カラフルカイーコ。
ワァオ!
思わず興奮してしまう、心踊る光景が待ちうけていた。
ピンクや緑や赤や青の色とりどりの丸い生き物が、コロコロ転がったりぶつかり合いながら、大きく口を開け、糸を吐き出しているのだ。
手鞠のように、ぴょんぴょん跳びはねている。
丸っコたちの前に座り込んだおば様方が、神業のようなテクニックで、吐き出す糸をより分け束ねていく。
その流れがスムーズで、また丸っコが可愛らしいのだ。
飛び跳ねると弾力性のある丸い体が、ぷるぷる震えている。
ブラボー!
コレは、拍手ものですよ。
この丸っコたちが、カイーコなんだよね。
可愛いなぁ。
そういえば、炒めて食べると旨いとジュウが、言ってだゾ。
このコたちを?
ヒェ~~!
許してあげて~!
色採りどりの糸の束を、トーヤさんが見せてくれる。
「糸はこの状態で出荷します。後はお隣のオリバー村で布に仕上げます」
カラフルな色がキレイだねぇ。
染色しないで済むのは便利だね。
「ミーナちゃん、次はこの色でワンピース作って貰おうよ」
私はピンクの糸を指差す。
ミーナちゃんや村の人たちは、寒色系の服ばかり着ていた。
機能的に見えるけど女の子だもの、可愛い色も着たいよね。
「モモさんは貴族様でしたか。白竜様やワヒーラ殿を従えておられる方だからな……」
トーヤさんが、またもや頭を下げる。
何言うてマンネン。
「貴族じゃないですよ。私。庶民ですよ」
「モモさんは、魔力者さんなんです!」
ミーナちゃんが慌てて言う。
「そうでしたか。さぞや素晴らしいお力なのでしょう。喜んで糸をお譲りしましょう」
「ありがとう?」
糸は戴けるようだか、なんだか腑に落ちない。
「明るい色のお洋服は、貴族様、魔力者様、司祭様しか着用出来ないんです」
ミーナちゃんが耳打ちをする。
なんですとーー!
着るものの色で身分を表す?
そんな面倒くさいルールをわざわざ作ってるの?
商売としても不味いでしょ。
でも私が憤ったとしても、この世界で生きているミーナちゃんやトーヤさんには、何てことのないルールなら……。
「モモさんがキレイな色のワンピースを着ているところを見たいです」
笑顔のミーナちゃん。
ミーナちゃん!
あんたは、天使だよ。ホント。
おねーさん癒されるよ。
日も暮れているので、カイーコ村で一泊させてもらう。
村に宿屋は無く、村長であるトーヤさんの家に泊めていただくことになった。
そして、カイーコ村にお風呂施設はあるのだが、今は水魔力者が居なくて週に一度の使用になっているそうだ。
「今日はお風呂の日にしましょう」
無理は言えないが、私も入りたい。
でもまた、井戸からバケツリレーで、お水を運ぶのかな。
「ホトちゃん、お水を溜めてもらえない?」
実力を見せつけたホトちゃんにお願いしてみる。
「いいよん」
ホトちゃんの力で水を溜め、薪をくべてライターでこっそり火をつける。
お風呂の準備がスムーズに捗る。
手伝いに来てくれたおば様方も、感心している。
「おぉー、さすが白竜様ご一行だ。ありがたい。ありがたい。」
「ダラス様以来だわ」
タタ村と同じような、簡素で広い公衆浴場で念願のお風呂に入る。
あぁ、気持ちいいよー。
脱衣場から、話し声が聞こえて来る。
遠慮して、外で待ってくれてるのかな?
浴槽にはミーナちゃんと二人だけだ、後6人は入れそうだよ。
「入っても大丈夫ですよ~。良かったら、ご一緒にどうぞ~」
声をかけると、おば様たちがゾロゾロ入ってきた。
みんなお風呂が待ち遠しいんだろうな。
でも、ちょっと人数多いぞ。
押しくらまんじゅう状態になって、私とミーナちゃんは、長湯しないでお風呂場を後にした。
「気持ち良かった~?」
「ボク、モモちゃんと一緒が良かったです」
男湯から出たジュウたちが待っていた。
あんたたち、鴉の行水だねぇ。
ちゃんと、砂漠の垢は落とせたのかな?
シロゴメンね。
次は絶対だからね。多分。
私たちは荷物を置かせてもらっている、トーヤさんの家に向かった。
トーヤさんと奥さんと、カイーコの世話をしているおば様方と、夕食をいただいた。
今夜のメインはお鍋料理だ。
皆で囲んでワイワイ食べると楽しいね。
団子鍋を食べながら、ジュウたちが語る昔話を聞く。
ヨウウさんたちは、年に何度かカイーコ村とオリバー村を訪れていたそうだ。
自分の目で糸や布を選定していたんだね。
きっと腕の良いデザイナーだったんだろうな。
「どうですか、カイーコの味は?」
え?カイーコの味?
あの丸っコちゃんたちの、あじ?
「炒めるのも旨いが、今日は団子にしてみたんだよ」
団子?
この弾力があって仄かに甘味もある、ククの実と相性バッチリな、鍋在中のお団子のこと?
ギャーー!
「おいしーです。シロお代わりしたいです」
「オレサマの口にもあっているぞ!」
お代わりと、シロとホトちゃんが器を突き出す。
あんたたち~~。
丸っコちゃんを。丸っコちゃんを。
……。
美味しくいただこう。
自然の摂理。
私も並んで器を差し出す。
「スミマセン。お代わりを……」
美味しいは正義?
丸っコちゃんたちは、三日間糸を吐き続け、食糧チームと繁殖チームに選別されるそうだ。
カイーコの一生。
あないみじ。




