Ⅱ─交錯する過去─
2話目です。
どれだけ続くか分かりませんが、頑張ってみようと思います。
では、どうぞm(._.)m
「ただいま」
穣は自宅の玄関で、呟くように言った。
「お邪魔しまーす」
律儀に言う乳白色の球体を、彼はチラッと一瞥した。
階段を上る途中、アリスの声は不思議そうに尋ねた。
「人間の世界の家は窮屈ね。まるで箱か何かの中みたい」
一体何者なんだろう、と穣は思う。
人間ではなさそうだが、そんなことを簡単に信じるほど穣は純粋ではなかった。
部屋に着くと、早速穣は問いかけた。
「一から説明してくれ」
白い球体は部屋の中央で静止し、アリスの声は語り始めた。
「私の本名はコローナ・ボレアリス。かんむり座よ」
「ちょっと待て。かんむり座?」
「ええ。88星座の1つよ。知らないの?」
「知ってるけど……信じるわけ……」
「信じてもらおうなんて思ってないわよ。とりあえず話を聞いてほしいの。で……かんむり座には7つの宝石があるの。それぞれの星に1つずつ、宝石が祀られていたわ。でも……ある日、そのうちの1つが盗まれたのよ!」
憎々しげに言い放ったアリスの声に、穣も信じざるを得なくなった。
彼はため息を吐いて、苦笑した。
「つまり……犯人を見つけて宝石を取り返せ、と?」
「ええ。もちろん私も協力するわ。お願い……できるかしら?」
穣は決意の表情で言った。
「……分かった。協力する」
「本当!?」
声だけでも表情が想像できるほど明るい声音で、彼女は叫んだ。
「あ、あぁ……でも何で俺なんだ?」
「……貴方のお父様……彼小見優様、よね?」
思わぬ切り返しに、穣は狼狽える。
「父さん?」
「貴方のお父様は……しし座だったのよ。不死身という力を持った、とても強いお方だったわ……」
アリスの声はしみじみと語った。
穣は歯を食いしばった。
そして口を開き、噛みしめるように言った。
「父さんは……3年前に、死んだよ。家族皆で買い物に行ったとき、事故に遭って。不死身なんかじゃ……なかった」
俯く。
アリスはそれを察したらしく、勢いを失った。
「ごめんなさい……でも、それが貴方を選んだ理由よ」
半分宥めるような口調で、彼女は言った。
でもその声に、意志の揺らぎはなかった。
「わがままだって分かってるわ。でも私のすべきことだから」
淀んだ空気を消すように、アリスの声は笑った。
「明日ここに私の友達を使わせるわ。詳細はそのときに」
それだけ言って、彼女の声は消えた。
同時に、空中に浮かんでいた球体が床に着地した。
その音がひどく重く感じたのは、フローリングの床のせいなのだろうか。
それとも……彼の心境そのものなのだろうか。
お楽しみいただけましたでしょうか?
次回は新キャラ登場です。
では、3話目でお会いしましょう。