターする事が出来た。
「ありがとう~本当に助かったわ。でもうちは仲買だからね、そんなに代金は払えないの。ご免なさいね」
おば様は申し訳なさそうに、銀貨五枚を差し出した。
元手無しで銀貨五枚だ。
それも予想外の収入。
私は、嬉しくて小踊りしたくなった。
「沢山の人を素敵にしてあげて下さいね」
もっともらしい事を言いながら、おば様と別れた。
それから二日間、セダレさんから魔力コントロールの特訓を受けた。
アリスさんは工房から帰って来なかった。
ジュウたちの魚釣りは大漁だったので、ジャンジャン魚を焼き、テリィさんが工房に差し入れに出掛けた。
「工房はすごい活気で、アリスの目は血走っていたよ」
テリィさんは、「あれはしばらく帰って来ないかも」と、ため息をついていた。
それでも着替えやらを纏めて、また差し入れに出かけるのだから、仲が良いんだよね。
うらやましいよ。
テリィさんの予想に反して、アリスさんは三日目の晩に帰ってきた。
「さぁ、モモちゃん。ホホロ都に行くわよ!」
アリスさんの鼻息は荒く、瞳孔は開いたままで、セダレさんの訓練を受けて座禅を組んでいた私とシロとホトちゃんは、その興奮具合にのまれて、ウンウンと頷いていた。




