神様とお茶会を
私は、普通の学生だった。
理数系の人々が集まる数学兼理科研究部というなんともいえない奇妙な部活には入っていたが普通の学生だった。いや。先輩方も普通だったと思う。
理数系に関する愛情以外は!!
あ、初めまして。私は穂高沙希です。今は高校二年の16歳。数学と理科の生物学をこよなく愛してやまない高校生です。
…さて、とりあえず質問です。
Q1ここはどこですか?
A分かりません
Q2学校にいたはずなんですが?
A知りません
私の大好きな関数グラフが目の前から消え去りましたよ?!止めていただきたい!!私のご褒美が消えたんですけど!!
「おい、穂高。説明しろ。何でお前がエンターキーを押した瞬間にこんな場所にいるんだ。お前の目の前にあったパソコンはいったいなんだったんだ?!」
「んなもん知ってたら言いますよ?!そっちこそこの状況を説明してくださいよ!何なんですか?これ」
目の前に部員全員が倒れていました。最初に起きた私と、部長である高野健が叫んでいます。通称ケンさん。私だけ部長と呼んでいます。もう、部長としての権限もあんまり無かった気もするしね。この人。
「部長。その手に持っているものは何なんですか?!物騒です。警察を呼びますよ?!」
「んなもん知るか!!だいたい、携帯を持ってるのか?!」
「YES!!」
そのまま、即興の歌を歌ってみる。題名「ポケットを叩けば――」
「ポケットの中にはけーたいが一つー。ポケットを叩くとけーたいは壊れるー♪」
「歌うな!!当たり前のことを言うな!!」
私はとりあえず携帯を開きました。も、もちろんスマホだよ?大丈夫。画面をタップするんだよ?
「ってあれ?やっぱり圏外かー」
「ま、そうだろうな。予想は大体付いてきた。しかし、こんなことが本当にあるもんなんだな」
「…私の関数グラフを返せ!!せっかく良いものができていたというのに!!」
「ま、あきらめろ」
こんにちわ。異世界さん。一回爆発して死んでしまえ。リア充並に。
「ま、とりあえずこいつらを起こすぞ。そうでもしないと先には進まない。それに…こんなものも発見したからな」
部長は服についていた何かをとって見せてくれた。…何かのカードのようだ。
「なんですか?職業が剣士って。ちゃんと自己紹介用の名詞みたいな感じなんですね」
「知らん。こんなことならプログラマー的なものがよかった」
「…あ、私のもありますね。えっとなになに…魔法使い(白)。え?どういうことなんでしょう」
「あー。どこかの魔法使いの本で見たことがある。…それと一緒とは限らないんだが、黒魔法っていうのは人に害を与える魔法。つまり、氷なんかで人を凍らしたり、炎なんかで人を焦がしたりするような感じかな。一方白魔法って言うのは人の傷や病気を治したりする魔法だと思う」
「納得納得」
つまり、怪我を治すみたいです。分かりやすーい。
「おい。八月。起きろ」
「…んー。ってあれ?何でケンさんの後ろに青い空が見えてるのかな?説明、して?」
今起きたのは、副部長の八月一日勇樹。珍しい苗字なので通称も「八月」です。多分、私だけなんだろう。副部長と呼ぶのは。
部活が理系なのに誰も眼鏡をかけない中、唯一眼鏡を掛けていただいております。
あ、ついでに部長と副部長は三年生だよ?年上。18歳。
「俺も知らん。ついでに失礼…」
「…何をしていますか?」
「あ、穂高ー。こいつが魔法使い(黒)みたいだなー」
「ふぇーい。…美空ー。起きろー!!」
私が起こしているのは後輩の十七夜月美空だ。この子、すっごく可愛いんだよ!!部活の天使!!本当に天使!!通称「ソラ」
「んー…。沙希せんぱーい。可愛いですぅー」
「何言ってやがる。自分のことを言いなさい!!じゃなくて!!起きろ!!」
「…ん?何で先輩がいるんですか?!あ、ね、寝てませんでしたからね?!」
「どっちでもいいよ。えっとー?何々…あ、部長ー。美空はよく分からないけど獣使いらしいです」
「了解。あ、ついでにシロのは弓使いだった。もう起きたけどな」
シロ、こと城ノ内漣は私と同い年だ。中学から数学について語り合ってきた。ついでに、城だからシロ、という非常に残念な名前だ。
あ、先にもう一人の説明をしておこう。櫻田涼也。多分、男子の中で女子力は一番高いと思う。裁縫や料理、お菓子作りが趣味だというのだからどこかにいそうな主婦だ。通称も「サクラ」と女子力満載。そんな人だ。
ちなみに、城ノ内は17歳。涼也君は16歳。美空は15歳だ。
で、全員が起きました。円になって作戦会議です。
「とりあえず、サクラは暗殺者だ。一番似合わない気がする」
「同感。部長さん。私の魔法使い(白)と変えません?絶対に良いですよ」
「…それはそれで似合わないだろ。却下」
「そ、それはいいんですけど、僕はちゃんと部活動をやってたんですよ?!」
「「「それは全員だろ!!」」」
そう。数学、もしくは理科が大好きな人しか集まっていない。物理、化学、生物と全員が違うかもしれないがみんな大好きなんだ!!特に副部長は!!
「それはさておき、ここはどこだ?」
「それが分かってたら絶対に俺は貴方に言いますけどね」
「↑同意」
部長の一言に、副部長と私が意見を言う。まあ、同意しただけだけどね?
「武器も持ってるみたいだし…ここは日本ではない、ということは確かだな。それに、職業もあった。このことから、異世界ですね。実際、穂高が携帯で試したけど繋がらない。どこかの森の中なんて状況だとしても良いけれども、確かに教室にいた」
「あ、穂高。今は何時だ?」
「え?ちょっと待ってください…」
副部長に言われ、私は携帯を見る。
「…今頃に帰りますね。二時間程度しか経ってません」
「このことから、来たのは部活をし始めてから終わるころまで、になりますね。まあ、実際のところはもっと短いんでしょうが」
「どうなってるんでしょう。とりあえず、私の関数グラフを返していただきたいです」
「…本当!!なんで奪われないといけないのか一切わかんない!!おかしい!!必死になって作り上げてきたのになあ。あんなに美しいアートなんて無かった!!」
数学好き、勃発。本当にそうなんだよ!!今度はいい出来だったのに!!
「まあ、とりあえず生きることを考えてみよう。
今、俺たちはこの武器しか持っていない。制服は冬だったしな。ブレザー着てるな。で、こうなったら生き延びるしかないんだ。だから、村を探す。けど、宿屋には入れないだろうから、売れるような魚を捕まえる。他にも、鳥やウサギでも構わないだろうな。
ただ、この中に一人、非戦闘員がいるんだ」
「うん。絶対に私だよね?」
「まあ、穂高なんだけど、素手、というのも行けないからとりあえず誰かについていく。でも、魔法を使えないと八月も駄目だろう。と、言うわけでチームを分けていこうと思う」
「今日に限って部長は部長らしい」
「うっせえ!!黙っとけ!
とりあえず、俺、穂高、サクラで魚でも捕まえるか。で、八月、シロ、ソラかな」
「あ、質問」
私が手を上げる。
「美空、獣使いだけど、その獣はどこにいるんでしょう?」
「…ソラは試しに何かを呼んでみてくれるか?」
「そ、そういわれましても…うーん。あ、鷹!!鷹さーん!!こっちに来てー!!」
一分後、本当に来るなんて思わなかった。
「よし。これで良いな」
「わーい!!フワフワしてて、可愛いー!!」
鷹が普通に来た。みんな笑うしかない。
「まあ、八月と穂高は練習するしかないだろ。魔法だし。魔力とか理解できないからな」
「「りょー」」
りょーとは、了解、を訳したものである。私たちの中では結構の確率で使っている。
そして、私と涼也君は部長についていく。
「本当に森ですね」
「本当に森だな」
部長はちゃんとした剣。涼也君はどこにでも隠せそうな短剣。私は魔法使いが持っていそうな杖だ。多分、魔法の効果が強くなったりするものなのだろう。知らないけど。使ってないし。
「とりあえず、怪我でもしてみてどんな感じで使うのか、試してみるか?」
「使えないのに?」
「少しの切り傷なら我慢できる。やってみないと分からないっていうだろ?あ、サクラ。ごめんな。魚を取るのを押し付けて…」
「別にいいですよ。職業柄、魚が結構取れるんです。それに、魔法が使えないのはかわいそうです。穂高先輩。ファイト、です!!」
うん。やっぱり涼也くんは優しい。いつも笑顔で空気を和ましてくれるキャラだ。特に、人のことを優先的に考えてくれる。
「よし、穂高。やるぞ」
「ばっちこいです!!」
うじうじしていても仕方が無い。とりあえず、やってみることにした。
部長が指先を軽く切った。赤い血が手の先に滲む。
「ほら。試してみろ。俺の血はまだまだあるから心配すんな」
「りょー」
とりあえず、指先を掴む。どれが魔力なのか分からないけど集中してみた。傷は、どのようにして治るのか、考えてみる。
血の巡り方だったか…?人には再生能力って結構あるからやっぱり血なのか?あぁ。思い出した。血小板だ。血小板が治しているのだろうか。そうだとするとここに血小板を集めてみると良いのか?でも待てよ?どうやって集めるんだろう。血小板って、生きてるの?絶対に生きてないよね?それなら人間の治癒能力を高めればいいの?どうやって?
「あ、穂高。もういいぞ。手を離せ」
「………………」
血小板って個人で量は変わるのかな?傷がふさがりにくい人は血小板が少ない?あ、でも血液がサラサラなのかドロドロなのかも変わってくる気がする。うーん…。
「穂高!!離せって!!」
「……………」
「叩くぞ?」
「…あ、はい」
無意識のうちに関係の無いことまで考えていた。私は部長の手を離す。そして、気が付いた。
「治ってますね」
「そうだな」
「…血小板、すごい」
「何言ってんの?」
ありがとう。血小板。あなたのことは一生忘れないよ。人を治してくれるんだね。
「それよりも、魔法は間接的に与えるものでもあるし、一瞬でできないといけない。もう一回、今度は触らずに、時間をあんまりかけないでやってみるぞ」
「りょうりょう」
とりあえず、血小板だ。血小板。
部長が傷を作る。その瞬間に血小板を考える。と、同時に、
「血小板!!」
叫んでしまった。何やってんの?私…。
「何を叫んだ?!そして、何で治った?!」
「血小板ってすごい!!最高ですね!!人の味方なんですよ?知ってました?」
「お、おう。それはいいんだが、何を考えていたのか一つ一つ教えてくれ」
血小板を称える私に部長は説明を依頼する。ふふふ。よかろう。
「人の傷ってどうやって治ると思いますか?」
「そういわれても…」
「血小板ですね。血小板が傷口を塞ぎます。多分。で、傷の周りに血小板が集まればすぐに治るのかなーって思いました。だから、血小板を考えていました」
「そうだとすると血小板ってすごいな」
血小板、本当にありがとう。人類を救う最高のものだ。
「あ、ケンさん。結構取れました。で、どうですか?」
「順調。こいつは小さな傷だったら治せるようになってる」
「いえーい。ピース、ピース」
「おめでとうございます。あ、僕も結構取れましたよ。さっきも言いましたけど。20匹です」
「上等上等。さて、帰るとするか。町も探さないといけないだろうしな」
「ごめんね?任せちゃって…」
「別に大丈夫ですって。僕とかケンさんは何もしなくても大体は分かりますけど、魔法は分かりませんもん。穂高先輩、一発でできて、すごいなあって思います」
そういって、涼也君はニッコリと笑った。何て優しい子なんだ!!魚を捕るだけの仕事だったのに、絶対に文句もあるだろうに、それを言わないなんて!!なんて優しいんだろう!!
「涼也君、優しい…」
「そうですか?常識なんですけど…」
「ううん。優しい。本当に優しい。血小板のように人類の味方になるよ」
血小板は強い。しかし、涼也君もいいと思います。何でこんなに優しいのだろう。本当にいい。
で、なんやかんやあってみんなに会えました。え?何で省略したかって?何をしても面白くないからね。移動するところなんて。
「すごいです!!町を見つけました!!」
「その鷹はなんなの?ウサギも捕まえるし、何でもできる!!」
「あ、あと俺は色々と魔法が使えるようになりました。まだ弱いですけど、風魔法。氷魔法。水魔法。まだ炎は使えません」
なんと!!強い!!私以上に魔法が使えてる!!さすが副部長…。
「こっちはとりあえずサクラが魚を20匹。…で、穂高は切り傷程度なら今のところは治せる。な?」
「血小板のおかげで、ですけどね」
だんだん愛着が湧くよ?血小板。生きていないくせに!!
「じゃあ、とりあえずは町に向かうか。…宿代とか、やばそうだけどな」
「りょー」
私は立ち上がった。それにつられてみんなも立ち上がった。
「よし。行くか」
そして、お店で捕ったものを売りました。やっぱりお金が違う。全部で5枚の金貨。よく分からないけど、慣れるしかないみたい。
そのお店の人は、何故か私と美空を品定めするみたいに見てきていた。あ、もしかして異世界人ってすごいんでしょうか?
「ふーん。いい値で売れそうだな…」
「?」
「なあ、兄ちゃん方。あの二人、500金貨なら売ってくれるか?」
「…はい?」
あ、奴隷とかそんな感じみたいですね。なるほど、美空は高く売れそうだしね。
「絶対に無理です。美空は私たちのものなので」
「…お前も一緒に、だよ。何で美空限定なんだ。
で、無理です。仲間を売るなんて。絶対にしたくないですね。いくら金を出されても無理です。金が無くても仲間がいなくなるよりはいい」
ぶ、部長がかっこいい。さすが…。
「じゃあ、宿屋に行くか」
「りょー」
「…あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
部長はいつもみたいにヘラッと笑った。こんなところがあるから信頼できるんだよなー。数学の愛情だったら絶対に副部長だけど、正義感は絶対に部長が強い。そこがあって部長になったんだよね。うんうん。
宿屋についたら、部屋はいっぱいだった。お金はあったけれども一人部屋を六人で借りることに。
第一印象
「狭っい!!」
「汚い!!」
「何でこんな部屋なんだ!!」
でした。ちなみに、言った人は男性陣。涼也君以外の…。
「ま、まあ…それよりも、誰がこのベットを使うか、ですよね」
「……それは女性でしょう」
「絶対にな。こんなときにのんきにベットで寝られる男性はいないと思う」
「美空。決定ー」
そして勝手に決める私。美空は驚いて私のほうを見ていた。
「え?!沙希先輩は?!」
「私は大丈夫だよ。机があるから。そこで寝る。気にしなくても良いよ」
「で、でも……」
「でも、も必要ない。大丈夫だって。私が先輩だしね。後輩に譲るのが当たり前。ずうずうしく後輩を踏み潰しながら寝るのは嫌だからね」
そう言って、私は机の方に回った。
***部長さんside
夜になった。この世界に来て、まだ、六時間だろうか。
みんなは部屋で寝ているようだった。少し前までは寝ていたが今は起きた。まだ、月明かりが見える。
本当は、こんなところで夜を過ごすことなんて無かったんだ。
本当は、関数のグラフアートでみんなで見せ合い、笑う。そんな一日がよかったんだ。全員で数学について語り合うのだっていい。なのに、そんな日常が、壊れていった。
どうせなら、一人でもよかった。みんなまで巻き込みたくなかった。
そう考えると、涙が出た。声を押し殺して、少しだけ泣いた。
「…泣いたって、何かが、変わるわけじゃあないですよ。今は、生きましょう?」
「っ…起きてたのか?何起きてるんだよ。早く寝ろよ」
いつの間にか穂高が俺のほうを見ていた。
「と、言うよりなんで机の下にいるんだ?」
「寝やすいので。それに、魔法の感じもよく分かるようになりました」
「俺の剣を何に使ってますか?」
「傷に、です」
俺は机の下の穂高を見る。穂高は身体を小さく縮め、机の下で魔法を使っているようだった。
「このくらいの傷なら治せるようになりました」
「…お前は、怖くないのか?」
率直な意見を聞いてみることにした。この世界のことを、どう思っているのか。
「…そりゃあ怖いですよ。だけど、それだからって言って前に進まないのはいけないなーって思いましたね。止まってばかりだったらそれこそ怖いです。自分にできることを見つけて、やってみようって思いますね。確かに、色々と悲しいですよ?でも、もういいんです。生きることだけを頑張ります。
だから、みんなの足手まといにならないように、私は魔法を使いたいと思います。戦えないので、傷を負ったら、助けられるように、です」
「…やっぱり、お前は強いんだな。色々な面で」
「そうですか?私には部長の方が強いんですけどね。今日の奴隷だってそうですし、みんなに指示を的確にだしてますし。まあ、悩むのもいいですけど、それを皆さんの前では出さないようにした方が良いですよ。信頼、してくれていますからね」
そう言って、穂高はニッコリと笑った。いつも通りで、安心した。…やっぱり、穂高は強い。どんな逆風にだって勝てるような気がする。
「まあ、戦えないなりにやっていこうと思いますよ。いつでも相談には乗りますよ?」
「あぁ。八月が使えないときに頼む」
「りょうー」
本当にいい後輩に恵まれていてよかったと思う。俺は机に寄りかかるようにしてそのまま寝た。
*****視点 穂高
この世界に来て、一ヶ月がたった。
私を含め、皆さんが成長しております。本当に。すごいすごい。
部長もあれ以来必死に頑張ってます。私と副部長に頼ることも多いですけどね。それでも、一日を過ごすために必死になってくれています。
「………」
そして、目の前にあるのは誰にも見えない部屋の角。変な隙間なんです。
私にしか見えない魔法陣なんです。蒼く光っているんですが、誰見も見えないみたいなんです。いや。魔法の使えない部長達ならまだしも、魔法が使える副部長でさえ見えないって言ってるんですよ?おかしいですよね?
「おかしいです。絶対にあります」
「いや。だから、何も無いって」
「でも、穂高はほとんど嘘をつかないからなぁ…。本当の可能性はあるけど、本当に無いよ?」
「絶対にありますから!!」
誰も信じてはくれなさそうなので、私はとりあえず壁に向かいました。魔方陣のある部屋の隅を強引に開けてみます。
その空間には、もう一つの扉がありました。私はとりあえず中に入ってみます。
「ほ、穂高が消えた?!」
「ちゃんといますって」
「か、壁から顔が出てきた?!…って穂高?!」
「信じてくれなさそうなので、ちょっと行ってきます。作戦会議、進めておいてください」
部長が何かを言っていたけれども無視をしました。そのまま、奥の部屋に入ってみます。
奥の部屋の扉を開けると、そこにいたのは一人の男性でした。
「あ、もう少し待ってね。お茶が入っていないんだ」
「え?別にいいんですけど…」
「君も、この部屋に入ってきたら客人なんだよ?そこに座って待っていてくれるかな?」
そういわれたので、私はおとなしく椅子に座ります。
その人は笑顔を絶やさない人でした。…まあ、普通の人じゃあないってすぐに分かるんですけどね。だって、魔力が私や副部長よりも多いから。それだけならまだしも、私しか見えない部屋を持っているのでおかしい。
「はい。お茶」
「あ、ありがとうございます」
その人はお茶を持って来てくれた。あ、ジャスミンティーだ。心が和む、いい香りですね。
「えっと…貴方は誰なんですか?」
「僕?僕はフロラだよ。花の神。君は穂高沙希ちゃんかな?初めまして」
「えっ?!」
私は正直、驚いた。だって、私の名前を言っていないのに当てるんだもん!!と、言うより花の神って言いましたよね?!
「ギリシア神話にも、同じ名前の人が出てくるよね?でも、その人とは違うよ。僕が女に見えるかな?見えないよね?似ているようだけど、全然違うよ」
「え…。え?!」
「そんな人が何で自分に会いに来たのか、知りたいよね?」
神様って本当にチートだと思う。酷い。ゲームで課金してるくらい酷い。
「僕は、君に力を分けてあげようと思って来たんだ」
そう言って、フロラさんはニッコリと笑った。
「僕の力、弱いって思う?」
「…すみません。思いました」
「うん。普通はそう思うよね?でも、本当は強いんだ。例えば…アヘンを使って幻覚を見せたり、花言葉を使って花を出す。他にも花が使われている言葉でも使えるし、何よりも花は風を見つけてくれる。迷ったときに花を作り出して花弁を宙に浮かせれば、出口が見えるんだ」
最初に聞こえたものはむ、無視をしても大丈夫だよね?!アヘン戦争、怖そう…だって、麻薬を狙っての戦争なんだよ?!怖いにも程がある!!
「僕の力は確かに使うことなんてほとんど無い。けれど、使い方によっては本当に君の役に立ってくれるよ。
君の好きなプリムラは、君の運命の扉が少しずつ開いていることも知っているみたいだよ」
プリムラ。花言葉は「運命を開く」
私の運命が、どんな方向に開いているのか、あえて聴かないでおいた。そのことをフロラさんは何も言わなかった。
そうして、気がつくと、私は部屋の中にはいなくて、あの、壁の前にいた。
「?!」
え?!何の能力かの説明もしてもらってないよ?!私はどうしていいのか分からなくなった。思わず部屋の壁を叩きつけてしまう。…何で相手もいないのに壁ドンなんかしてるんだろう…。
「え?!ほ、穂高先輩?!何でこんなところにいるんですか?!」
「…フロラさんが、消えた?!」
「え?な、何言ってるんですか?!穂高先輩?!」
そこで、涼也君の声がしたことに気がついた。慌ててそちらを見る。
「…みんなは?」
「あ、今お風呂に行っています。と、言うより!!穂高先輩、ずっと壁の中にいたんですよ?!何があったんですか?一時間も」
「え?い、一時間もだったの?…全然分からない」
「そ、そうなんですが…色々と状況が変わってきましたね」
「…今、気がついたよ?」
涼也君の視線を追うことができないのが辛い。私は溜息をついた。
で、最終的に逃げ出そうとする私を部長が羽交い絞めにしてきた。しかも本気で。女の子に対して全力って何さ!!…まあ、自分でも本当に女なのか分からなくなってきてるけど!!部活の中では女の子扱いされてないけどね!!
「ギブギブギブ!!痛いっ痛いっ!!」
「説明しろ。何があった!!」
で、そのまま公開処刑。皆さんに囲まれています。
私、一番問い詰められることが嫌いなんだよ?もーいやだ。
「だーかーらー!!さっきから言ってるじゃあないですか!!本当なんですって!!見せましたよね?花が勝手に出てきましたよね?!魔力も減っていないって副部長が言いましたよね?!」
「うっせぇ!!何でこうなったのか説明しろ!!どこへ行ってた?何をしてた?!」
「さっきから説明してますよ!」
最初に魔力を見てくれた副部長が信じてくれました。それにつられて他の人も信じてくれます。…部長以外の人は!!何で信じてくれないのかな?!
「ケンさん。本当ですって。だいたい、こいつは嘘をつくのが苦手でしょう?」
「シロ。考えてみろ。こいつは、人に絶対に話すなって言われていることだけは隠し通すのが上手なんだ。絶対に何かあるに違いない」
「八月さんも、調べたじゃあないですか!!魔力は関係ないって」
この人は人をどれだけ疑うのだろうか。本当に知りたい。花を出して「神様からこんな能力をもらいましたー」って言ったら確かに信じないだろうけど魔力も見てもらったんだよ?!そして、何も無いことが判明されたんだよ?!
「まあ、今日のところは終わろう?穂高の体力がとても危ない。この話は後でもいいから」
そういう副部長の声で私は部屋に返してもらえました。無事、生還でございます。生きてるよ。私。
「沙希先輩。寝ます?」
「寝ます」
本当は寝るなんてできないって思ったでも、布団に入ったら速攻で寝ていました。人ってすごい。
で、気がついたら朝。それも、私だけ完全に寝過ごしている、と言う状況。
「反省しています…」
「まあ、疲れてたんだろう。…半分は、ケンさんのせいでね」
「…何でだよ」
どれだけ起こそうとしても起きる気配が無いようでした。すごいね。私。
「で、今日もお金を稼ぎに行きますよ」
「りょうりょう」
「…お前は何もできないだろ?頑張って怪我を治しとけ」
「りょー」
戦力外通告。すごく悲しいです。…分かっていたけれども!!
「……ん?何か、おかしい?」
「…そう、みたいだな。誰かがいる」
昨日の平原まで戻ろうとしていたんですが、皆さんが足を止めました。私も足を止めます。
「闘争心がありますね」
「全員で十人程度か?…どうする?見ているか?それとも、駆逐するか?」
「部長がアニメの見すぎ、と言う件について話し合ってみない?」
「…時代の流れに乗っただけだ!!別にいいだろ?!」
必死の弁解中。少年漫画よ。輝け。
「ちょっと見てみましょうか。話はそれからです」
「どうやって?…あ、美空がいるか」
「はい!!」
美空が鷹を呼んだ。そして、上空に放つ。立ちはだかる人の群れを、観察し始めた。まあ、何人いるかも分からないけどね?
『ちっくしょー。面倒くせぇ人数だなぁ。全員。聞こえてっか?』
「?!」
『俺の魔力を使って会話してんだよ。えっとなぁ。男性ばっかり十人いる。武器も持ってる。それに、何かを縛るように縄もな。つまり、奴隷狩りって事で、うちの主人と主人の友人さんが狙われてるみたいだな。昨日の商売人だろ。美人は高く売れるからな。色々な意味で』
つまり、鷹が魔力を使い、会話をしてくれているみたいです。すっごいワイルド。カッコイイ。
『お前らが来ることを分かっているみたいだな。奇襲、掛けた方がいいぜ。全力で倒すんだったらな』
鷹が戻ってきます。な、なんか印象が変わった。カッコイイ。
「じゃあ、奇襲をかけてみますか。1560年5月,尾張桶狭間で織田信長が今川義元を奇襲して敗死させた戦いのように」
「おー!!」
なんか、こうやって聞くとかっこよく聞こえる。副部長、やばし。
で、本当に奇襲をかけちゃうんですけど、うちのグループ、まだまだ弱いんですよね。
この世界に来て、一ヶ月ちょいですからね!!
『譲ちゃん。ちと、やばいな』
「ですね」
『ところで、譲ちゃんの力はなんなんだ?神、フロラと似たり寄ったりなんだが…』
「?!」
で、何でばれているのか。しかも、何も知らないはずの鷹に。
『おっと。余計な詮索は止めた方がお互いのためだ。で、その力を何で使わないんだ?』
「何で、と言われましても…」
『なら、こんな言葉を使ってみな』
鷹が近づいて、「ある言葉」をささやきました。
「…つ、使ってみます」
『おう。頑張れよ』
鷹は翼を広げて、敵に向かっていきました。
翼ーはためーかーせー行きたいー…どうでもよかったね。うん。
「えっと…百花繚乱!!」
教えてもらった一つの言葉「百花繚乱」全然使う意味は違う。けれど、その技は美しかった。
人々を囲うように花が咲き乱れる。人の姿を隠すかのように、多くの花が咲き誇っていた。この技には私も、部員も、敵も、全員が驚いていた。唯一、鷹だけは笑っていた。
『その通りだ。譲ちゃん』
「はーい」
何度切ろうとしても、花の生命力はすごい。たくさん、咲き始めた。そして、最後の一言
「百花斉放!!」
そのわざと同時に、百花繚乱で出していた花が散る。その花びらは、人に向かって飛んでいった。
味方にあたっても、フワッと舞うだけだ。しかし、敵に当たると、それは弾丸のように突き刺さっている。な、なんて怖い…。
「ぐぬっ!!」
「ふ、ふははははー。思い知ったかー」
「…棒読みっ!!」
この状況内で、部長も信じる、という選択肢しかないようだった。
最終的には勝てたんですけど、一体、この力はなんなんでしょうね。
この話は、続きも書いております。
暇があれば更新するかもです。