第一話 僕の心に生まれたやつ
次に意識が覚めた時、僕は村のど真ん中に立っていた。周りの家や、木々はまだ燃えていた。自分は何をしているんだろうと思ったがすぐに思い出した。
「・・そうだ!ドラゴン・・・。」
僕はあたりを見回した。ドラゴンはぐちゃぐちゃになっていた。首や右足、尻尾も体と離れており、切断面からは、紅い血がドクドクと流れていた。
「うっ・・うえっ・・・。」
僕は思わず吐いてしまった。あわてて右手で口を押えようとした。そして、僕は気づいた。自分の手がドラゴンのであろう返り血で紅く染まっているということに。
「え?・・・・どういうこと?僕がドラゴンを殺したの?こんなにむごく・・・。」
僕は僕自身のことが全く理解できなかった。
(そうだ!まだ生き残っている人がいるかもしれない!その人に聞こう!)
とりあえず、村人の生き残りを探した、10分ほどで生き残っている女性が見つかった。僕はすかさず、その女性に聞いた。すると、
「来ないで!化け物!」
「え!?」
いきなり化け物扱いされた。まったく理解できなかったので思わず
「化け物?僕が?」
と聞いてしまった。
「そうよ!あんたがあのドラゴンを殺したのよ!あれは化け物にしか見えなかったわ!」
「そんな・・・ぼくが・・・・。」
しばらく呆然としていると、後ろから声が聞こえてきた。振り向くと、二人の衛兵が立っていた。
「きみか?あのドラゴンをたおしたのは。」
「・・・」
「なんで何も話さないんだ?」
その時、女性が口を挟んだ。
「間違いないわ!見間違えるはずない!」
「・・・とりあえず、君は危険人物として牢獄に入ってもらう。」
僕の頭の中は真っ白だった。とにかく、何も考えることができなかった。
ここは牢獄の中、ケイトは牢屋の中にはいっていた。ケイトは寝るためのベッドに腰かけていた。
(どうしてこんなことに・・・)
「ここからでたいか?」
「!?だっ、だれ!?」
いきなり声が聞こえてきた。あのときとまったく同じ声だった。
「お~い、ここさ。」
ケイトは唖然とした。なんと、自分の体から聞こえてきたのだ。
「・・・えっ!?何!?」
「やっときづいたか?」
まったく今の状況が理解できない。とりあえず、声の主に聞いてみた。
「君は・・・だれ?」
するとまた、体の中から声が聞こえてきた。
「俺はジルヤ。俺はあんただ。」
「はい?」
まったく意味が分からない。何?「俺はあんただ」って。ジルヤと名乗る人物(?)にまた、聞いた。
「どういうこと?「俺はあんただ」って。」
「そのまんまの意味さ。」
「・・・?」
やばい、あたまがごっちゃになってきた。とりあえず、今日起こったことの確認をしよう。
1 学校でいじめられた
2 帰ると、村がドラゴンに襲われていた。
3 急に意識が吹っ飛んだ。
4 気が付くと、自分の両手が血でべっとり。
5 牢屋にぶち込まれる
6 ジルヤと名乗る人物(?)が自分の体から、自分に話しかけてくる。
まずは1から、1は、いつも通り、きょうもいじめっ子にいじめられた。全く問題ない。次に2だ。厳密にいうとここからおかしい。村が襲われるなんてそうそうあるわけじゃない。だけど、これは後で、確認すればいい。とりあえずあっていると仮定しながら、3に行こう。3は問題なし、2があっているのなら3もあっている。そして4、これも悲しいが全く問題ない。現に自分の手を見てしまったのだから。5、はい、ぶちこまれました。現にいまぼくは牢屋に入れられている。問題なし。最後に6、・・・問題あり。普通、自分の体が自分自身に話しかけてくるなど見たことも聞いたこともない。だけど今、ありえないことが起こっている。なぜ?
「ジルヤって言ったよね。君は何者なの?」
「・・・多重人格ってわかるか?あんたと俺がそうだ。」
「フッ・・フ~ン」
ひとつわかったことがある。このことを理解するのは「不可能」だということだ。確かに多重人格のことは聞いたことはある。だが話すことができるなんてありえない。とりあえず、話を戻すことにした。
「そっそれよりさぁ!ここから出たいかって、どうやって脱出するの!?」
「あぁそうだったな。方法はまず、俺にあんたの体を一時的に使わせてもらう。やり方は俺が知っているから問題ない。あとは強行突破だ。」
全く理解できな・・・おっと、もういいか、理解する必要なんてなかったな。
「なるほど。」
「てな感じだ。牢獄から出るか?」
「う~ん・・・」
実際かなり悩む、脱獄はおそらくジルヤに任せば成功するだろう。しかし、そのあとどうする?帰る家もなくなったし、第一ここがどこかわからない。それに、脱獄囚として指名手配されるかもしれない。そうなると、逃げつづけるのはかなり、難しいだろう。しかし、このまま、牢屋で過ごしていても意味は全くない。「実は多重人格なんです。」なんて言っても、信じてくれるわけない。僕は数十分悩んだ末に、結論を出した。
「頼む、ジルヤ。僕をここから出してくれ。」
「了解!じゃあ失礼するぜ。」
今度は意識が途切れなかった。しかし、なんとも変な感覚だ。ジルヤが見ている光景も見え、ジルヤが感じている感覚もある。だけど体は勝手に動く。自分の思いどおりに体が動かないのだ。
「・・・なんかへんだな。」
「ハハッ、そうだろ!」
ジルヤが言っていた「俺はあんただ」っていう言葉が今やっと理解できた。なるほど、確かにそのまんまだ。ジルヤが動くと自分も動く、ジルヤが笑うと自分も笑う、ジルヤが人を殴ると自分も人を殴る(感覚がある)。こういうことだったのか。
こうして、僕とジルヤの旅が始まったんだ。こんな形で旅が始まるとは、思いもしなかったんだ。
っていうか、題名にジルヤのことを「やつ」って言ってる割にはそこまで悪い奴じゃない件について。(題名を変えるつもりはありません)