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エピローグ

 あの日、俺は世界を敵に回して、アイドルを失った

 

「――佐藤。お前、またやったそうだな」

 事務所の役員室。革張りのソファに深く腰掛けた男が、吐き捨てるように言った。

 デスクの上に叩きつけられたのは、一週間の活動報告書と、数枚の週刊誌のゲラ刷りだ。

 

「……何のことでしょうか」

「惚けるな。新曲のプロモーション、予定されていた三つの深夜番組をすべてキャンセルさせただろう。それも、本番当日にだ」

「アイドルのコンディションが最優先です。あのスケジュールは殺人的でした。彼女たちのメンタルが限界だったんです。そのまま出演させていれば、取り返しのつかないことになっていました」

「利益を考えろと言っているんだ! 代わりの補充なんていくらでもきく。アイドルなんてのは、一番輝いている時期に使い潰して、次の駒に乗り換える。それがこの業界の正解なんだよ」


  その言葉を聞いた瞬間、俺の視界は真っ暗に染まった。

 この男は知らないのだ。彼女たちがどれほどの血を吐くような努力をして、あのステージの光を掴み取ったのか。彼女たちの笑顔が、どれほど多くの人間の救いになっているのかを。


 「……補充がきく、ですか」

 俺は冷めた声で言い返し、辞職願をデスクに置いた。

「彼女たちは『駒』じゃない。俺の、俺たちが命を懸けて輝かせる宝石だ。それを理解できない人間とは、これ以上仕事はできません」


 それが、俺が日本の芸能界から「干された」瞬間だった。

 あまりに彼女たちを守りすぎた。

 スキャンダルを揉み消すために裏社会の連中と渡り合い、過酷な労働から救うためにスポンサーを敵に回し、ファンという名の暴徒から彼女たちを物理的に守るために、俺は全身傷だらけになった。

 業界からは「使いにくい男」の烙印を押され、居場所を失った。

 そして――最悪の夜が来た。

 

 俺が現場を離れた後、無理なスケジュールを強いられた彼女は、過労による判断ミスの末、ステージから転落した。

 俺が傍にいれば。

 誰に何を言われようと、あの場に俺が立ってさえいれば、彼女を、彼女たちの未来を守れたはずなのに。


 降りしきる雨の中、彼女の葬儀の帰り道。

 俺の意識は、猛スピードで突っ込んできたトラックのライトに飲み込まれた。

(……もし、次があるのなら)

 薄れゆく意識の中で、俺は呪いのような執念を刻みつけた。

(次こそは、誰にも邪魔させない。法が、権力が、世界そのものが彼女たちの敵になるというのなら――俺がそのすべてを、叩き潰してやる)

 暗闇が晴れた時、俺は異世界の、弱小貴族の三男坊として赤ん坊の産声を上げていた。

 前世の知識。芸能界の裏表。そして、人の才能を見抜く「鑑定眼」。

 

 すべては、この瞬間のためにあったのだ。

 俺は今、王都のゴミ捨て場のような路地裏に立っている。

 目の前には、泥にまみれ、世界から「呪われている」と否定された少女が一人。

「……あ、あ……歌えない……私は、もう……」

 掠れた声で泣く彼女の喉元に、俺は見た。

 かつて俺が守れなかった、あの輝きを凌駕する「伝説」の萌芽を。

 心臓が、歓喜で爆ぜる。

 

 さあ、二度目のプロデュースを始めよう。

 今度は、一人も欠けさせない。五人全員、俺が天辺まで連れて行く。

「――お前、そこで何をしている」

 俺は、運命の少女に向かって、最初の一歩を踏み出した。

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