貧乏冒険者 トールの一日
「冒険者の町」として知られるゲートルードでは、毎日様々な依頼が冒険者ギルドに持ち込まれる。凶悪な魔獣の討伐や、希少な素材等を集めるといった依頼はまさに「冒険者にしかできない」特別な仕事である。
しかしすべての冒険者がそういった依頼をこなせるわけではない。むしろそういった依頼よりも簡単な依頼しかこなせない冒険者の方が圧倒的に多いのだ。冒険者ギルドの依頼板の前で依頼を探している、トーマ・スレインもその一人である。
「うーん……中々いい依頼が無いな。どれもこれも報酬額が安すぎる」
依頼板に乗っているのは迷い猫を探してくれだの、引越しの手伝いをしてくれだのといったお手伝いレベルの仕事しかない。ぶっちゃけていえばギルドに持ち込むような仕事ではないものばかりである。トールはこういったお手伝いレベルの依頼自体を嫌っているわけではない。通常ギルドに持ち込まれないような依頼が実際持ち込まれているということは、それだけ依頼者が困っている証だと言い換えることもできるのだ。だから懐に余裕があった時にはこういった依頼を積極的に受けていた。
「金さえあれば、こういった依頼でも一向に構わないんだけども……今はなぁ……」
そう言うとトーマは財布を取り出し中身を確認した。
「……本格的にやばいな。財布に銅貨10枚とか、子供の小遣いレベルじゃねえか」
ちなみに銅貨とは最も流通している貨幣であり、当然その価値は高いものではない。銅貨一枚で屋台で売っているような串料理一本が買える程度と言えば、トーマの財布の中身がどれほど寂しいものかわかるだろう。
「おーう相変わらずしけた面しやがって。なんだ、まだソロでやってたのか? いい加減パーティー組んでいけって前も言っただろうに」
「うっさいな、おっさん。そっちはどうなんだよ」
「ん、俺らか? 俺らはほれ、優秀なリーダーの下に優秀な連中が集まってるからな。いつも通り順調に依頼をこなしていってるぞ」
話しかけてきたのは複数のパーティーからなる集団であるレイド【黒狼団】のリーダー、フォラス・ダーネルスである。歳は40ほどの大柄な男であり